入店したのにラーメンには目もくれない集団

 近年、飲食店での客による迷惑行為が相次いで報じられている。大手回転すしチェーンでは、金髪男がしょうゆボトルをなめて元の場所に戻す動画が拡散。運営会社が提訴(その後和解)したのは記憶に新しい。一方で、迷惑客はどんな小さな飲食店にもいると主張するのは、プロレスラーでラーメン店主の川田利明だ。詳しい話を聞いた。

 川田は東京・世田谷区でラーメン店「麺ジャラスK」を経営。2010年から14年間に渡って身を持って知ったのは、ラーメン業界の厳しさ。5月には文庫化された著書『プロレスラー、ラーメン屋経営で地獄を見る』(宝島社)を発売し、大きな話題を呼んでいる。

 その著書の中に触れられているのが、迷惑客の存在だ。すし店のような明らかな悪ふざけでなくても、エピソードに事欠かない様子を伝えている。

 中でも衝撃的だったのが、「380円のデザートを頼んで、それを10人で分けて食べる、ということが実際にあった。ひとり頭38円だ!」という記述。「麺ジャラスK」はもちろん、ラーメンを売りにしている。しかし、その集団はラーメンには目もくれず、サイドメニューの一番安いデザートを頼み、それを分け合いながら川田と談笑した末、店を出ていってしまったという。

 川田の店は、コロナ禍で20席あった座席を8席に減らす対応を取っている。「ラーメン店に来たのにラーメンを注文しない」というのは、不思議な状況だが、客にとってはよくても店にとっては大きな痛手だ。だが、プロレスラーとして知名度があり、ファンも多く訪れる店では、このようなことは珍しくないという。ラーメンを食べることより、「川田に会うこと」が目的になっているためだ。

 ほかにどんな迷惑客がいるのだろうか。

「いや、もう言えないぐらい、いっぱいありすぎて……。ちゅう房の中に入ってきていきなり話し始めるお客さんもいます。普通入ってこないでしょう?」

 川田は1人で店を切り盛りしている。集中して調理をしていると、突然、横から声がした。客席との仕切りをあっさりと乗り越え、悪びれた様子もなくちゅう房に。どんな飲食店でもちゅう房に客が入ることはあり得ないだろう。ところが、個人経営の店では、常識が通用しないことが起こる。休業日にちゅう房で仕込みをしていると、2人組が勝手に店の中に侵入し、声をかけてきたこともあった。

「店を始めた当時には、辛いラーメンを頼んで半分ぐらい食べてから、これはやっぱり辛くて食べられないから普通のラーメンに換えてと言い出すお客さんもいました。でも、当時はお客さんの言うことは全部聞かなきゃいけないと思って出していましたよ」

「警察も呼んで大変だったことが…」

 さらに困るのは、客がすぐにネット上に不満を書き込むことだ。

「焼酎ダブルでちょうだいと言うから、じゃあダブル料金いただきますと言ったら、ネットに『焼酎ダブルって言ったら、ダブルの料金を取られた』って。当たり前じゃないですか。でも、そんなことが当たり前のように投稿されるんです」

 店側に非がなくても、大っぴらに反論するわけにはいかない。不特定多数が閲覧する投稿の行く末を見守るしかなかった。

「そんなことが1件、2件じゃない。毎日のように起こる。詳しくは言えないけれど、最近ももう考えられないようなことがあって……。警察も呼んで大変だったことがあったんだけど、それぐらい、もう世の中には考えられないようなことをする人がいるってことですよ」

 大手チェーンを中心に迷惑行為が報道されるようになったことについては、飲食業界にはためになると捉えている。

「放送されると、抑止力になればいいなと思う。これからは、そういう人が出てこない世の中になってくれれば」

 一方で、小規模な店は問題が起こってもなかなか注目されないと川田は指摘する。「大手だったら、大きなメディアも取り上げますが、そうじゃないとなかなか取り上げられることがない。大手なら周りが味方になってくれるけど、小さい店はそういうわけにはいかない」

 飲食店にとって客入りは死活問題だ。誰でもオーナーであれば負のイメージは持たれたくない。だが、「お客様は神様です」というフレーズは過去のもの。度を超えたマナー違反、脅迫行為などはカスタマーハラスメントとして非難される。情報をいかに認知してもらうかが課題の一つになっている。

 経営は赤字続きで、愛車のベンツを売り、貯金もはたいて、運転資金に回してきた。苦節14年を振り返った川田は、「今考えられないぐらいラーメン屋が全部つぶれてる。とにかくやらないことを勧める。本当に」と何度も繰り返していた。ENCOUNT編集部/クロスメディアチーム