『天才ヴァイオリニストと消えた旋律』
フランソワ・ジラール監督インタビュー

『レッド・バイオリン』『ボーイ・ソプラノ ただひとつの歌声』をはじめ、シルク・ドゥ・ソレイユの演出やオペラや演劇の分野でも活躍するフランソワ・ジラール監督が新たにメガホンをとった映画『天才ヴァイオリニストと消えた旋律』が12月3日(金)より新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて全国公開となります。本作の公開を記念して、ジラール監督にお話を伺いました。

第二次世界大戦前後のヨーロッパ、ヴァイオリニストとしての才能を持つポーランド系ユダヤ人の少年ドヴィドルと、ロンドンで彼を迎え入れる家の息子マーティンの関係を、10代20代、50代と3つの世代をまたいで描くドラマです。音楽にまつわる作品を多数手掛け、時代を交錯させストーリーを語ることを得意とするジラール監督は、ドヴィドルがデビューコンサートの当日行方不明となった謎を探るミステリーとして観客を翻弄しながら、戦争の傷を暴き、信仰と芸術の関係を考察します。

バッハ、ベートーヴェン、パガニーニなどのクラシック楽曲やハワード・ショアのオリジナル曲もふんだんに盛り込まれ、名優ティム・ロスとクライヴ・オーウェンが愛憎入り交じる主人公を演じているのも見どころです。ジラール監督がこの物語を撮りたかった理由とはなんだったのでしょうか。

映画『天才ヴァイオリニストと消えた旋律』,フランソワ・ジラール監督,画像

フランソワ・ジラール監督(メイキングより)

―― スリリングなサスペンスとして楽しむことができ、その奥に途方も無い人間性の喪失とそれを経て前に進むことの大切さが描かれている作品だと感じました。ジラール監督が最初に読まれたのは、ジェフリー・ケインによる脚本ですか、それとも原作(ノーマン・レブレヒト著『The Song of Names』)ですか?また、それを読んだとき、すぐ引き受けようと思ったのでしょうか?

フランソワ・ジラール監督(以下、ジラール監督)
最初は送っていただいた脚本を読みましたが、実は直後のリアクションは、「これは引き受けない方がいいだろう」というものでした。読んだときに、どうしても『レッド・バイオリン』を思い起こしてしまった。同じ題材を扱うことは、少なくとも自分にとってはあまりいいことではないと思ったからなんです。でも、それが間違った判断だとすぐに気付きました。

この物語はバイオリンについての物語ではなくて、ホロコーストや戦争犯罪について扱っている物語だということが分かりましたし、自分のキャリアとしてではなく、より大きなテーマを描いていくべきだと思い、そこから原作を読んで、より深くこの世界に入っていきました。

天才ヴァイオリニスト

―― マーティンとドヴィドルは、愛と憎しみの双方が入り混じった取っ組み合いを精神的にも肉体的にも行います。幼少時代から尊大なドヴィドル、父親の愛情をドルヴィルに取られ嫉妬する了見の狭いマーティンと、ふたりとも純真とはほど遠い、共感しにくいキャラクターであることが非常に興味深いです。これは監督の意図するところだったのでしょうか?

ジラール監督
僕が意図したというよりは、原作に描かれていた、原作者の意図ということになります。

確かに映画における子供の描き方には、いわゆる“ディズニー・バージョン”が存在します。しかし振り返ってみれば、私たちの子供時代というのは、暴力もあれば嘘もあるし、言ってみれば大人になってから経験することのミニバージョンです。

すごく正直に子供を描こうと思ったときに、この物語にそもそもあった要素を通して描く方が面白いのではないかと思ったんです。

映画『天才ヴァイオリニストと消えた旋律』,フランソワ・ジラール監督,画像

―― ドヴィドルがどうして自己中心的な性格となったのか、それを裏付けるようなエピソードがあります。中盤、爆撃された市街地に取り残された女性の死体を見つけ遺品を漁るドルヴィルと一緒にいたマーティンの間で死者に敬意を払うべきかという議論が行われます。どんなに激しい戦闘シーンよりも、戦争の愚かさと絶望を象徴している言葉だと感じました。このシーンについて監督はどのように表現しようとしたのでしょうか?

