韓国に「救命ブイを投げない」日本 GSOMIA延長巡りもがく文政権

韓国に「救命ブイを投げない」日本 GSOMIA延長巡りもがく文政権

 日韓関係が悪化するなか、安倍晋三首相と韓国の文在寅大統領が言葉を交わした。「政治判断」で実現した11分間の会話だったが、事態は好転しなかった。 AERA 2019年11月18日号に掲載された記事を紹介する。

*  *  *
 韓国が、今月23日午前0時をもって破棄すると通告していた日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA=ジーソミア)の延長を巡り、もがいている。

 文在寅(ムンジェイン)大統領は11月4日、タイ・バンコク郊外で開かれた東南アジア諸国連合(ASEAN)プラス3(日中韓)首脳会議が開かれる前、控室にいた。文氏は、遅れて入場した安倍晋三首相に近づくや、そばにあったソファに誘った。2人は通訳を交え、11分間会話した。

 韓国大統領府は「会談は真摯な雰囲気だった」「文氏が高位級協議も可能と言及した」とアピールした。

 目を引いたのが通訳と写真だった。文氏も安倍氏も随行していたのは英語通訳。側近によれば、文氏が知っている日本語は「こんにちは」程度だ。会談では文氏が話す言葉を韓国側通訳が英語に直し、それを日本側通訳が日本語に直すという手順で行われた。

 日韓両政府関係者は「外交当局が事前に準備しなかった会談だからだ」と証言する。事前に接触があると予想していれば、お互いに日本語と韓国語通訳を随行させる。

 今回、安倍氏を待ち伏せしたのは文氏。韓国大統領府の政治判断で実現した会談であったことは間違いない。

 次に写真だ。白いソファに座り、膝詰めで話す2人の首脳。真剣な表情だが、穏やかな雰囲気が感じ取れた。

 写真は、随行していた鄭義溶(チョンウィヨン)韓国大統領府国家安保室長が携帯電話で撮影した。控室への入場者は制限されていたが、長官級の鄭氏が写真を撮影したのは、どうしてもこの写真をアピールしたかった意図が感じられる。

 事実、韓国メディアは一斉に翌日の朝刊で、会談を大きく報じた。特に、日本に厳しい論調を取る進歩系のハンギョレ新聞も「両国関係が転換点を迎えているという期待感も高まっている」と伝えた。

 複数の日韓関係筋は「文政権はGSOMIA延長の名分を探している」と証言する。文政権は従来、GSOMIA破棄の理由を日韓間の信頼関係が破壊されたからだとし、「日本が輸出管理規制措置の強化を撤回すれば、GSOMIA見直しも考える」としてきた。

 だが、日本は譲らず、米国政府からも憂慮の声が相次いだ。6日にはスティルウェル国務次官補がソウルで韓国政府当局者と相次ぎ会談し、GSOMIA延長を訴えた。韓国政府元高官は「米韓関係が悪化したら、北朝鮮の脅威に対抗できない」と危ぶむ。

 ただ、何もしないでGSOMIA延長を決めれば、文在寅政権の支持者が黙ってはいない。下手をすれば来春の総選挙で敗北する。破棄を決めた韓国政府関係者の責任問題も発生するだろう。

 日韓関係筋の一人によれば、文政権が探した名分は、文氏が4日に提案した「高位級協議」だったという。日本が受け入れれば、「輸出問題で、今後の日本の善処に期待するとして延長する」としたかったのではないか。

 だが、「大人の外交」を掲げる安倍政権には現在、「救命ブイを投げる雰囲気はない」(日韓関係筋)。6日、スティルウェル氏と会談した韓国大統領府の金鉉宗(キムヒョンジョン)国家安保室第2次長は、「我々が譲歩しているのに、日本は何も反応しない」と不満をぶちまけたという。

 今週にはエスパー米国防長官も米韓定例安保協議に出席するため、訪韓する。エスパー氏はGSOMIA延長に向け、最後の働きかけをするだろうが、厳しい展開が続きそうだ。

 このまま、韓国がGSOMIA破棄で突っ走れば、北東アジアの安全保障に重大な影響を及ぼす。米政府関係者の一人はそう語った。(朝日新聞編集委員・牧野愛博)

※AERA 2019年11月18日号


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