いよいよ今週キャンプインするプロ野球。ルーキーではやはりドラフト1位の選手に高い注目が集まるが、過去にも下位指名ながら1年目から活躍を見せている選手は少なくない。そこで今回はそこまで知名度は高くないものの、今シーズンが楽しみな“無印ルーキー”をピックアップして紹介したいと思う。今回は投手編だ。

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 まず1年目からリリーフとして一軍定着の期待がかかるのが船迫大雅(西濃運輸→巨人5位)と宮内春輝(日本製紙石巻→日本ハム6位)の2人だ。船迫は聖光学院では3年夏にエースとして甲子園に出場。東日本国際大でも1年春から主戦となり、数々のタイトルを獲得するなど活躍したが、当時はまだまだ体が細く、大学4年時にはプロ志望届を提出しながらも指名は見送られている。社会人でも2年目までは大きく印象は変わらなかったが、3年目からストレートが見違えるように力強くなり、4年目にしてプロ入りをつかんだ。

 体はそれほど大きくないが、躍動感あふれるフォームで、サイドから繰り出す140キロ台後半のストレートは打者の手元でホップするような勢いがある。大学時代から巧みな投球術にも定評があり、スライダー、シンカー、シュートなど変化球のレベルも高い。昨年も都市対抗の本選こそ優勝したENEOSに攻略されたが、全国一の激戦と言われる東海地区予選では4試合(先発2試合、リリーフ2試合)に登板し、防御率0.52という圧倒的な成績を残している。

 一方の宮内も150キロ近いスピードが魅力の本格派サイドスロー。明星大では首都大学野球の主に二部でプレーしていたこともあって全国的には無名の存在だったが(3年春、秋のみ一部でプレー)、変則的なフォームと勢いのあるボールが評価されて日本製紙石巻に進んだ。社会人ではリリーフとしての起用ということもあって大きな大会で目立った実績は残していないものの、着実に力をつけて支配下69人中61番目の指名でプロ入りを果たした。船迫に比べると少し安定感には欠けるものの、イム・チャンヨン(元ヤクルト)を彷彿とさせるダイナミックなフォームで、打者を球威で圧倒することができる。鋭く変化するスライダー、カットボールも面白いボールだ。ともに今年で27歳ということもあり、1年目から一軍定着を期待したい。

 投手としてのタイプは異なるものの、同じリリーフタイプとして即戦力の期待がかかるのが橋本達弥(慶応大→DeNA5位)だ。長田高校時代から評判の本格派で、高校3年夏の兵庫大会では準々決勝で優勝した報徳学園に敗れたものの、被安打3、1失点の好投を見せて、この年のドラフト1位で4球団が競合した小園海斗(現・広島)もノーヒットに抑え込んでいる。

 慶応大では3年春からリリーフとして投手陣の一角に定着すると、4年春には最優秀防御率のタイトルを獲得。通算36試合の登板で2勝ながら、防御率は1.19と見事な成績を残した。好調時のストレートは150キロを超え、ボールの角度も申し分ない。カットボール、スプリットと空振りを奪える決め球が2つあるのも大きな強みだ。ここ数年リリーフでフル回転していた三嶋一輝が病気もあって昨年は成績を落としているだけに、1年目から一軍のブルペン陣に加わる可能性は十分にありそうだ。

 年齢的にはここまで紹介した選手より若いものの、好調時の投球を取り戻せばという条件付きで名前を挙げたいのが河野佳(大阪ガス→広島5位)だ。広陵高校時代から3年春の選抜では最速150キロをマークするなどエースとして活躍。大阪ガスでも2年目から主戦となると、社会人の年間表彰の対象となる大会で6勝0敗、防御率0.21という圧倒的な成績を残し、最多勝、最優秀防御率、ベストナインのタイトルを総なめにした。

 3年目の昨年は相手チームから研究されたこともあって成績を落としたものの、それでもドラフト後に行われた日本選手権では復調の兆しを見せたのは好材料だ。今年で22歳とは思えない投球術と制球力の高さが持ち味で、好調時のストレートは150キロも超える。一昨年のような投球ができれば、いきなり1年目からローテーション争いに加わることも十分に期待できそうだ。

 河野と同じく高校卒3年目でプロ入りした投手では林優樹(西濃運輸→楽天6位)、富田蓮(三菱自動車岡崎→阪神6位)の2人も実績はそれほどないものの、着実な成長を見せており、貴重なサウスポーだけに楽しみな存在となりそうだ。

 最後に育成ながら即戦力の可能性を秘めているのが松井颯(明星大→巨人育成1位)だ。花咲徳栄時代は野村祐希(現・日本ハム)の控えの4番手で、3年夏の甲子園でも1イニングのみの登板に終わったが、明星大進学後に大きく成長。最終学年ではエースとなり、首都大学野球の二部リーグながら春、秋とも圧倒的な成績を残した。最速154キロのスピードが報じられることが多いが、コーナーに投げ分けるコントロールと変化球も高いレベルにある。

 巨人のスカウトからも育成まで残っていたことが驚きだったという発言が聞かれたほどだ。一昨年は水上由伸(西武)、昨年は同じ巨人の菊地大稀が育成ドラフト出身ながら1年目から一軍の戦力となり、水上は2年目には新人王にも輝いているだけに、松井もそれに続く飛躍を期待したい。

(文・西尾典文)

●プロフィール
西尾典文 1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行っている。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。