2020年8月。宮城県気仙沼市から私に電子メールが届いた。市から私個人に? 何だろうと気になってメールを開けてみると……「道の駅『大谷海岸』をリニューアルオープンするにあたり、地域の象徴たるマンボウを主役とした複数の魚種が登場する、高精細CGをプロジェクターで壁に投影したコーナーを施設内に作る予定で、マンボウに関する知識や映像を監修して欲しい」という依頼だった。



 3Dモデリングで、可能な限りリアルに近いマンボウの動きを再現するとの話で、ものすごく興味をそそられた。マンボウの動きに関しては、ちょうど2019年に発売した2冊目の著書『マンボウは上を向いてねむるのか』に詳しく書いたばかりだった。3Dモデリングは凸版印刷株式会社が中心となって作業を進めるとのことで、私は初めてマンボウに関する仕事で、町おこしの大きなプロジェクトに参加することになった。

■道の駅『大谷海岸』とは?

 道の駅『大谷海岸』は、JR気仙沼線・大谷海岸駅(日本一海水浴場に近い駅と称されていた無人駅)に併設された施設で、はまなすステーションとの愛称で呼ばれていた。屋上には展望台、二階にはレストランがあり、二階から歩道橋を渡って海岸に行くことができた。一階には売店とマンボウホールがあり、地元の定置網で漁獲されたマンボウが水槽で飼育展示されていた。また、同じ敷地内には農林水産物直売センターもあった。

 しかし、海から近かったため、2011年3月11日に起きた東日本大震災の大津波により、はまなすステーションは二階を超える大津波が来て全壊、2012年に建物は解体された。農林水産物直売センターのみを震災後すぐに被災した場所に仮復旧し、営業を再開した。直売センターは2019年に防潮堤の新設と国道45号のかさ上げのため、国道を一本はさんだ内陸に移転し、しばらく仮店舗で運営された。この間に、道の駅全体を復旧整備する方向で計画が進められた。そして、直売センターのみではなく、はまなすステーションの機能も復旧させた新たな道の駅『大谷海岸』が2021年3月28日にリニューアルオープン。震災から10年の時を経てようやく復活したのだ。

 大谷海岸駅を含む近隣の駅は線路の一部を大津波にもっていかれ、解決すべき課題が多いことから、鉄道の代わりにBRT(バス高速輸送システム)が提案され、JR気仙沼線の一部は現在もバスで運行されている。

 当初の道の駅『大谷海岸』があった本吉町は、2009年に気仙沼市と合併。現在の気仙沼市の「市の魚」はカツオだが、本吉町時代の「町の魚」はマンボウが指定されており、マンボウは本吉町のシンボルとして長らく住民に親しまれてきた。復活した道の駅『大谷海岸』のいたるところにあるマンボウの絵は、本吉町時代のデザインがそのまま使用されている。

■プロジェクションマッピングの舞台裏

 インターネット上の情報によると、震災当時、道の駅『大谷海岸』でマンボウは飼育されていなかったようだ。震災後は、食品として直売センターにマンボウが並ぶことはあっても、道の駅の象徴たるマンボウはずっと不在だった。リニューアルに合わせて、労力の点から再びマンボウを飼育することは難しいが、せめてバーチャル空間の中だけでも、マンボウを復活させたい……その想いを実現させるため、凸版印刷株式会社と私はマンボウの3Dモデリング化を開始した。

 私は凸版印刷株式会社のスケジュールに合わせてオンライン会議でコメントする程度だったが、生き物の動きを3Dモデルに反映するのは簡単ではなく、試作で作られたマンボウのデザインや動きは、リアルのマンボウからかけ離れていた。体が横に曲がったり、鰭の動かし方がおかしかったりしたので、実物のマンボウの動画で動きを注意深く観察し、どこがどうおかしいのか何度も細かく指摘していった。3Dモデリング開発チームは大変だったと思うが、かなり実物に近いマンボウの動きを再現できたと思う。改めて感謝したい。 
 
 奇しくも、私は道の駅でプロジェクションマッピングを試運転させるとのことで呼ばれ、3月11日に気仙沼入りし、翌日、再建途中の道の駅を視察させて頂いた。

 宮城県はウシマンボウも漁獲されるため、マンボウだけでなく、ウシマンボウも登場させて欲しいと提案した。CGと言えど、実物大の全長3 m以上あるウシマンボウが壁に登場すると、かなり迫力がある。ウシマンボウ登場にはいくつか条件があるので、道の駅『大谷海岸』に行かれた際は、是非バーチャルアクアリウムコーナーでしばらく映像を眺めてみて欲しい。

■コロナ対策に複雑な思い

 コロナ対策のまん延防止等重点措置を「まん防」と略すことに批判が上がり始めた3月下旬、道の駅『大谷海岸』はオープンした。世の中の雰囲気を察し、マスコットキャラとして推しているマンボウにマイナスのイメージがつくのを懸念した気仙沼市は、3月31日付けで「まん防という略称は慎重に使用して欲しい」と県内のマスコミ各社に異例の要望書を出し、全国的に話題になった。

 最近は和歌山市立博物館の「疫病除けマンボウ」が対コロナのプラスのイメージで人気が出てきているので、以前の記事「魚類のマンボウはコロナまん延防止のイメージキャラクターになるか?」でも書いたように、個人的にはマンボウとコロナ対策を敢えて関連付けさせて推した方が、道の駅も盛り上がったのではないかと思ったのだが……こればっかりはわからない。

 これから向かう夏の時期、マンボウとウシマンボウは北上回遊して三陸にやって来る。道の駅の特産品コーナーにもマンボウ類が並ぶだろう。震災から復興した証としてにぎわいをみせ、道の駅が地元の人々の活力となれば私は嬉しい。

【主な参考文献】 
 千葉元.2018.宮城県気仙沼市・大谷海岸 防潮堤の着工、対話を経て戻る砂浜.産経新聞.2018年1月29日配信.
 
●澤井悦郎(さわい・えつろう)/1985年生まれ。2019年度日本魚類学会論文賞受賞。著書に『マンボウのひみつ』(岩波ジュニア新書)、『マンボウは上を向いてねむるのか』(ポプラ社)。広島大学で博士号取得後も「マンボウなんでも博物館」というサークル名で個人的に同人活動・研究調査を継続中。Twitter(@manboumuseum)やyoutubeで情報発信・収集しつつ、無職で自分に合った仕事を探しながらもなんとかマンボウ研究して生きていくためにファンサイト「ウシマンボウ博士の秘密基地」で個人や企業からの支援を急募している。