20代半ばからアルコール依存症に苦しむ「酒を辞めるエネルギーになったのは復讐心」

 古希を迎えた講談師の神田愛山が21日、都内で芸歴50周年記念CD盤『神田愛山講談集』の発売会見を行った。人気講談師、神田伯山が慕い、けいこを願い出る講談界の重鎮で、20代にはアルコール依存症にもがき苦しんだ過去を持つ。そこから脱却し、積み重ねたキャリアは50年。伯山への思い、断酒への思いなどを語った。(取材・文=渡邉寧久)

 CD収録演目は力士の世界を描いた「寛政力士伝〜谷風の情け相撲〜」と菊池寛の小説を講談化した「敵討母子連れ」の2席。

「1年ぐらい前ですか、CD出しませんか、と言われて以来、戸惑っている。こんな無名の男のCDが売れるのか。ソニーレコードの社長に小言を言いたい」と自虐と皮肉をまぶして語り始めた愛山は「古希と芸歴50年がぴったり重なりましたし、人生の節目というか置き土産というか……現実感がない」。

 そう人ごとのように言葉をつなぎながらも「徐々に(芸が)固まってきているような気がしています。スロースターターですからね。古希はね、70年生きていれば誰でもなれるが、キャリア50年はすごいことなのかなと思っています」と照れをのぞかせた。

 愛山が入門した50年前、1974年当時は講談冬の時代だった。

「ひどい時代だった」としみじみと振り返る一方、現在の講談人気について「こんな時代が来るとは夢にも思わなかった。(神田)伯山が出たからガラッと変わった」と伯山人気のおかげだとした。

 さらに伯山の良さについて「自分の人気を独占していない。講談界のプロデュースをしている。講談界を盛り上げようとしている。私が通っている歯医者のスタッフまで、(伯山のことを)知っていますからね」とべた褒め。

 伯山の高座については、本人にも言っていますが、と前置きし、「薪割りみたいな高座。あのガタイで、あれだけ声が大きくて、薪をバシャーンと割る感じ」と、身内ならではの愛情でダメ出し。「彼にもっと繊細な味が出ればいい。まだ繊細でないですよ。ペン習字のような繊細さ、やさしいタッチの読み口を教えているところです。それさえできれば!」と、太鼓判を押した。

 50年のキャリアのアップダウンについて「山は何もない」と笑わせながら、自身のどん底体験を静かに語り出す。

「20代の中ほどからアルコール依存症という病に取りつかれて、31歳で(酒を)辞めるまでがどん底でした。そこが問題だったわけですよね、食えたもんじゃなかったんですよね」と食事をもおろそかに飲酒に浸った過去を回想する。

「そのころのことがトラウマになっていて、(今の暮らしも)砂上の楼閣だという思いがある。どこかで崩れちゃうんじゃないかという思いがあって弟子も取れない」と振り返りつつ、脱却できたことについて「一門の弟弟子に(真打ち昇進を)抜かれちゃったんです。酒を辞めるエネルギーになったのは復讐(ふくしゅう)心。それが断酒講談につながった。誰にも体験できないことですからね」と、どん底をプラスにつなげた理由を明かした。

 CDの発売を記念し、6月4日〜6日の3日間、東京・内幸町ホールで、3夜連続独演会を開催する。瀧川鯉昇(第一夜)、柳家三三(第二夜)、柳家喬太郎(第三夜)がゲストとして駆けつける。渡邉寧久