ジラール監督
あのシーンはとても正直に描いた結果ではないかと思います。

ここで私たちが考えるべきことは、瓦礫の中に残されたひとりの人間の死なのか、それとも何万人という人々が傷を負ったり亡くなったりしている戦争なのか、という問いかけでもあります。

僕個人的には、もしこれが直接的に収容所や実際の戦場を描くことになっていたら、監督するだけの権威はないと思って引き受けなかったでしょう。この作品はそうではなくて、戦争というものを想起させる、あるいは戦争の記憶について考えさせる、あるいは他のところで起きている戦争を感じさせるストーリーテリングになっています。

そして、第二次世界大戦をテーマにした作品はたくさんありますが、非常にオリジナルなかたちで戦争を扱った作品になっていると自負しています。

これは言ってみれば、火山を歩いているような作品です。足元は確かに熱いけれど、ほんとうに燃え盛っているものは、ずっと下の地中に潜んでいる。こうした手法こそが、例えば第二次世界大戦のような恐ろしい出来事と、自分たちが通じ合う、あるいは理解するときにとても良いのではないかと思いました。

映画『天才ヴァイオリニストと消えた旋律』,フランソワ・ジラール監督,画像 映画『天才ヴァイオリニストと消えた旋律』,フランソワ・ジラール監督,画像

―― この作品はクラシック音楽の優美さの奥に、民族性と信仰という非情に深いテーマに取り組んでいます。映画のなかでドヴィドルが「“民族性”は皮膚と同じで脱げないが、“信仰”は暑ければ脱ぐこともできる」と語り、実行します。監督ご自身は彼の考えについて、どのように考えていらっしゃいますか?

ジラール監督
ドヴィドルの物語であって、僕の物語ではないので、彼の判断について意見を述べる立場ではないと思っています。

もちろん、この物語を作るにあたって、映画に登場しない彼のポーランド時代のことを、例えば通りで子供たちと遊んでいただろう、と想像し、頭のなかで彼がそこに辿り着くまでの道のりを自分なりに理解して描いています。ポーランドの文化にあまり詳しくなかったので、今回の製作のなかで学ばなければいけませんでした。

―― 映画の最後、ドヴィドルは信仰に身を捧げることを選び、自分自身を捨てます。コミュニティに属しながら個を保つことは可能かどうか、監督はどうお感じになりますか?

ジラール監督
聞かれたことのない質問ばかりで嬉しいですね。最後のマーティンへの手紙に全てが表現されているのではないでしょうか。

彼はユダヤ教に帰すること、そのコミュニティに属することで個人がなくなると綴っています。僕のようなアーティストは定義からするとむしろ逆で、自分はこういうことを言いたいんだ!とマイクを持って叫んでいるようなエゴの塊のような存在です。

ですから、そのふたつのぶつかり合いは僕にとって非常に面白かったですし、ドルヴィルの言葉を聞くと、アートとはなにか、そして信仰とはなにか、という意味を自分なりに問いかけたくなるのです。

―― ありがとうございました!!

『天才ヴァイオリニストと消えた旋律』予告編映像

あらすじ

第二次世界大戦が勃発したヨーロッパ。ロンドンに住む9歳のマーティンの家にポーランド系ユダヤ人で類まれなヴァイオリンの才能を持つ同い年のドヴィドルが引っ越してきた。宗教の壁を乗り越え、ふたりは兄弟のように仲睦まじく育つ。しかし、21歳を迎えて開催された華々しいデビューコンサートの当日、ドヴィドルは行方不明になった―。35年後、ある手掛かりをきっかけに、マーティンはドヴィドルを探す旅に出る。彼はなぜ失踪し、何処に行ったのか? その旅路の先には思いがけない真実が待っていた……。

キャスト

ティム・ロス、クライヴ・オーウェン、ルーク・ドイル、ミシャ・ハンドリー、キャサリン・マコーマック

監督

フランソワ・ジラール

脚本

ジェフリー・ケイン

製作総指揮:ロバート・ラントス 音楽:ハワード・ショア ヴァイオリン演奏:レイ・チェン

2019 年|イギリス・カナダ・ハンガリー・ドイツ|英語・ポーランド語・ヘブライ語・イタリア語|113 分|字幕翻訳:櫻田美樹|映倫区分:G(一般)

配給・宣伝:キノフィルムズ
公式HP:https://songofnames.jp
Twitter:https://twitter.com/kinofilmsJP
© 2019 SPF (Songs) Productions Inc., LF (Songs) Productions Inc., and Proton Cinema Kft
映画『天才ヴァイオリニストと消えた旋律』,フランソワ・ジラール監督,画像

12 月 3 日(金)新宿ピカデリー
ヒューマントラストシネマ有楽町他全国公開