V奪回を狙う巨人は、将来を嘱望される若手が多い。昨季頭角を現した増田陸、ドラフト2位の萩尾匡也は外野のレギュラーを虎視眈々と狙い、ドラフト4位の門脇誠もパンチ力のある打撃と手堅い遊撃の守備で、「ポスト坂本勇人」の声が上がる。大学で1年春から4年秋まで公式戦全試合フルイニング出場と心身がタフであることも、大きな強みだ。

 その中で、他球団のスコアラーが「モノが違いますよ。あんな選手は他球団にもいません」と苦笑いを浮かべる選手がいる。プロ3年目の秋広優人だ。

「フリー打撃でバットに当たる音が違う。ガツンと当たるような衝撃音で飛距離も凄い。大げさでなく、松井秀喜さんを彷彿とさせます。器用だから実戦で当てにいくような打撃が見られますが、三振してもいいので振り抜けば凄い選手になる。30本塁打でなく、40〜50本塁打は狙えますよ。他球団なら7番あたりですぐに結果を残せなくても、使い続ける可能性がある。それだけの価値がある選手だと思いますね」

 身長2メートルは球界最長身。昨年は1軍出場なしに終わったが、イースタン・リーグで109試合出場して打率.275、9本塁打、38打点をマークし、最多安打(98安打)のタイトルを獲得した。前述のスコアラーが指摘したように、秋広は体が大きいにもかかわらず、粗いさがなく器用だ。難しい球もヒットゾーンに飛ばす一方で、9本塁打が物足りなく感じてしまうのは、長距離砲として大きな可能性を秘めているからだろう。

 今年にかける思いは強い。頭を五厘刈りに丸めて、中田翔との自主トレで100キロから6キロ増量。体が分厚くなり、スイングスピードも鋭くなった。以前は線が細く感じられたが、ひ弱さを感じない。首脳陣の期待も大きい。WBCで侍ジャパンに岡本和真が選出されたため、秋広が出場機会を増やすために春季キャンプで三塁の守備位置に入り、ノックを受ける場面も。レギュラー獲りの大きな問題点は守備位置だ。本職の一塁は中田翔がいる。外野も守れるが、左翼はウォーカー、中堅は新外国人のブリンソンがレギュラー最有力候補となっている。

 スポーツ紙記者は、「一塁の守備もまだまだ。キャンプ中の守備練習でもゴロ処理でミスが多かったため、川相昌弘総合コーチからゲキを飛ばされる場面がありました。ある程度の守備力がないとレギュラーで使われるのは厳しい。ただ、あの打力を1軍で使えないのはもったいないという声も理解できます。パ・リーグのように指名打者制だったら間違いなく起用されているでしょう」

 将来を嘱望されているが、「まだ高卒3年目」という意識は秋広にないだろう。松井秀喜氏は高卒2年目に130試合出場で打率.294、20本塁打、66打点をマーク。坂本勇人が遊撃のレギュラーをつかんだのも高卒2年目だった。他球団に目を移しても、ヤクルトの村上宗隆は高卒2年目に36本塁打、96打点とブレークし、山田哲人も高卒3年目に94試合出場で打率.283、3本塁打、26打点、9盗塁と1軍定着。その後にトリプルスリーを3度達成と球界を代表する選手に変貌した。

 和製大砲はなかなか育ちにくい。秋広の才能をどう輝かせるか。球団の育成手腕も問われる。(今川秀悟)