カタールW杯終了後の欧州リーグの中で、三笘薫(ブライトン)、久保建英(レアル・ソシエダ)の2人を筆頭に日本人選手の活躍が目立っている。だが、その一方で出番に恵まれずに“くすぶっている”選手も多くいる。今月1日に香川真司(シントトロイデン→C大阪)の12年半ぶりのJリーグ復帰が発表され、同7日には井手口陽介(セルティック→福岡)もレンタル移籍での国内復帰が決まったが、その他で近々、国内復帰の可能性のある選手、期待したい選手をピックアップしたい。(各選手の今季成績は2月8日現在のもの)

 今夏の退団、移籍が取り沙汰されているのが、日本代表の主将としてカタールW杯に出場したDF吉田麻也(シャルケ)だ。サンプドリアとの契約が切れた昨夏にも去就に注目が集まったが、結果的にドイツ1部クラブからのオファーを受けて欧州でのプレーを継続。しかし、契約期間は1年。現地ビルド紙の報道によると「公式戦25試合出場」と「チームの1部残留」の2つの条件をクリアすることで1年間の契約自動延長というオプションが付帯しているというが、チームは現在19試合消化して勝点11。自動残留の15位まで勝点差8の最下位に沈んでいる。残り15試合で巻き返しは可能だが、見通しは明るくない。たとえ残留に成功しても、吉田のパフォーマンスに対する評価も芳しくない。それでもJクラブにとっては類稀なリーダーシップを含めて依然として魅力的な人材であり、古巣の名古屋のほか、CBが枚数不足で資金力のある神戸、昨夏にも名前が上がった浦和といったクラブが“帰還先”として名前が挙がっている。

 スペイン2部リーグでプレーする日本代表MF柴崎岳(CDレガネス)も、今夏以降の去就が不透明だ。今季が3年契約の最終年。カタールW杯期間中も2部リーグ戦が継続していた影響があった中でも、ここまで26試合中19試合(スタメン13試合)に出場しているのはチームの中心選手の証ではある。だが、決して“不可欠な”という選手ではなく、ボールが自身の頭上を行き来するサッカーにフィットしている訳でもない。順位的にも現在8位と1部自動昇格圏は遠く、5月に31歳となる年齢的にも延長オファーは微妙な状況だ。今冬にも古巣・鹿島からのオファー報道があった。現契約は2023年6月まで。国内復帰となれば鹿島が最有力だが、青山田高校時代の恩師・黒田剛監督が今季から指揮を執るJ2・町田への電撃移籍も可能性としては考えられる。いずれにしても柴崎の優れた技術とパス能力を今以上に生かせるチームは、Jリーグの中に多くある。

 同じく元鹿島で、2019年7月にスペインに渡ったMF安部裕葵(バルセロナB)も、今夏が国内復帰を決断するひとつのタイミングになる。日本人選手がブラウグラーナのユニフォームに袖を通した“衝撃”はあったが、度重なる故障もあってBチームからのステップアップは果たせず。同時期にレアル・マドリードと契約した久保建英の現在とは対照的に“忘れられた存在”になっている。だが、選手としての才能に疑いの余地はなく、高い俊敏性を生かした鋭いドリブル突破は誰もができるものではない。まだ24歳になったばかり。現契約は2023年6月まで。スペインでの4年間は、現時点では「失敗」だったが、まだ取り返す時間と方法はある。国内復帰ならば古巣・鹿島が第一候補。自身の再起へ向けてどのような決断を下すのか、注目が集まる。

 この数カ月の間に状況が一変したのが、31歳のMF森岡亮太(シャルルロワ)である。神戸から2016年1月に24歳で海を渡って以降、ポーランドを経て長くベルギーで活躍を続けてきたゲームメーカー。正確かつ意表を突くパスと非凡な得点センスで、昨季はリーグ戦30試合で4得点10アシスト、プレーオフでも6試合4アシストと攻撃の中心として存在感を見せていた。そして今季も開幕から14試合終了時点で10試合にスタメン出場していたが、チームの成績が低迷して監督が解任されると一気に序列が低下。新体制の下でリーグ戦10試合を戦っているが、スタメン出場は1試合(12月26日のアンデルレヒト戦)のみ。直近2月5日のメヘレン戦はベンチ外となった。シャルルロワとの契約は2024年6月まで残っているが、退団の可能性が急浮上している。今冬にはJ2・長崎がオファーを出したとも噂されたが、国内復帰なら古巣の神戸が最優先。イニエスタの後釜として迎え入れる段取りを進めるべきだ。

 昨年7月から1年間のレンタル移籍でポルトガルに渡ったDF小川諒也(ヴィトーリア)も苦しい状況が続いている。ダイナミックな攻め上がりと高精度の左足クロスを武器に日本代表にも招集されたこともある左サイドバックだが、今季ここまでリーグ戦19試合中、出場6試合(スタメン2試合)のみ。「ポルトガルのサッカーに適応できていない」との現地報道もあり、昨年11月13日の第13節以降は7試合出番なし(ベンチ入り4試合、ベンチ外3試合)とほぼ構想外となっている。日本を発つ際には「(他の海外日本人選手たちと同様に)自分も海外に行って、新しいサッカーを学びたい」と海外挑戦の理由を話したが、満足にピッチに立てない環境下では得るものは少ない。レンタル期間が終了する今年6月での退団は確実。欧州でのステップアップは厳しく、保有権を持つFC東京への復帰が既定路線だ。

 同じくレンタル移籍の立場であるFW前田直輝(ユトレヒト)も苦しい状況が長く続いた。東京Vの下部組織出身で高い技術を持った左利きのドリブラーで、名古屋時代の2019年にシーズン2ケタゴール(10得点※ルヴァン杯を含む)を記録するなど得点能力も高い。だが、オランダでのデビュー戦となった昨年1月16日のアヤックス戦で左下腿骨折の大怪我を負って長期離脱。その不運に見舞われた中でも昨夏にレンタル期間の1年間の延長が決まったが、故障から復帰した今季も、ここまでリーグ戦20試合中7試合(スタメン2試合)出場と出番は限られている。しかし、2月7日に行われた国内カップ戦で後半途中から出場すると、延長前半3分に待望の移籍後初ゴール。この“結果”で一気にチーム内の立場を変えられるか。現在28歳。本人は欧州でのキャリア継続を希望するだろうが、Jリーグでこの男を欲しがるクラブは古巣・名古屋を含めて多いはずだ。

 もう一人、前田とは同学年で小学生の頃から東京Vのアカデミーでしのぎを削りあった間柄でもあるMF中島翔哉(アンタルヤスポル)の去就も気になる。圧倒的なドリブルスキルで森保ジャパン発足当初のエースだった日本代表の元10番。FCポルト在籍時のコロナ禍を契機に出番を失い、UAEのアル・アイン在籍時には腓骨骨折および靱帯断裂の重傷を負うなど不遇の時を過ごし、2022年9月からトルコ1部でプレーしている。しかし、9月17日の本拠地デビュー戦で、後半途中出場からわずか15秒で一発レッド。その後、故障離脱もあって加入後のリーグ戦16試合中、出場9試合で0得点0アシストと結果を残せていない。現クラブとの契約は2024年6月まで。コンディションさえ万全ならば、依然として日本人トップクラスのアタッカーであることは間違いない。まだ28歳。Jクラブからすれば資金面をクリアする必要はあるが、外国人助っ人よりも計算できる“特効薬”になる。中島本人にとっても日本復帰は悪くない選択肢のはずだ。(文・三和直樹)