アバルトの魅力を思う存分に堪能してもらいたい、そんな思いから始まったのが、このアバルト・ドライビング・アカデミー。今回はオーナーの方々に交じって、その魅力と真価を体験してきた。

日本とアバルトのつながりは長く、深い

若かりし時はモーターサイクル・レーサーとして名を馳せたカルロ・アバルトが、チシタリアのレース部門を引き継ぐ形で自身のコンストラクター、アバルト&Cを立ち上げたのは1949年のこと。

程なくその名声が知れ渡ると、1964年に山田輪盛館によって初めてモノミッレ・クーペが輸入されるなど、日本とアバルトのつながりは長く、深い。そうした背景もあってか、2007年に復活を遂げてからの日本におけるアバルトの人気は凄まじく、2022年にはイタリアを抑え世界販売台数1位を記録したほか、それ以外の年でも2位を記録する好調ぶりを見せている。

TECNICO(テクニコ)、BASE(バーゼ)、SCORPIONNA(スコーピオンナ)の3クラスで89台が参加。

6月2日に富士スピードウェイで開催

そんな日本のカスタマーに向け、よりアバルトのドライブの面白さ、世界観を感じて欲しいという思いからさる6月2日に富士スピードウェイを舞台に開催されたのがアバルト・ドライビング・アカデミー&スコーピオンナ・ドライブだ。

コロナ禍によって4年ぶりの開催となったアバルト・ドライビング・アカデミーは、2012年に始まったアバルト・ドライビング・ファンスクールをもとに2014年から行われてきたもので、基本となる運転技術を学ぶBASE(バーゼ)クラス、すでにサーキット走行経験済み、もしくはBASEクラスを受講済みのワンランク上を目指すオーナーを対象としたTECNICO(テクニコ)クラスを用意。今回はそこに女性オーナーを対象に基礎からスポーツ走行までを学ぶSCORPIONNA(スコーピオンナ)クラスも併せて開催された。

盛岡から北九州市まで全国から駆けつけたという参加者は、バーゼ46台、テクニコ27台、スコーピオンナ16台の計89台にのぼり、アバルト・オーナーの熱意を数字でも実証する結果となった。

今回はその中のテクニコ・クラスに参加する機会を得たので、あわせてレポートしていきたい。



レッスンは広い場所で行われるので、安心して走行できる。

レッスンごとに注意点などをレクチャー。

座学から実践まで、内容は盛り沢山

プログラムは、午前中にクリスタルルームでの座学からはじまり、その後各自の愛車で場内のP2駐車場を使っての実地。そして午後は本コースに舞台を移し、インストラクターを助手席に乗せて(運転してもらうことも可)の同乗レッスン、先導走行、そしてパレード&記念撮影を挟んでの、30分間×2のフリー走行。さらには午前のプログラム終了後にP2駐車場でパイロンコースを使ったアバルト500eの体験試乗も実施。もちろんお昼にはランチやドリンクが用意されるほか、最後には修了証とオリジナルTシャツなどの記念品も贈られるなど、細かな部分にまでケアが行き届いた盛り沢山な内容となっていた。

レッスンは座学からスタート。

お昼のお弁当はイタリアン。ティラミスの上にはサソリのマークがあしらわれている。

参加者にはここでしか手に入らないオリジナルのTシャツをはじめ、多数のお土産が用意されている。

実に有意義な経験

中でも印象的だったのは、午前に駐車場でパイロンを使ったプログラム。ブレーキング、コーナリング、パイロンスラロームを通じて、荷重移動とトラクションの掛け方を学び、アンダーステアを出さずに安全かつスムーズに曲がるということを目標に行われるのだが、半分ずつに分けられたグループを2人のインストラクターが担当し、それぞれが違う場所から観察し、リアルタイムに感想、アドバイスをくれるため、自分では気づかなかったことを分かりやすく教えてもらい、すぐに反映、修正出来たのは、実に有意義な経験だった。

また「こういう機会はなかなかないですから、敢えてチャレンジしてみて、失敗するのも良いと思います」と、すべてをがんじがらめにするのではなく、個人の技量、裁量にあわせてくれるところは、ビギナーだけでなく、ベテランでも楽しんで学べるポイントだと思う。

フルブレーキに続いて、制動力をコントロールして所定の場所にクルマを停止させる。

3つ目のレッスンはスラローム。

回転半径が異なる大小2つのコーナーを設定。

最新のアバルト500eにも乗れた

レッスンの合間には、P2駐車場の特設パイロンコースを使った、アバルトの最新モデルである初の電気自動車であるアバルト500eの体験試乗会も行われた。愛車で走った直後ということもあって、皆さん十分にアバルト500 eの実力を体験できた様子。そこで、2人のオーナーの方に、アバルト500eの感想を伺ってみた。

500eの走りについてはスムーズという声が多く聞かれた。

1人目は、595コンペティツィオーネで参加している六崎龍太郎さん。なんと現在22歳という若者だ。

「初めてのクルマがこのアバルトです。父がディーラーで見て“自分が乗りたい”と買ったクルマですが、今では私が袖ヶ浦や富士でサーキット走行を楽しんでいます。個人的にはガソリン・エンジンを吹かして乗るのが好きなんですが、アバルト500eは乗りやすさもあって、サウンドも面白いと思いました。あと思いのほか軽い感じがしてスイスイ走りますね。あんまり調子乗りすぎたらいけないって思うほどでした(笑)。お金に余裕ができたら、1台あってもいいなと。時代の流れとして、こういうクルマも良いなと思いました」

