ノートの端っこの落書きから生まれる、
唯一無二のかわいい雑貨たち

雑貨ブランド〈リトルアトリエスイッチ〉の実店舗〈ツナグミセ。〉が、大分市の中心市街地から少し離れた閑静な場所にオープンしました。

古着屋〈each〉の外観
大分市にある古着屋〈each〉の一角にある〈リトルアトリエスイッチ〉の〈ツナグミセ。〉は、2023年3月21日にオープン。作家さんによるロゴの暖簾が目印です。

暖簾をくぐって中に入ると、そこにはユニークでどこかホッとするテイストのイラストをあしらったポーチやアクセサリーが並んでいます。

〈ツナグミセ。〉の店内
店内に入るとポーチやストラップ、キーホルダー、アクセサリー、バッグなどが並びます。訪れた日はまだオープン準備中でしたが、これからどんどん商品が並んでいくそう。
手描きイラストと引き揃え糸を合わせたキーホルダー
イラストと引き揃え糸を合わせた〈キーホルダー〉(1100円)。そのときによっていろいろな絵があるので、気に入ったものを探してみて。
引き揃え糸を使ったアクセサリー
引き揃え糸を使った〈アートアクセサリー〉(1870円)。ピアスとイヤリングがあります。

リトルアトリエスイッチは、知的に障がいのある方たちによるものづくりと社会をつなぐべく立ち上げられました。現在は、代表の安部雅枝さんとデザイナーの柳井紀子さんのふたりを中心に、小物やアクセサリーの企画・制作・販売などの活動を行っています。

リトルアトリエスイッチ代表の安部雅枝さんとデザイナーの柳井紀子さん
代表の安部雅枝さん(左)とデザイナーの柳井紀子さん。

安部さんが活動をスタートさせたのは10年ほど前。当初は自閉症の息子さんが描いた絵を缶バッチや絵葉書にしてミュージアムショップなどで販売していたそうですが、デザインや裁縫を得意とする柳井さんとともに活動するようになってからは、現在のような絵や織物をアレンジしたクラフト商品がメインになりました。

顔のイラストのテキスタイルを使ったがま口
なんともいえない表情の「杉田さん」シリーズは、息子の安部侑朔(ゆうさく)さんが小学生の頃に描いた図工の作品をテキスタイルにしていろいろな雑貨に仕立てたもの。〈がま口 M〉(2640円)。
顔のイラストが大きくあしらわれた巾着袋
〈杉田さん巾着袋〉(1760円)。

安部さんは日頃から、息子さんや作家としてリトルアトリエスイッチに所属する方たちの絵をデータでストックしていて、その中から柳井さんがピンときた絵をピックアップ。「何に仕立てたらかわいいかな?」と、試行錯誤を重ねながら、その絵が一番輝くかたちを追求するのがスイッチの商品開発方法。

ここではキャンバスに描かれた立派な絵画作品ではなく、ノートの端っこに描かれたような何気ないイラストがメイン。そのほうが雑貨にも仕立てやすく、手にも取りやすいのだと安部さんは言います。

たくさんの動物の絵が刺繍されたポーチ
絶滅危惧種の動物が好きだという侑朔さんが図鑑を見て描いた動物たちの絵を、刺繍であしらった〈刺繍ポーチ〉(2420円)。

「ノートの端っこに描いた絵を使った雑貨ができて、それが売れたら、描いた本人にもちゃんとお金が渡る仕組みって、ちょっといいですよね。少しですが本人の収入にもなったらうれしいし、商品が誰かの手に渡ることで、彼らのことを知ってもらえるので」(安部さん)

トルソーにディスプレイされた洋服
イラストをテキスタイルにし、洋服屋さんとコラボレーションして洋服も。

店内を見渡すと、ところどころにカラフルな織物を使ったバッグやポーチが並んでいます。「これも障がいのある方たちの作品ですか?」と尋ねると、「いま、私たちが一番力を入れている〈ノボリバタプロジェクト〉の商品なんです」と安部さん。

ノボリバタプロジェクトとは、いったいどんなプロジェクトなのでしょう?

