リブゴルフを支援するサウジアラビアの政府系ファンド「PIF(パブリック・インベストメント・ファンド)」との統合合意が電撃的に発表されてから早3カ月以上が経過。当初は世界中のゴルフ関係者が仰天させらるにとどまらず、米司法省や米議会までもが動き出す大騒動と化したが、公聴会にルマイヤンPIF会長らキーパーソンが姿を見せることもなく、急速に鎮静化する気配だ。

ロビイスト費用は昨年1年間で45万ドルが今年は上半期だけで46万ドル以上

 PGAツアーのジェイ・モナハン会長が、リブゴルフを支援するサウジアラビアの政府系ファンド「PIF(パブリック・インベストメント・ファンド)」との統合合意を電撃的に発表した6月6日(米国時間)から、早3カ月以上が経過した。

「3日間競技で予選落ちもなく試合も少ないリブの選手は実戦感覚が…」といった声を蹴散らすかのようにメジャーで大暴れしているブルックス・ケプカ 写真:Getty Images
「3日間競技で予選落ちもなく試合も少ないリブの選手は実戦感覚が…」といった声を蹴散らすかのようにメジャーで大暴れしているブルックス・ケプカ 写真:Getty Images

 発表直後は、米ゴルフ界はもちろんのこと、世界中のゴルフ関係者が仰天させられ、ついには米司法省や米議会までもが動き出す大騒動と化した。

 米議会の上院財政委員会からは「PGAツアーとサウジ側との統合合意が、果たして米国のためになるのかどうか。それを彼らは米国民に説明する必要がある」という声が上がり、上院常任小委員会はPIFのヤセル・ルマイヤン会長、リブゴルフのグレッグ・ノーマンCEO、PGAツアーのモナハン会長の3名に7月11日に登院するよう強く要請した。

 しかし、サウジ側はルマイヤン会長もノーマンCEOも「日程調整ができない」ことを理由にヒアリング(公聴会)を欠席した。今週半ばの9月13日には、米上院における2度目のヒアリングが予定されている。

 しかし、米スポーツイラストレイテッド誌によると、PIF側は世界的な多国籍弁護士事務所「アキン・ガンプ・ストラウス・アウアー&フェルド」を通じて、ルマイヤン会長らの出席を頑なに拒否しているとのこと。

 そして、同弁護士事務所がPIFに代わって発した声明には、こんなくだりもあった。

「PIFはPGAツアーと統合して設立する新会社に投資を行うことを誇りに思っている。両者の統合と新会社設立は、米国とサウジ双方の経済成長と雇用機会の創出・促進につながるはずである」

 統合合意の発表直後は、米議会の動きは実にスピーディーでアグレッシブだったが、蓋を開けてみれば、実際の公聴会にはサウジ側からは当事者が誰一人出席しないままになってしまいそうな気配が漂っている。

 米国の政治経済の動向を観察分析している団体「マネー・イン・ポリティクス・トラッキング・ノンプロフィット・オープン・シークレット」の統計によれば、米議会に働きかけるロビイスト費用は、昨年は1年間で45万ドルだったのに対し、今年は上半期だけで、すでに46万ドルを上回っているとのこと。

 なるほど。結局、お金が動けば、騒動は鎮められ、なし崩し的にフェードアウトしていくということのように思える。

キャプテン推薦でケプカが入ったことに賛否両論

 昨今、米欧ゴルフ界は9月下旬から開催される米欧対抗戦「ライダーカップ」の話題で持ち切りである。

 米国チームを構成する12名のメンバーは、ポイントランキングのトップ6が自動的にチーム入りし、残りの6名は米国キャプテンのザック・ジョンソンが指名して決定されるという方式だった。

 そして、ジョンソンはキャプテン推薦の6名のうちの1人として、リブゴルフ選手のブルックス・ケプカを指名した。

 今年の全米プロを制したケプカは、その後、ポイントランキングのトップ6にランクインし続けていたのだが、チームメンバーが確定される寸前に7位に押し出され、キャプテン推薦に頼る以外にチーム入りする方法がなくなってしまった。