アバルト500eについて、「乗りやすくて、サウンドも面白いと思いました。お金に余裕ができたら、1台あってもいいな」という感想を答えてくれたのは、テクニコに参加していた六崎龍太郎さん。

2人目は小川篤太郎さん。小川さんも愛車は595コンペティツィオーネだ。

「595に乗るようになって1年半。奥さん用に買ったのですが、面白かったので自分でも乗るようになりました。他のクルマではよく走っていますが、アバルトでサーキット・イベントに参加するのは今回が初めてです。アバルト500eには1回ディーラーで10分ほど乗ったことはあるのですが、改めて出足の良さ、そして重心の低さが印象に残りました。サウンドがいいので、エンジン車とEVの良いとこ取りって感じがしますね。それぞれ味は違いますが、アバルト500eの方がスムーズ。十分アバルトを感じました。見た目もむしろカッコいいと思います」

お二人ともに、とくに500eの乗りやすさとエンジン音を忠実に再現したサウンドが印象に残っているようだ。

小川篤太郎さんは、「エンジン車とEVの良いとこ取りって感じがしますね。十分アバルトを感じました」と、アバルト500eについて語ってくださった。

アバルトの実力が存分に試せる

その基礎レッスンを踏まえて本コースに繰り出した午後は、生憎の雨模様となってしまったが、数グループに分けて行う富士スピードウェイの本コースで行われた同乗走行では、雨ならではの注意点、ドライとウェットでのライン取りの違いなどをインストラクターが無線を使って他のクルマにも伝えてくれるため、心理的にも良いウォームアップとなった。

こうしたきめ細やかなレクチャーを経たこともあり、最後に用意されていたフリー走行では、ヘビーウェットだったにも関わらず、誰もコースアウトなどアクシデントを起こすことなく無事に終了。インストラクターからは「皆さんレベルが高い」という声が上がったが、それも午前中から徐々にレベルアップしていき、本コースでのフリー走行を迎えるというアバルト・ドライビング・アカデミーのプログラムの組み立て方の上手さがあってこそなのは言うまでもない。

アバルトの実力を存分に試す場所として、アバルト・ドライビング・アカデミーは絶好の舞台であると断言できる。

インストラクターが助手席に乗って、サーキットの走り方やライン取りをレクチャーしてくれる。

インストラクターが運転する先導車に続いて、ブレーキング・ポイントや走行ラインを学ぶ。

楽しんでいただけることを提供

最後に、今回のイベントを行った意義について、ステランティス・ジャパンの打越晋社長に伺った。
「世の中には他にもパフォーマンスが高いクルマはたくさんありますが、アバルトは手頃なサイズで最大限のパフォーマンスを引き出せるのが魅力だと思っています。だからこそ買っていただいたお客様自身に、より楽しんでいただけることを提供していきたい。そこでアバルトって何が一番楽しいんだろうって考えた時に、一番アピールできるのはやはりドライブする楽しさだということで開催したのがアバルト・ドライビング・アカデミーなのです。我々としてはこれからもこういう活動を続けていきたいと考えています」

また今回はアバルト500eの体験試乗も行われたが、これからのアバルトについては、どういう展望をお持ちなのだろうか?

「従来のICE(内燃機関)にはアナログチックな良さがありますが、BEV(バッテリーEV=電気自動車)にもアバルトの正常進化と言える楽しさがあると思っています。憧れている方にはぜひ乗っていただきたい。そのためにもこれからもネットワークを増やしていく予定です。その一環として、ステランティスで扱う様々なブランドを一拠点に集めたステランティス・ブランド・ハウスを作る計画を日本でも進めています」

インストラクターがアバルト500eをレクチャー。

スコーピオンナ・クラスの参加者と同伴者。

日本市場向けF595と695の生産が終了

そこで最後に気になるのが、内燃機関を積んだアバルトの行方だ。

「確かに、今世界中でICEの生産が終了するという噂が広まっていて、各国で争奪戦になっています。その中でステランティス・ジャパンも努力して台数を確保しているので安心してご購入いただけます」

打越社長がこのようにコメントした今回のイベントから約2週間後の6月13日、残念ながら、ステランティス・ジャパンから5月でアバルトF595と695の日本仕様の生産が終了したことが発表された。つまり、購入できるのは、すでに日本に到着している在庫と、今、船に乗って日本へ向かっているクルマのみになったということだ。

打越社長によれば、十分な台数が確保されているようだが、台数に限りがあるのもまた事実。今や貴重な内燃機関のFFホットハッチを味わいたいならば、早めにディーラーを訪ねることをお勧めする。そしてその実力を存分に試す場所として、アバルト・ドライビング・アカデミーは絶好の舞台であると断言できる。

89台が走る姿は圧巻のひと言。

文=藤原よしお 写真=茂呂幸正、ステランティス・ジャパン







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