80歳のひ孫持ちヒロイン爆誕『傘寿まり子』漫画家に聞く

『傘寿まり子』は、80歳のヒロインが自宅の改築や友人の孤独死を受けて自分の人生を考え直すため家出をする、第二の“青春”漫画だ。漫画家のおざわゆきさんに話を聞きました。


「年をとっても仙人にはなれない」


――ひ孫がいる80歳という設定には驚きました。なぜ高齢者を主人公にした漫画を描こうと思ったのでしょう?
おざわゆき(以下 おざわ) 最近のお年寄りって昔よりも元気だと思いませんか? 皆さんオシャレだしとっても活動的。以前踊りを習っていた時も姐弟子の皆さんが70代とかなのにパワフルだなぁと思っていて、それでふと「お年寄りを主人公にしたらどうだろう?」と思ったんです。それで高齢者の方が書いたエッセイなど色々読んだのですが、物を持たず、食事に気を使い、人と仲良く…とまるで仙人のように達観した生き方が書かれていて…。それはそれでステキです。でも私は無理だと(笑)。うちの母も80歳をこえて身体にガタは来ていても人間的には昔と全然変わらない。年をとると煩悩のようなものとは離れていくようなイメージがあるけれど、私を含め皆が皆そうはなれないんじゃないかなと思いました。《年をとっても仙人にはなれない》というのが、この漫画のテーマの1つなんです。
――まり子らが口にした「好きで年寄りになったんじゃない」というセリフは胸が痛かったです。抗えないことだからといって簡単に受け容れられるわけではないのだなと。
おざわ このシーンは、自分が誰からも必要とされていないと感じたまま、死までの時間をすごすとはどういう気持ちなのか想像して描きました。すごい時間だと思いませんか? 年をとり、やらなければならない仕事もなく、何かを生み出すわけでもない、年寄りというだけでぞんざいな扱いを受ける事もあるわけで、それが死ぬまで続く。足掻く気持ちや心の奥底から絞り出すような悲しみや憤りがあると思います。まり子も四世代同居の結果、息子や孫家族たちが家の中心となり、だんだんと隅に追いやられていきます。終の棲家だと思っていた家に居場所をなくした彼女のように、胸にくすぶった思いを抱えながら諦めて枯れざるをえない人がいるのかと思うと、すごく悲しかった。多分少し前だと隠居という感じで仕事を引退して、年をとって亡くなるまでの心構え的なタイムがあった気がします。今は気持ちの余裕がないまま放り出されるという感じだと思うんです。


老いらくの恋は醜悪か


――まり子の家族はそれぞれ0歳、20代、50代です。まり子を含めた四世代それぞれの老いに対するイメージはどのように描きわけていますか?
おざわ 赤ちゃんはいいとして(笑)、孫世代にとって老いは自分のものとしては遠く、社会的に背負わされているものです。年金や介護の問題を抱えてそんなにのびのびできない現実をこれから生きなきゃいけないと思っている感じですかね。私はまり子の子供と同じ世代ですが、そこにあるのは知っているけれど、もう少し見て見ぬ振りをしていようかなという感じ。そんな逃げてはいられないのはわかっているんですけどね(苦笑)。まり子くらいの年齢になると老いは当たり前のようにそこにある日常です。いわば老いのベテランであり、プロですね。社会的にも体力的にも弱者であることを受け容れているからこそ、現実を見て考えられる。私、80歳って自分の人生について考える一番ちょうど良いタイミングだと思うんです。
――それでも80歳で家出するというのは予想外でした。昔好きだった男性と同棲を始めたりして、まり子現役だなぁと(笑)。
おざわ 実は最初は家族が独立してひとり残されたおばあちゃんがどう生きるかというお話になる予定でした。あたふたして皆に帰ってきて欲しいと願うのですが何か違う気がして、逆におばあちゃんに出てもらうことにしたんです。これを思いつくまではかなり時間がかかりましたが、決まった後は割とスム―ズでした。同棲の話は変に生々しくならないように気をつけています。日本は良い年をした大人が恋愛に現を抜かしたりするのをみっともないとか醜いと見るきらいがありますが、そのことにもずっと違和感があったんです。本人が恋は引退したと言ったわけでもないのに、なぜ周りが決めつけるのだろうって。そういう人たちだって胸をときめかせり顔を赤らめるようなロマンティックな思いを抱くことがあってもいいじゃないって。


年をとるのも悪くない


――同棲以外にも猫を拾ったりと放り投げられない問題が山積みです。動物愛護センターに犬猫が持ち込まれる理由の上位には、飼い主の高齢化や死があるといいます。今後のまり子はどうなっていくのでしょうか?
おざわ ペットの問題はとても難しいですよね…。世の中にはペットを飼っているお年寄りがたくさんいますし簡単に結論を出せることではありません。まり子も答えを出さなければいけない時がきます。でも無責任ではないというのは出していきたいです。先がないところに突き進んでいるように見えますが、ちゃんと彼女が彼女らしく生きられる道を探すつもりです。ニュースを見ると年をとると体は動かなくなるはお金はなくなるは詐欺には遭うは子供は離れていくはってそんなことばかり。でもそうじゃなくて、年をとるのも悪くないかなと、ちょっと希望が持てるのがまり子の物語であって欲しいなと思うんです。
――「残りの人生って何? 本当は何かのおまけの様な人生を生きるひとなんていない」「死ぬ瞬間までそれは人生の本番で真剣勝負じゃないの」「高齢者という名前だけど私は私」というまり子のセリフにはグッときました。恋愛に限らず、生涯現役であろうとするまり子はパワフルでカッコ良いです。
おざわ 彼女のバイタリティは、小説家としてずっと現役でやってきたことが大きいかもしれません。自分は大丈夫と思えることがあったんですよね。主婦として生きていないので、もしかしたら少し浮世離れしているところもあるかも。あんまり枯れて欲しくないという私の願望も投影されています。最初は腰が痛い、ここが痛いだの描いていましたが取っ払っちゃいまいした。そんなにおばあちゃんおばあちゃんしてなくていいかなって。結果、新しいおばあちゃん像になったな〜と感じています。
――まり子みたいなパワフルかわいいおばあちゃんになりたいです。
おざわ かわいいというのはまり子を描く時に気をつけていることなんですよ。チャーミングで老いさらばえた感じには描かないと決めています。私も同じように思ったのですが、久世番子先生の漫画で「年をとってオシャレでかわいいおばあちゃんって若いうちからそう」って描かれていて、「あ…そうなんだ」ってガックリしちゃいした(笑)。

『傘寿まり子』は「BE・LOVE」で好評連載中。試し読みはこちら。


おざわゆき
漫画家。父親のシベリア抑留体験を漫画化した『凍りの掌』、母親の空襲体験をもとにした『あとかたの街』で第44回日本漫画協会賞大賞を受賞。猫も好きだがわりと犬派。


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