ロシア政府を支える富豪である「オリガルヒ」の不審死が相次いでいる。

 モスクワで40店舗以上のレストランを経営するウラジーミル・リャキシェフ氏が5月1日に自宅で死亡しているのが発見されたと、地元紙が報じた。ベランダで頭を撃たれており、脇には猟銃があったという。

 オリガルヒの不審死は今年に入って少なくとも7件目。4月18日には大手銀行ガスプロムバンクの元副社長がモスクワで、19日には大手天然ガス会社ノバテクの元副会長がスペインのリゾート地で、それぞれ家族と一緒に死亡しているのが発見された。自殺説も報じられるが真相は不明。ロシアでは野党政治家やジャーナリストへの暗殺疑惑は枚挙にいとまがない。国際ジャーナリストの春名幹男氏はこう話す。

「2006年に元スパイのリトビネンコ氏を亡命先のイギリスで毒殺したとされているように、プーチン大統領は自分が問題だと判断した人物は国外にいても殺しかねない。今回の不審死もロシア当局が関係している可能性が考えられます。ソ連崩壊のどさくさに紛れて資産を築いたオリガルヒは恨みを買いやすく、特に国有企業の民営化を進めたエリツィン時代のオリガルヒたちは、プーチンにとっては信用できない存在なのです」

 オリガルヒたちは「プーチンの財布」とも言うべき存在でもある。租税回避地の実態を暴いた16年のパナマ文書では、プーチン氏の長女の名付け親で著名なチェリストのセルゲイ・ロルドゥーギン氏の名前も含まれており、プーチン氏の周辺で20億ドル(2千億円余)のカネが動いていたことが明らかとなった。

 その一方で、プーチン氏は国外への資産流出を警戒しており、国営企業の幹部に対し外国の金融機関口座や外国企業の株式の保有を禁じている。だが、そんな中でもオリガルヒたちが財産を移動させている実態をICIJ(国際調査報道ジャーナリスト連合)が「ロシア・アーカイブ」として公表した。租税回避地の秘密電子ファイルを分析した上智大学の奥山俊宏教授はこう語る。

「中国、香港の人たちに次いで存在感が大きかったのがロシア人です。パンドラ文書だけで42人のロシア人富豪の名前があり、彼らの財産はロシアの国内総生産(GDP)の15%に相当するそうです。彼らの狙いは税逃れのためというより、匿名性を盾に何らかの経済制裁を回避することでしょう。西側の国々はもちろん、自分の国の政府も信用できないから、それら政府の手の届く場所に財産を置いておけないということだと思います」

 面従腹背のオリガルヒの本音も徐々に漏れ聞こえてきた。英タイムズ紙が5月14日に伝えた内容では、3月中旬、プーチン氏に近いオリガルヒの男性が、今回の侵攻でプーチン氏がロシア経済を完全に破壊したと非難。「我々は全員、プーチンの死を願っている」と西側投資家に話したという。

 ウクライナ軍の善戦は、プーチン帝国の内部崩壊につながるのか。春名氏はこう予測する。

「オリガルヒだけでは影響力が少ないですが、その豊富な資産が軍や治安機関出身のシロビキ、経済制裁に不満を持つ市民などの反プーチン勢力と結びつけば、クーデターや暴動といった大きな波になる可能性はあります」

(本誌・佐賀旭)

※週刊朝日  2022年6月3日号