雑誌『エンジン』の人気企画、「2台持つとクルマはもっと楽しい」。同じブランドのクルマを複数所有するエンスージアストも少なくない。その基準はもちろん千差万別だが、今回紹介するポルシェの愛好家はメカニカルな部分でのパフォーマンスはもちろん、デザインや情緒的な部分の魅力を愛車たちに見出している。


足を踏み入れたバイクの世界

憧れの自動車ブランドがポルシェというクルマ好きは多いはず。それは歴代のモデルに共通する高い運動性能だったり、あるいはレースでの活躍の歴史に惚れ込んだりというところが理由として挙げられるだろう。一方でデザイン性の高さに惹かれる人も少なくない。今回訪ねたガレージには、そんな視点で選ばれたポルシェたちが並んでいた。オーナーは高瀬義昌さん。都内で訪問医療を主としたクリニックを営む医師である。



「父親の家系が自動車関連業だったり、親戚に自動車会社の重役もいたのでクルマは身近な存在でした。そんな影響もあって大学で機械工学を勉強しようとかとも思ったんですけど、結局は医療の道に進みました」

ご自身は信州の大学に進学。同時期に叔父さんから日産サニーGXを譲り受ける話もあったそうだが、父親の反対にあって消滅。ならばと足を踏み入れたのがバイクの世界だった。時間を見つけては上高地などで二輪の走りを覚えたという。

「だからクルマよりもバイク歴のほうが断然長いんですよ」と高瀬さんは言う。それはガレージに収まる愛車たちを見ればすぐわかる。主役は2台のポルシェ356だが、奥に4台のバイクが収まり、壁面には二輪用ヘルメットとウェアのセットが数種類用意されている。高瀬さんはヒストリック・バイクのレース・イベントに出場されているジェントルマン・ライダーなのである。




ラテンなポルシェ

「クルマは遅咲きかもしれません。最初の愛車は結婚のタイミングで買ったホンダ・シティ・カブリオレです。当時、かみさんが軽自動車を持ってはいたのですが、さすがにそれでは満足できなかったので」

初めてのクルマがオープンカーというのはなんともお洒落だが、バイク乗りらしい選択でもある。その後の愛車遍歴を聞いてみると、高瀬さんのクルマ選びではデザイン性が重視されていることもわかった。

高瀬家に最初にやってきたポルシェが94年式の964型911スピードスター。

「2011年頃だったかな、90年代のマセラティ・クアトロポルテがめちゃくちゃ格好良く見えたんですね。色々と調べて買おうかと思ったんですけど、周りからはとにかく『壊れるから絶対にやめろ』と言われまして(笑)。そんな時に出会ったのが964のスピードスターです」

その1994年式964型911スピードスターで高瀬さんのポルシェ生活がスタートし、いまに至る10年強の間に911S(73年式)、356Aクーペ(57年式)、356Aスピードスター(57年式)が加わり、今年になってさらに964型911カレラ4カブリオレ(90年式)も高瀬家の仲間入りを果たした。

「ポルシェって精緻なドイツの製品ではあるんですけど、特に356やスピードスターってイタリアンというかラテンの雰囲気があると思いませんか? そこにも惹かれています」

クーペと同じ57年式のロイター製ボディを纏った356Aスピードスター。足の良さが光る一台だ。ちなみに356と911では整備をお願いするガレージは異なるそう。やはり専門分野で秀でているところに任せるのが、幸せなヒストリックカーライフを送る秘訣かもしれない。


満遍なく注ぐ愛情

 最初のシティ・カブリオレはピニンファリーナ・デザインであり、クアトロポルテはガンディーニによる力作。何より、ポルシェたちより付き合いの長いバイクたちはほとんどがイタリアン。志向は一貫している。

「もうひとつ言えばドゥカティなどの単気筒や2気筒エンジンのどっこんどっこんというフィールも好きなんですけど、それってポルシェの水平対向エンジンにも通じますね」

356はクーペとスピードスターで乗り味がまったく異なるという。

「スピードスターは本当に足が良くて走りを楽しむなら断然こちら。その点、クーペは鷹揚。まだ手を入れてあげなきゃならない部分もありますが、それはそれで楽しみですね」



これだけポルシェがあると使い分けが難しそうに思える。

「いやぁ、確かに悩ましいですよね。クルマってやっぱり生き物のようで、えこひいきすると拗ねちゃいます。だから満遍なく扱うことを心掛けています。しっかりと走りを楽しみたいときは356スピードスターか911S。ナローは軽いですし切れ味も鋭い。本当のスポーツカーだと思います。一方で356クーペは緩くリラックスしたいとき用。964スピードスターも同様ですが、よりゆったり優雅にドライブできます。いまは息子のところに預けちゃっていますから頻度は減りましたけどね」

この取材に同席いただいた息子さんも高瀬さんと一緒にポルシェを楽しまれている。

「やはり父の影響は大きいですね。今年縁があって出会った964のカレラ4カブリオレも結局は僕のところに来ることになりました。これはMTでもあるので面白いですね」

そんな息子さんの言葉に高瀬さんが続ける。

「自分の興味を追求していくと、どうしてもあれもこれもってなってきますよね。経済的な負担はともかく、心は豊かになるからいいんじゃないかなって」

そうおっしゃる高瀬さん親子はふたりして満面の笑顔。イベントなどに参加する際もどちらが何に乗っていくかをいつも相談しているという。高瀬家のポルシェたちは、親子の絆を深めてくれるコミュニケーション・ツールでもあるのだ。

文=桐畑恒治 写真=望月浩彦

(ENGIN2024年2・3月号)