 そんなケプカをジョンソンが選んだことは、「ケプカの実力を思えば納得できる」「そうすべき」という声が上がった一方で、「裏切り者のリブゴルフ選手をライダーカップの米国チームに入れるなんて、とんでもない」といった批判の声、あるいは「9.11の惨劇を忘れたのか?」といったテロ被害者遺族からの怒声も上がり、米ゴルフ界には賛否両論が巻き起こった。

 しかし、米国キャプテンのジョンソンは「チームUSAはブルックス・ケプカを必要としているんだ」とクールに言い切り、ケプカ以外のチームメンバー11名からも、ケプカのチーム入りに対する異論反論は出されなかった。

 そして、欧州チーム側の主力選手であるローリー・マキロイは、かつてはリブゴルフを忌み嫌う急先鋒だったが、先日は米ゴルフウイーク誌の取材に答え、こんなことを語っていた。

「PIFがスポーツ界を乗っ取ろうとするのではなく、僕たちプレーヤーを戦いの場へ導いていくための道をしっかりつくっていくのであれば、PIFやリブゴルフの悪評や悪影響は徐々に和らげられ、中立化していくのではないかと僕は思う」

 マキロイは「エコシステム」という言葉を何度も口にして、「ゴルフ界のエコシステムを保つ」という前提条件を満たすのであれば、PGAツアーとリブゴルフの共存は「考えられることだ」とも語っていた。

 そんなふうに、ジョンソンがキャプテン推薦でリブゴルフ選手のケプカを指名し、マキロイも条件付きでPIFの存在を認める発言をしたことは、リブゴルフを敵視する米ゴルフ界の傾向や風潮が緩和される発端やきっかけになりそうな気配である。

日本ツアー出場は問題なし? ダンロップフェニックスでケプカが来日

全米オープンでは和やかに談笑する姿も見られたブルックス・ケプカとローリー・マキロイ 写真:Getty Images
全米オープンでは和やかに談笑する姿も見られたブルックス・ケプカとローリー・マキロイ 写真:Getty Images

 ところで、そのケプカが今年11月16日から宮崎で開催される「ダンロップフェニックス」に出場することが先日発表された。

 これを聞いて「あれっ? いいんだっけ!?」と首を傾げた人も、もしかしたら、いたのではないだろうか。

 というのも、JGTOは昨年12月にPGAツアー、DPワールドツアーと戦略的提携を結び、ともに協調路線を歩むことを誓い合った仲だ。

 そして、リブゴルフへ移っていった選手のメンバー資格を即座に停止したPGAツアーは、統合合意の発表後は「リブゴルフ選手に科したPGAツアーの資格停止処分を解き、PGAツアーに戻す方法を考える」と語ってはいるものの、依然として彼らの資格停止処分は科されたままになっている。

「リブゴルフ選手はいまだにPGAツアーに出られない状態にある。それなのにPGAツアーと提携している日本ツアーにケプカは出てもいいんだっけ?」。そんな疑問も浮上するかもしれないが、JGTO(日本ゴルフツアー機構)に確認したところ、「戦略的提携の内容は、JGTOの上位3名に翌年のDPワールドツアー出場資格を付与するというもので、リブゴルフ選手がJGTOの大会に出場することの可否は提携内容には含まれていない」とのこと。

 つまり、ケプカの来日は日米欧3ツアーの提携関係とは無関係であり、三者の提携をなし崩しにしたというわけではない。ケプカは日本のゴルフファンが「日本に来てほしい」と願っている選手だからこそ、日本に招待され、5年ぶり4度目のダンロップフェニックス出場が叶うというシンプルな話だ。

 それはそれとして、PGAツアーとPIFあるいはリブゴルフとの距離感は、今、確実に縮まりつつある。それが「いいのか?悪いのか?」と問われたら、「何はともあれ、対立より平和がいい」と答える人のほうが、確実に多いのではないだろうか。 文・舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学客員教授。東京都出身。百貨店、広告代理店に勤務後、1989年にフリーライターとして独立。1993年に渡米。在米ゴルフジャーナリストとして25年間、現地で取材を続け、日本の数多くのメディアから記事やコラムを発信し続けてきた。2019年から拠点を日本へ移し、執筆活動のほか、講演やTV・ラジオにも活躍の場を広げている。

舩越園子(ゴルフジャーナリスト)