ヤフー・オークションで手に入れた7万円のシトロエン・エグザンティアを、10カ月と200万円かけて修復したエンジン編集部ウエダの自腹散財リポート。今回は海外篇として、フランス・パリ郊外にあるシトロエン博物館、“コンセルヴァトワール”の訪問記をお届けする。

誰もいない公園

アンドレ・シトロエンが眠るモンパルナス墓地近くのダンフェール=ロシュロー駅から、ふたたび電車に揺られることおよそ1時間。シャルル・ド・ゴール空港へ向かう車内は、スーツケースを手にしたトラベラーたちで、少し混み合っていた。目指すのは空港の少し手前の、ヴィルパントという駅だ。



ヴィルパント駅は公園の真ん中にある、バスのロータリー以外何もない駅だった。目指すコンセルヴァトワールはこの公園の南西の角の、向かい側にある。どうやら公園内を突っ切って行くのが、いちばん近道みたいだ。

それにしても風が冷たい。太陽は雲に隠れ、日差しもほとんどない。見えるのは、ひたすら暗い森と枯れた芝と石畳の通路だけだ。しかも時刻は10時を過ぎているのに、土曜日ということもあってか、行けども行けども人の気配がいっさいない。

シトロエン・プロダクション停留所

20分ほど歩いただろうか。景色がちっとも変わらないので不安になりかけたころ、ようやく自動車の行き交う大通りに出た。道ばたの看板には、向かう先が「ZONES INDUSTRIELLES」、つまり工業地帯、と書いてある。確かに大通りを挟んで公園の反対側に見えるのは、巨大な工場ばかりだ。

しばらく行くと3車線ある大きなロータリーが見えてきた。信号がないから、かなりの勢いで行き交うクルマに気をつけながら横断歩道を行く。渡り終えたところに、小さなバス停があった。ヴィルパント駅の1つ先の、空港寄りの駅からなら、ここまでバスで来られたようである。

停留所はなんとも素っ気ないことに「Citroen Production(シトロエン・プロダクション)」という名だった。……確かに間違いではないのだろうけど、どうせならちゃんと「Citroen Conservatoire(シトロエン・コンセルヴァトワール)」にすればいいのに。それともかつて工場があった頃からある、由緒ある停留所なんだろうか。

バス停を背に工場地帯へ入っていくと、もう1つ小さなロータリーがあり、その右手にシトロエンC4やC6たちと、無数のエグザンティアと、さらに見たことのない不思議な赤いスポーツカーが並んでいた。



エグザンティアの多くが、希少なグレードのACTIVA(アクティバ)であることはすぐに分かった。どれも日本で僕が乗っているエグザンティアと同じ、アクティバ専用のホイールを履いていたからだ。

その奥にも駐車場があり、次々やって来るエグザンティアたちがそこも埋め尽くそうとしていた。さぁ、気分が一気に盛り上がってきたぞ! そう、この日、2023年3月4日のコンセルヴァトワールは、エグザンティア・アクティバのオーナーズ・クラブ、その名も“アクティバ・クラブ”による、エグザンティア生誕30周年ミーティングの会場だったのである。

ようやく聖地に到着

ついに到着したコンセルヴァトワールは、まわりの工場に比べ、外観が近代的できれいな建物だった。正式名称は「Citroen & DS Conservatoire」といい、建物手前の緑のゲートには、シトロエンとDS、2つの最新のエンブレムがかかげられていた。



けれど、入口の上にかかげられていたエンブレムはあのダブル・ヘリカルギアをモチーフにしたちょっと前の白地に銀色のダブル・シェブロンだったし、左手に置かれていた石造りのオブジェは、かつてのフラッグシップ・モデル、シトロエンXMをモチーフにしたものだった。どう見ても、DSブランドは後から追加された感じである。例え名前にDSが加わっても、やはりここはシトロエンの聖地なのだろう。

そして、エグザンティアの車体ロゴを用いた手造りの小さな看板と、実車のエグザンティア・アクティバそのものも駐められていた。リポート車と同じ、ブルー・モーリシャスという外装色だけど、こちらは1997年以降の後期型だ。いやしかし、こんなに綺麗なアクティバを見るのは初めてである。



コンセルヴァトワールは現在、ミュージアムとして300台近いという世界一のシトロエン・コレクションを管理する傍ら、アクティバ・クラブなど趣味人たちの要請に応えてイベント用に会場を貸し出している。また、レトロモビルなどのクラシック・カー・イベントへ車両を貸し出すことも、大切な業務なのだそうだ。

なお、僕が訪れた2023年3月時点では、事前にコンセルヴァトワールの公式ウェブサイトから申し込みをし、クレジットカードで入館料10ユーロを支払っておけば入館はできた。しかし2023年9月以降、残念ながら15名以上の団体でのみの予約制になったようだ。毎月1回、土曜日に行われるガイド・ツアーのプログラムもあるらしい。

いよいよ内部に潜入

入口の行列に並んで、受付へ。入館料の確認で少々手間取ったが、オフィシャル・ウェブサイトからの支払い明細を見せてようやく館内へ入れた。エントランスの付近こそTシャツやミニカー、書籍などが売られており、明るくて今どきの、どこにでもあるシトロエン・ディーラーと、そんなに違いはないように見える。しかし、その先のミュージアム入口手前の展示のあたりから、恐ろしくディープな世界が広がっていた……。



