リブゴルフとの交渉を進めてきた選手理事を含むPGAツアーの理事会だが、ローリー・マキロイの理事復帰を巡りドタバタ劇を繰り広げるなど、ここへ来て混乱が報じられている。さらに、理事会とは別に「交渉分科会」の存在が明らかになり、さらなる混乱が予想される事態になってきた。

PGAツアーは以前にも増して混沌

 昨年6月にPGAツアーのジェイ・モナハン会長とリブゴルフを支援するサウジアラビアの政府系ファンド「PIF(パブリック・インベストメント・ファンド)」のヤセル・ルマイヤン会長が、いわゆる「統合合意」を電撃的に発表した直後、PGAツアーの選手たちは一斉に「何も聞いていない」と怒声を上げた。

 そして「モナハン会長は水面下で交渉を行ない、僕たちが知らないうちに合意した」と会長を激しく批判し、以後は選手理事を含むPGAツアーの理事会が主体となってPIFとの交渉を進める形になった。

明らかになった「交渉分科会」メンバーであるマキロイだが、選手理事への復帰は「望んでいない人」の影響でなくなった 写真:Getty Images
明らかになった「交渉分科会」メンバーであるマキロイだが、選手理事への復帰は「望んでいない人」の影響でなくなった 写真:Getty Images

 しかし、今度は選手理事らが秘密裏にコトを推し進めるようになり、気がつけば、他の選手たちは「何も聞いていない」「知らないうちに決まっていた」と呆気に取られる事態に陥っている。

 おまけに、そうやって秘密裏に進められた事柄が、その後に二転三転するドタバタ劇の様相を呈しており、PGAツアーは以前にも増して混沌としている。

 昨今のPGAツアーのドタバタ劇の第一幕は、ローリー・マキロイの選手理事への復帰を巡る騒動だった。

 2022年から理事会メンバーに加わったマキロイは、アンチ・リブゴルフの急先鋒としてアクティブな動きを見せ、PGAツアー選手たちのリーダー役を見事に務めていた。

 しかし、昨年11月に突然、辞任の意向を表明。理由は「もっとやりたいこと、やるべきことがある。そのことに集中したい」というもので、その「こと」は、今年4月のマスターズで優勝してキャリア・グランドスラムを達成することだと見られていた。

 結果的に、マキロイの「悲願」は今年も達成されなかったのだが、それから間もなく、選手理事の1人であるウエブ・シンプソンが任期半ばで理事からの辞意を表明し、自分の後任としてマキロイを指名した。

 マキロイ自身も「僕はみんなの役に立てると思う」と指名を受け入れ、理事会へ復帰する意向を示していた。

 しかし、先週のウェルスファーゴ選手権の開幕前、マキロイは自分が理事としてカムバックすることを「望んでいない人々がいる。歓迎されないのなら、理事には復帰しない」と米メディアに語ったことで、周囲はにわかに騒々しくなった。

 マキロイが理事として復帰するためには、シンプソンを含めた現職理事6名全員の同意が必要となるのだが、米スポーツイラストレイテッドによると、マキロイ復帰に同意せず、カムバックを阻止したのは、タイガー・ウッズ、ジョーダン・スピース、パトリック・カントレーの3名だったそうだ。

 理事の中の半数が自分の復帰を望んでいないと知ったマキロイは「理事会には戻らない」と決意。そのため、辞任するつもりだったシンプソンは、任期が満了する2025年末まで理事職を務めることになり、マキロイ復帰を巡るドタバタ劇は、これで一件落着かと思われた。

ますます不透明になってきたPGAツアーの行く末

 しかし、ドタバタ劇には第2幕があった。マキロイがさらに語った内容が、他選手や周囲を驚かせ、周囲は大騒ぎになったのだ。

「僕は理事会には戻らないけど、すでに分科会のメンバーにはなっているよ」

 AP通信や米スポーツイラストレイテッドによると、マキロイが明かした「分科会」とは、外部との交渉や商取引を行なうために、いつのまにか結成されていた「交渉分科会」なる小集団のことを指しているという。

今後のカギを握るのは、PGAツアーの選手理事であり「交渉分科会」のメンバーでもあるタイガーなのは間違いない 写真:Getty Images
今後のカギを握るのは、PGAツアーの選手理事であり「交渉分科会」のメンバーでもあるタイガーなのは間違いない 写真:Getty Images

