今年もすでに2度渡米「自分でも不思議な気持ちに」

 映画『幽霊はわがままな夢を見る』(6月29日公開、グ スーヨン監督)に出演した俳優の大後寿々花(30)は11歳の時にハリウッドデビューを飾り、今も渡米して演技を学び続けている。人生を変えたハリウッド出演経験を語った。(取材・文=平辻哲也)

 大後は7歳の時に舞台『国盗り物語』で俳優デビュー。2005年に『北の零年』(行定勲監督)に出演したことがきっかけで映画『SAYURI』に出演。チャン・ツィイーが演じるヒロイン・さゆりの子供時代を演じ、わずか11歳でハリウッドデビューを果たした。

「(『ラスト サムライ』『バベル』などで知られるキャスティングディレクターの)奈良橋陽子さんがオーディションに呼んでくださったんです。その過程で渡辺謙さんが推薦書を書いてくださり、それが一つの決め手になりました」

『SAYURI』はミュージカル映画『シカゴ』で脚光を浴びたロブ・マーシャル監督が米作家アーサー・ゴールデンの小説『さゆり』を映画化したもの。1929年の世界恐慌時に貧しい漁村で育った少女・千代が置屋に売られ、やがては人気芸者になっていく……。主演のチャン・ツィイーを始め、その後、『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』(22)でオスカーを獲得したミシェル・ヨー、日本からは渡辺謙、役所広司、工藤夕貴、桃井かおりらが参加した。

「当時はアルファベットも書けない小学生だったので、母がついてきてくれました。泊まっていたのはキッチン付きの部屋で、鍋でご飯を炊いてくれました。ほかの方は1年以上撮影に参加していたと思いますが、私はトータルで半年くらい滞在しました。撮影期間が長かったので、作品を作り上げる感覚がすごく感じられました」

 これがその後の人生に大きく影響を与えた。

「年を重ねるにつれて実感が湧いてくる感じでした。当時は早くお家に帰りたいとか、友達と遊びたいとか、そっちに気持ちが行っていて、自分がどれだけ恵まれた環境にいるかを気づけなかったんです。自分の国ではないところで、なんなら言葉が分からなくても、一つの作品を作り上げることができるというのは面白い、と思いました」

 中・高校時代は短期の語学留学も経験。2012年には堀越高等学校から名門・慶應義塾大学環境情報学部に合格。同学部は総合政策学部とともにSFC(湘南藤沢キャンバス)と言われる。学年に関わらず、多彩な科目を自由に取得できることが特徴だ。

「『SFCに行きたい』と言ったら、先生から無理だと言われました。堀越から進学する人は今までいなかったので。でも、やってみないと分からないと思いましたし、無理だと言われることを覆したかった。決めつけたくなかったんです」

 大学時代は俳優業を控えめにして、両立させた。

「授業には環境分野だけではなく、囲碁(当時)という科目もあって、憲法やプログラミングなど自分で好きな科目を選んで取ることができるんです。すごく自由で、起業しながら通っている子もいました。4年生になると、就職活動が始まるので、自分でもその先の進路を考えるポイントがありました」

 2016年の卒業後は俳優業を本格化させながらも、学ぶことをやめなかった。

「海外の役者さんを見ていると、学ばれているんですよ。演劇学校や大学の演技学科を出ています。でも、そういうのは日本ではあまりないと気づいたんです。演技でも、舞台と映像の演技で分かれていて、演技法もいくつもある。本当はガッツリ学校に行きたいという気持ちがあるのですが、今はリサーチをしながら、レッスンを受けています」

 今年は既に2度渡米して学んだ。

「長い時は1か月くらい。言葉が違っても、セリフを覚えて、セリフをいうことには変わりないという気がします。現場では、その場の雰囲気や役者さんとのコミュニケーションで生まれるものがあると思っているので、普段あまり役作りをしないと決めているのですが、海外のレッスンを受けている時に気持ちが入っている瞬間があったんです。その時は一生分くらいの涙が出てきて、自分でも不思議な気持ちになりました」

 将来は再びハリウッド作品に出演したいという夢もある。「若いうちに海外に足を運んでいきたいと思っています。毎回行くたびに新しい発見があるんです」。19年前の経験を糧に、さらなる活躍を誓った。

■大後寿々花(おおご・すずか)1993年8月5日生まれ、神奈川県出身。2000年、舞台「国盗り物語」でデビュー。05年『北の零年』(行定勲監督)に出演したことがきっかけで映画『SAYURI』(ロブ・マーシャル監督)に出演。チャン・ツィイーが演じるヒロインの子供時代を演じ11歳でハリウッドデビューを果たす。近年の主な作品に『桐島、部活やめるってよ』(12/吉田大八監督)、『鎌倉にて』(16/中田秀夫監督)、『“隠れビッチ”やってました。』(19/三木康一郎監督)、『湖の女たち』(24/大森立嗣監督)など。平辻哲也