2023年は4年に1度の世界大会、女子サッカーW杯が開催される年である。日本中が歓喜に沸いた2011年から早12年、7月20日に開幕する今回のW杯オーストラリア&ニュージーランド大会での「なでしこジャパン」は、果たして期待できるのだろうか。

 チームを率いるのは、グループリーグ3位(1勝1分け1敗)通過から決勝トーナメント1回戦敗退と期待を裏切った東京五輪終了後の2021年10月に就任した池田太監督である。現役時代は浦和のセンターバックとして活躍し、現在52歳。引退後、浦和ユースの監督、福岡のヘッドコーチを務めた後、2017年にU−19女子日本代表の監督に就任し、2018年のU−20W杯で日本を初優勝に導いた。その手腕を買われ、高倉麻子監督の後をうけて「なでしこジャパン」を指揮することになった。

 新体制の初陣となった2021年11月の親善試合は1分1敗。翌年1月から2月にかけて開催されたアジア杯でも準決勝で中国に2対2からのPK戦で敗退するなど、チームの滑り出しは良くなかった。だが、「積極的にボールを奪って素早く攻撃する」アグレッシブなスタイルを徹底し、今年2月の「SheBelieves Cup」ではFIFAランク9位のブラジル(●0対1)、同1位のアメリカ(●0対1)に惜敗するも、東京五輪優勝国のカナダには3得点を奪って快勝(○3−0)した。決定力不足という課題は残ったが、強豪国との全3試合すべてで相手を上回る数のシュートを放ち、W杯本番へ明るい兆しを見せた。

 チームの守護神は、前回W杯でも正GKとしてゴールマウスを守った山下杏也加(INAC神戸)だ。安定感抜群のプレーで2021−22年のWEリーグの初代MVPに選出された実力者であり、27歳で自身2度目のW杯に挑む。その前のディフェンスラインは、昨年10月から新たに3バックを採用。優れた対人能力を持ち黄金期を知る32歳の主将・熊谷紗希(バイエルン)、総合力の高いDFで昨夏からイタリアでプレーする24歳の南萌華(ローマ)、4バックにも対応可能な27歳の三宅史織(INAC神戸)の3人の軸。宝田沙織(リンシェーピングFC)もプレー可能で、人材的に不足はない。

 ウイングバックは攻守において重要な役割を担う。右の清水梨紗(ウェストハム)は不動の存在。無尽蔵のスタミナで上下動しながら高い技術と戦術眼を発揮する。左には、優れたテクニックを持ち、2016年のU−20W杯ではMVPに選出された26歳の杉田妃和(ポートランド・ソーンズ)、もしくは抜群のスピードとアジリティを持つ22歳のドリブラー・遠藤純(エンジェルシティ)が入ることが多い。ともに最後の“崩し”の部分での働きを期待されており、この左サイドがどれだけ高い位置でボールを保持し、攻撃の起点となれるかが、システム上の大きなポイントになる。

 中盤はボランチ2人。チームの要として、長谷川唯(マンチェスター・シティ)が多彩なテクニックと豊富な運動量で動き回りながら、鋭いドリブルとパスで相手を撹乱。同じく長野風花(リバプール)も技術と運動量の優れた総合力の高い選手であり、ともに欧州の名門クラブで経験を積んでいる点も非常に頼もしい。さらに精度の高いキックでプレスキッカーとしても期待できる29歳の猶本光(三菱重工浦和レッズ)、U−20W杯優勝にも貢献した24歳の林穂之香(ウェストハム)らが控えている。長谷川は一つ前の2シャドーの位置でもプレー可能であり、中盤のバリエーションは豊富だ。

 前線は1トップ2シャドーを採用。優れた技術とスピードで狭いスペースでも仕事ができる19歳の藤野あおば(日テレ・東京ヴェルディベレーザ)、センス抜群の23歳・宮澤ひなた(マイナビ仙台)と若い2人が2シャドーのレギュラー候補。現チームで最も経験豊富な30歳の岩渕真奈(トッテナム)は切り札として、後半の勝負の時間帯から起用される形になりそうだ。そして1トップは、23歳の植木理子(日テレ・東京ヴェルディベレーザ)が軸。29歳となった田中美南(INAC神戸)もいるが、2018年のU−20W杯で5得点を奪って優勝の原動力となった植木が、新エースとして大舞台で能力を発揮できるかどうか。若き点取り屋の爆発が、上位進出のためには求められる。

 ここまで選手を挙げてきて気付くことに、ここ数年で選手が若返ったこと、そして男子同様に海外組が増えたことがある。ただ、佐々木則夫監督のもとで日本が世界一となった2011年の頃とは女子サッカー全体の事情も大きく変化しており、アメリカの強さは変わらずも欧州各国での女子サッカーの地位が向上。それによって代表チームも大きく強化されており、今年3月に発表された最新のFIFAランクでは、アメリカ、ドイツの1位、2位に続き、スウェーデン、イングランド、フランス、カナダ、スペイン、オランダ、ブラジル、オーストラリアまでがトップ10。日本は前回(2022年10月)と変わらず11位となっている。

 このFIFAランクが大会結果に直結する訳ではないことは多くの者が知っているが、日本が優勝候補ではないことも確かだ。「奇跡の優勝」とも言われた2011年のW杯でも、日本のFIFAランクは5位(組み合わせ抽選会の時点)だった。果たして「なでしこジャパン」が再び、12年前を上回る“奇跡”を起こせるか。グループリーグは、第1戦がザンビア、第2戦がコスタリカ、第3戦がスペイン。男子サッカーのカタールW杯の日本代表の歓喜を思い起こさせる組み合わせ(ドイツがザンビアに変わったのみ)で縁起がいい。12年前よりも世界各国の実力差は縮まっており、思わぬ波乱が起こり、躍進するチームが出現する可能性は大いにある。再び女子サッカー界を盛り上げるためにも、今夏の「なでしこジャパン」の快進撃が必要になる。(文・三和直樹)