外の世界への架け橋となる〈ノボリバタプロジェクト〉

カラフルな織物のバッグの材料は、実はお店の軒先やイベント会場などではためく、「のぼり旗」なのだそう。

「緑の生地は墓石屋さん、こっちはケーキ屋さんのいちごフェア、これはシュークリームの旗だったかな? 旗にもいろんな種類があっておもしろいですよね」

のぼり旗を裂織で織り込んだ〈もこもこバッグ〉
ボアのついた〈もこもこバッグ〉(各4070円)。このほかにもペンケースやフラットポーチなど使い勝手のよい小物たちがあります。

それにしても、いったいのぼり旗をどうやって一枚の布に?

「裂織(さきおり)といって旗の布地を細かく裂いて糸状にしたものを織り込むんです。裂織に関しては、長く織物に取り組んでいる障がいのある方たちがいて、その施設で一枚布に織ってもらい、それを私たちが買い取って雑貨に仕立てています」(安部さん)

のぼり旗を使った裂織のアップ写真
ほどよい撥水性もあって、サッと洗えば汚れも落ちるというのも実用的。

以前はよくある綿の糸を使って織っていたそうですが、たまたまもらったのぼり旗で裂織をやってみたところ、生地としての軽さや柄の出方のおもしろさに気づいたのだとか。雑貨との相性も抜群だとわかり、いまはのぼり旗をメインの材料として使うようになったそうです。

その織物を、柳井さんの得意とする“仕立て力”をフルに使ってバッグや小物にする〈ノボリバタプロジェクト〉をスタート。その活動と商品は注目を集め、テレビなど多くのメディアでも取り上げられました。この活動が、障がいのある方たちにとって社会に出るための第一歩になったと安部さんは言います。

「障がいのある子どもたちが福祉の枠組みのなかで守られていることはもちろん親としてありがたい。だけど健常者のいる社会とはちょっと隔たりがあって、外の世界に出ていく機会が本当に少ないんです。テレビ取材をきっかけに外とのコミュニケーションが生まれたことで、障がいのある方や施設のスタッフたちのモチベーションや積極性にもつながったのは、とてもうれしかったですね」(安部さん)

残糸を活用した、人の頭がモチーフのブローチ
〈ざんしちゃんブローチ〉(2640円)は織物の残り糸やのぼり旗を裂いた際に発生した残糸を髪の毛に見立てています。選別の得意な施設の人が、残糸をきれいに色分けしてくれるそう。

4月には、ノボリバタプロジェクトとして商標登録も。大分県が中小企業を支援する「経営革新計画」の承認も受けました。現在、裂織の布を織ってもらっている施設は1か所ですが、今後は材料集めから加工販売までをきちんとできる仕組みを整えて、ほかの施設や福祉グループでもこのノボリバタプロジェクトに取り組めるようにするのが、安部さんたちの目標です。

「材料として織物をつくる人、布ものクリエイター、あとはその流れを回す人がいればどこでもできることなんです。このたくさんの可能性を持った仕組みをオープンソースにして全国に発信していきたい。いろいろな地域の方たちがこれをできるようになったら、きっと楽しいと思うんです」(安部さん)

イラスト看板がかけられた〈each〉のショーウィンドウ

安部さんと柳井さんからは、かわいいものをつくりたい! という情熱と愛情、それにものづくりの楽しさが伝わってきました。リトルアトリエスイッチの商品は、大分市の〈ツナグミセ。〉またはオンラインショップでも購入が可能です。ユニークでかわいく、ストーリーのある雑貨たちを、ぜひチェックしてみてください。

Information
ツナグミセ。
address:大分県大分市大字津留六本松1908-1野田ビル103 each内
access:JR大分駅から車で約10分
営業時間:木曜、第1日曜のみ11:00〜16:00
web:Instagram|@tunagu_mise リトルアトリエスイッチ オンラインショップ

*価格はすべて税込です。

credit text:川上靖代 photo:木寺紀雄