ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で最も話題となっていると言ってもいいのが、日系人として初めて侍ジャパンに招集されたラーズ・ヌートバー外野手(カージナルス)だ。侍ジャパンの初戦となった9日の中国戦から攻守に躍動。全力でプレーする姿が日本のファンの心を掴み、大会が進むにつれて大谷翔平(エンゼルス)を凌駕するような人気にもなってきた。

 ヌートバーは現在25歳と若く、早くも2026年に行われる次回大会でも日本代表に招集することを期待する声も少なくない。だが、WBCでは大会ごとに代表チームを変えることも可能で、これからの成長次第では生まれ育った米国の代表メンバーとして出場することも可能だ。

 WBCでは出身国だけではなく、自身がルーツを持つ国など複数の代表チームでプレーした選手も実際に存在している。今大会でも第4回大会(2017年)で米国代表として出場したマーカス・ストロマン投手(カブス)がプエルトリコ代表のメンバーとして参戦。前回大会では決勝で現在代表としてプレーしているプエルトリコ相手に好投して米国代表のWBC初制覇に貢献した。

 今回ヌートバーが母親の出身国である日本を選んだように、ストロマンがプエルトリコ代表として出場する理由としては“母親への愛”が大きいようだ。メジャーリーグ公式サイト『MLB.com』にプエルトリコ代表としてプレーすることについて、「母親は私の心。彼女は最高な人間で、ベストフレンドであり、自分の中にはその血が流れている。いつだって私の母親を代表して戦うし、何よりも母を愛しているよ」と語っている。

 今大会では初戦のニカラグア戦に先発し、4回2/3を投げて2奪三振、1失点と好投。勝利投手にはならなかったがチームの白星スタートに貢献した。その後1次ラウンドでの登板はなかったが、プエルトリコ代表はドミニカ共和国代表を5対2を下すなど強豪ひしめくプールDを突破。準々決勝のメキシコ代表戦には敗れたが、ストロマンはその試合に先発して4回1/3を2失点と再び国際大会に強いところを見せている。

 第1回(2006年)、第2回(2009年)は出身国のパナマ代表、第4回は自身がルーツを持つ中国代表として出場したのがロイヤルズなどで活躍したブルース・チェン投手。メジャーリーグでは8年間プレーして先発、中継ぎとして82勝をマークするなど実績十分の左腕だ。パナマ代表として参戦した2大会はともに先発として1試合を投げ、中国代表として出場した第4回大会は東京ドームでの強豪キューバ戦に先発して3回途中を3安打無失点と好投。「この経験は一生忘れることはない」と祖父母の出身国の代表として結果を残して感動もひとしおの様子だった。

 その他、メジャーでのプレー経験はないがツインズ傘下のマイナーなどでプレーしたポール・ラトガーズ内野手は、第1回大会ではオーストラリア代表、第2回大会では南アフリカ代表として出場。予選でのプレーを含めれば、第1回大会で米国代表として出場していたメジャー通算2769安打のジョニー・デーモン外野手(レッドソックスなど)は、第3回大会(2013年)の予選では母親の出身国であるタイ代表のメンバーとして参加している。

 また、実際に実現はしなかったものの、“超大物”アレックス・ロドリゲス内野手(ヤンキースなど)も異なる国の代表チームでプレーするプランがあった一人だ。第1回大会は米国代表としてプレーし、日本代表戦でサヨナラタイムリーを放ったシーンを覚えているファンも多いと思うが、第2回大会は両親の出身国であるドミニカ共和国の一員としてWBCに出場する予定だった。だが、練習中に負傷して結果的に出場は見送られた。

 ロドリゲスは第1回大会も当初はドミニカ共和国代表として出場すると公言していたが、最終的に出身国である米国代表を選択。自身のルーツがある国を代表してプレーすることは叶わなかったが、「果たすべき母親の夢」であり、「ドミニカ共和国のユニフォームを着てプレーする姿を見せることは自分と家族にとっては特別なこと」とその思いを述べている。やはりここでも「母親」の出身国でプレーして、喜んで貰いたいということが動機となっているのは興味深い。

 WBCの出場資格には生まれた国以外にも「親のどちらかが当該国で出生している」や「当該国の国籍またはパスポートの取得資格がある」といった様々な項目があることから、条件によっては2カ国、もしくはそれ以上の代表チームのメンバーとしてプレーすることができる。

 どこの国の代表チームを選ぶのかはそれぞれ理由はあるが、やはり2カ国以上でプレーした選手たちのコメントを見る限り、ルーツのある国の代表選手となることで家族を喜ばせたいということが根底にありそうだ。今回ヌートバーは「母の国」を選択して侍ジャパンで戦ったが、次は自身が生まれ育った「父の国」でもある米国代表としてプレーしたいという感情が芽生えるかもしれない。気は早いが、次回大会ではヌートバーが日本か、米国かを選ぶことが話題となるような活躍をメジャーでも見せて欲しい。