カジノのネオンが煌めく米ラスベガスに突如として現れた不思議な球体。実はこれ、外も中も壁の全面がLEDパネルで覆われたコンサート・ホールなのです。

内部には1万8000席が

夜のラスベガスの風景に、間違って合成されたような目玉の写真。CGなどではなく、100mを超える巨大な球状の構造物に、作品が映し出されているのだ。この建物は壁の全面がLEDパネルで覆われており、映像の眼球は瞬きをするなど常に変化する。時にはバスケットボールとなって、広告塔として活躍することも。このインパクトのある球体は、「スフィア」と呼ばれる1万8000席の最新設備を備えたコンサート・ホールだ。先ごろ行われたU2による柿落とし公演で、この施設の内部はさらに異次元な空間であることが分かった。



スフィアの座席配置は、古代ギリシャの円形劇場のようだ。小さな舞台を急な階段状の客席が囲んでいる。古代の劇場との大きな違いは、LEDパネルが埋め込まれたドーム状の天井が客席を覆い、座席のヘッドレストなどに合計16万個の高性能スピーカーが埋め込まれていること。スポーツのために設計されたスタジアムやアリーナでのコンサートと違い、どの席でも最高の音でライブなどが楽しめる設計である。さらに目の前に広がる壁に映し出される映像は、4Kテレビの何倍もの解像度。いわばゴーグルなしで体験できるVRだ。

体験型のデジタルアート

U2のコンサートは、このホールの特徴を生かしたもの。目の前の壁にメンバーがアップで投影されるのは数曲のみ。ほとんどの時間は、アート作品と呼ぶべき質の高いオリジナル映像が映されていた。誤解を恐れずに言い切れば、これはロックの音楽が流れる体験型のデジタルアートのショーだ。しかも圧倒的な没入感がある。観客は今までにない体験に酔い、コンサートの映像はSNSで世界中に拡散した。そんな動画を視聴して思った。生きているうちに絶対スフィアに行って、好きなアーティストのショーを観てみたいと。

U2はここで、年内に合計25公演を行う予定である。来年は別の大物ミュージシャンの長期公演が予定されているという。こうしてスフィアでしか体験できないショーを求め、人々はラスベガスを訪れることになるのだろう。ロンドンでは、二番目の施設の計画が進んでいるそうだ。スフィアの出現は、ショービジネスの構造を変えるかもしれない。

文=ジョー スズキ(デザイン・プロデューサー)

(ENGINE2023年12月号)