おそらくコンセルヴァトワールが用意したのだろう。いちばん目立つところには、実車のシルバーのエグザンティア・アクティバが置かれていた。ミュージアム所蔵車両のようで、こちらは僕のリポート車と同じ前期型だ。「CITROEN XANTIA ACTIVA 1996」と書かれた黒い化粧プレートが付いている。



その手前に、なんとか両手で抱えられるくらいの大きさのエグザンティアのモックアップも展示されていた。おそらく開発当時、デザインの検討に用いられていたものだろう。しかもその下にはエグザンティア登場当時の、はじめて見る雑誌の記事やカタログが並べられている。



それによく見れば、そこかしこにあるガラスのショーケースの中の無数のミニカーの一番目立つところに、当然のようにエグザンティアが置いてある。当時のエグザンティアの広報資料やオフィシャル・フォトも、壁という壁に貼られていた。まいったな、これじゃ1つ1つ見ているだけで、あっという間に時間が過ぎて行ってしまう。



ちょっとトイレに行こうとすれば、そこにも過去の90周年イベントの時のディスプレイや、このコンセルヴァトワールの前身の、工場だった時代の写真などが並んでいた。

しかもこの日は特別で、どこに入るのもフリーだったようで、バックヤードの事務室まで(こっそりとだが)覗くこともできた。そこには資料用の車両外観写真や、クラシック・カー・イベントにコンセルヴァトワールが参加した時の写真や、数多くのトロフィーがきれいに飾られていた。

シルバーのアクティバの実車の前に戻ると、動画の収録だろうか、インタビューが行われていた。カメラを向けられているのは、アクティバ・クラブの代表、Thomas Beligne(トマ・ベリニエ)さんだ。実は彼とはこの時が初対面だったのだけれど、事前にSNSを通じてやりとりをしており、この催しに参加することは伝えていたので、すぐ僕に気がついて声をかけてくれた。



しかも彼はアクティバ・クラブのメンバーに僕が来ることを知らせ、エグザンティア・アクティバの助手席での体験試乗をセッティング。さらにイベント終了後、シャルル・ドゴール空港へ僕を送るためのクルマまで用意できるという。

ポーランドでもたくさん親切にしてもらったけれど、フランスでもこうしたうれしいサプライズをいくつも準備してくれたことには、本当に感謝しかない。趣味の世界に国境などない。同好の士とは、つくづくありがたいものだ。

もう1人の日本人訪問者

この後にも、うれしい出会いがあった。背中から急に、日本語で呼びかけられたのだ。「あ、やっぱり、日本の方ですか?」という声の主は、渡邊 健(たける)さん。彼はこのときメルセデス・ベンツ日本の社員で、メルセデス・ベンツ・グループAGに出向中。アクティバ・クラブのイベントのことなどまったく知らず、たまたまこの日、ドイツからコンセルヴァトワールを訪問したのだという。



渡邊さんはプライベートでレースのお手伝いなどをしており、ラリーも大好きで、シトロエンのWRカーを見に来たんです、と教えてくれた。お目当てはセバスチャン・ローブの乗ったクサラなのだそうだ。

まさかここまで来て日本語でしゃべれるとは思わなかったので、ついつい話し込んでしまい、またしてもけっこうな時間が過ぎてしまった。気がつくと、アクティバ・クラブのメンバーの同伴者など、初めてコンセルヴァトワールに来る人向けに、ガイド・ツアーが始まろうとしていた。

そちらも気になったけれど、どうやらガイドはフランス語で行われるようだ。それにアクティバ・オーナーたちはすでに何度もここに来ているのだろう。お昼過ぎくらいまで駐車場で、クルマを前に語り合っている人が多いらしい。



そこで僕はもう1度駐車場に戻り、たくさんのエグザンティア乗りたちに声をかけてみることにした。コンセルヴァトワールの本来の目玉である展示車両もいち早く見てみたかったけれど、それと同じくらい、アクティバのオーナーたちがどんな人なのか、さっきの怪しい赤いスポーツカーは何なのか、知りたくてたまらなかったからだ。

さて次回の番外篇では、謎のスポーツカーの正体や、3リットルV6ユニットと5段MTを搭載する、いわば最も豪華でいちばん速いエグザンティア・アクティバへの同乗試乗の模様や、様々なエグザンティア・オーナーの声を紹介していく。

また、もちろんコンセルヴァトワール内部の膨大なシトロエン・コレクションの紹介と、秘密のバックヤードへの潜入リポートもお届けする。さらには今回のイベントの目玉の、かつてのエグザンティアの開発者たちが登壇する、スペシャル・プレゼンテーションについてもご報告していきたいと思う。

文と写真=上田純一郎(ENGINE編集部)

■CITROEN XANTIA V-SX シトロエン・エグザンティアV-SX
購入価格 7万円(板金を含む2022年9月時点までの支払い総額は232万336円)
導入時期 2021年6月
走行距離 16万5626km(購入時15万8970km)

(ENGINE WEBオリジナル)