 この分科会の構成メンバーは、PGAツアーのモナハン会長やSSG(ストラテジック・スポーツ・グルーブ)とパートナーシップを結んで創設したPGAツアー・エンタープライズの理事を務める2社(フェンウエイ・グループ、バレロ・エナジー)の各代表2名、そして経済アナリストのジョー・オギルビーという4名に選手代表3名を加えた合計7名。 

 その「選手代表3名」は、驚くなかれ、ウッズ、アダム・スコット、そしてマキロイであることがわかった。米メディアは、分科会を設立した中心人物はウッズだと見ている。

 マキロイの説明によると、今後、PIFとの交渉は、PGAツアーの理事会ではなくこの交渉分科会が主体となって行なっていくとのことで、「僕はPIF側にもPGAツアー側にも顔が利く。だから、みんなの役に立ってあげられると思うよ」。

 今年3月にウッズをはじめとする6名の選手理事全員が試合と試合の合間にバハマに集結し、PIFのルマイヤン会長らと初めて顔を合わせたことがあった。

 だが、現役の選手たちが毎度毎度、そうやって集まることは難しいと思われ、PIFとの次なる直接交渉はシーズン終了後になると見られていた。

 しかし、すでに理事を辞任していたマキロイは、そんな理事会の動きを傍目にして「それではスローすぎる」と批判。そんな折りにシンプソンが辞意を表明し、自分の後任としてマキロイを指名した。だが、マキロイの理事復帰に反対し、阻止したのが、ウッズ、スピース、カントレーだった。

 ところが、そのウッズがマキロイを含めた交渉分科会をいつの間にか結成していた。そして、PIFとの交渉も理事会主導から交渉分科会主導へといつの間にか変わっていたのだから、周囲は驚かされるばかりだ。

 PGAツアーの選手理事であるウッズ、スピース、カントレー、スコット、シンプソン、ピーター・マルナティの6名は全員、新たに創設された営利法人「PGAツアー・エンタープライズ」の理事を兼任しているが、マキロイは、すでに選手理事を辞任しているため、PGAツアー・エンタープライズの理事にもなっていない。

 今回、その存在が明らかにされた交渉分科会の7名の中でPGAツアー・エンタープライズの理事を務めていないのは、マキロイただ一人ということになる。

 つまり、マキロイだけはPGAツアーの理事でもPGAツアー・エンタープライズの理事でもなく、ある意味、中立的立場で交渉に当たることができそうな唯一の存在と見ることができる。

 それならば、PGAツアーの理事、PGAツアー・エンタープライズの理事、交渉分科会メンバーという3つすべてを務めるウッズは、どんな存在と見ることができるのか。

 ちなみに、PGAツアーの選手理事には、就任時にそれぞれの任期が決められているが、ふと気づけば、唯一ウッズだけは任期が無期限の「生涯理事」とされていることに、米メディアも驚きを隠せない様子である。

 そうした現象が、PGAツアーの維持拡大のための最高のリーダーになってほしいというウッズへの期待の反映なら、それはゴルフ界全体にとって歓迎すべきことなのだろう。

 実際、SNSでは「もはやタイガーは現役選手から引退し、PGAツアーのコミッショナーになったほうがいい」といったウッズへの期待の声が多数上がっている。

 一方で、選手理事の中でただ一人、任期無期限のウッズが、マキロイの理事復帰を阻止し、その一方でマキロイを含めた分科会をいつの間にか設立し、交渉の主導役を理事会から分科会にいつの間にか移したといった一連の「いつの間にか」現象に首を傾げる人々もいる。

 エンタープライズ、理事会、分科会と、いろいろ設立されてはいるものの、PGAツアーの行く末は、いまなおベールに包まれたままである。

文・舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学客員教授。東京都出身。百貨店、広告代理店に勤務後、1989年にフリーライターとして独立。1993年に渡米。在米ゴルフジャーナリストとして25年間、現地で取材を続け、日本の数多くのメディアから記事やコラムを発信し続けてきた。2019年から拠点を日本へ移し、執筆活動のほか、講演やTV・ラジオにも活躍の場を広げている。

舩越園子(ゴルフジャーナリスト)