福岡の書店員さんに福岡ゆかりの本を紹介してもらうファンファン福岡の「福岡キミスイ本」シリーズ。67回目は「本のあるところ ajiro」(福岡市中央区)の田中慈音さんを訪ねました。あわせて、この時期に読みたい話題の6冊を紹介します。

福岡市在住の直木賞作家がつづる短編小説集

「わたしはわたしで」東山彰良著

「本のあるところ ajiro」の田中慈音さんに聞きました

―こんにちは! 田中さんがおすすめする福岡ゆかりの本を教えてください。

 こんにちは! 福岡市在住の作家・東山彰良さんの短編小説集「わたしはわたしで」(1,980円、税込み)を紹介します。当店を運営する書肆侃侃房(しょしかんかんぼう)が2023年12月に刊行した本です。6編のうち「I Love You Debby」は、東山さんの直木賞受賞作「流」の続編として読める、サイドストーリー的な作品なんですよ。

「わたしはわたしで」東山彰良著。後半3編は福岡が舞台

―6編のうち、田中さんが特におすすめする作品は。

 東山さんのメッセージを一番感じる表題作「わたしはわたしで」です。舞台は福岡。主人公の女性はコロナ禍で仕事を失い、再就職はうまくいかず、面接ではセクハラを受けるなど、みじめな状況にあります。前職場の男性と不倫関係にあったことも彼女の心を曇らせていました。ままならない自分をつなぎとめるように、彼女は小説を書き始めます。そんなある日、長期不在となる元同僚の女性宅で犬の世話のアルバイトをすることになるのですが…。

 東山さんがこの作品を書いたのはコロナ禍。著者のインタビュー記事では、現実がフィクションを超えてしまったような非日常の中で、フィクションを書くことに悩んだ時期だとおっしゃっていました。

東山彰良さんのエッセイ「Turn! Turn! Turn!」も気になりました

 また、東山さん自身、大学の非常勤講師をしながら博士論文執筆に苦戦し、追い詰められた状況で小説を書き始めたそうです。東山さんが置かれた状況を複層的に主人公に重ね合わせることができました。

 「良い小説はどれもあきらめについて書かれている(中略)だって、あきらめるということはつまりありのままの自分自身を受け入れるということで、新たな存在の可能性へはそこから切り込んでいくしかないのだから」という一節があります。東山さんが小説を書く原点がこの作品の中で伝えられているのではないでしょうか。

―東山彰良さんが「コロナ禍」や「小説を書くこと」に向き合った作品なのですね。
 作家としての矜持(きょうじ)を感じました。「ままならなさを受け入れろ、あきらめて、前を向け」ということがどの作品にもどこか通底しているように思います。「苦みを含めて、料理として完成している」といった読後感が魅力です。

―どんな人に読んでほしいですか。
 小説や自分のことを書きたい気持ちがある人。それから、前を向き直す物語が多いので、今の状況がままならない人、孤独を感じている人にも読んでもらいたいです。

書肆侃侃房の本は併設のカフェを利用しながら試し読み可能。そのほかの購入した本はドリンクをおともに読めます

ー「本のあるところ ajiro」では、さまざまなイベントがあるとか。
 はい。直近では、5月27日(月)に韓国エッセイ「詩と散策」の翻訳者を招いての読書会を、5月30日(木)に「エドワード・サイード ある批評家の残響」の刊行記念トークイベントを予定しています。

書肆侃侃房が運営する書店「本のあるところ ajiro」。海外文学のほか、短歌、詩、エッセイなどが並びます

ーありがとうございました! カフェでひと息ついたり、イベントに参加したり、すてきな時間が過ごせそうです。
 続けて話題の6冊を紹介します。

「おなか・太もも みるみる締まる! 恥骨リリース」【Gakken】

骨格矯正ピラティス指導者 miey著/1,760円(税込み)

提供:Gakken

 SNS総フォロワー150万人超え、骨格矯正ピラティス指導者mieyの最新メソッド。「付属のボールを使って骨まわりをゆるめて動かす→筋肉をきゅっと締めれば、下腹ぺたんこ&スラリ太ももの理想体型がスピーディに叶(かな)う!」と本書。 エクササイズはオリジナル動画でも見ることができるので、初心者でも無理なく取り組めます。

「源氏物語 紫式部が描いた18の愛のかたち」【青春出版社】

板野博行著/1,848円(税込み)

提供:青春出版社

 「源氏物語」は、世界に誇る日本の古典文学作品であると同時に、今読んでも最高に面白い超一流のエンターテインメント作品です。「『源氏物語』は読みたいけれど、長いし、話も複雑だから、ちょっと…」と敬遠している人がいたら、もったいない! ぜひこの本を通じて、世界最高の文学である「源氏物語」の世界に触れてみてください。

「バッタを倒すぜ アフリカで」【光文社】

前野 ウルド 浩太郎著/1,650円(税込み)

提供:光文社

 世界初! バッタの〝婚活〟の謎を解明! 日本、モーリタニア、モロッコ、アメリカ、フランス……。世界中を飛び回り、13年にわたって重ねてきたフィールドワークと実験は、バッタの大発生を防ぐ可能性を持っていました。新書大賞受賞、25万部突破の「バッタを倒しにアフリカへ」待望の続編。異色の科学冒険ノンフィクション、再び!

「増補版 九十八歳。戦いやまず日は暮れず〔文庫〕」【小学館】

佐藤愛子著/803円(税込み)

提供:小学館

 「増補版 九十八歳。戦いやまず日は暮れず」「九十歳。何がめでたい」がバカ売れして怒濤(どとう)狂乱の日々を送るうちに気力体力衰えて―。「病院に行くのは、死ぬ時だけ」と決心するに至った顚末(てんまつ)から再びの断筆宣言まで、コレが愛子センセイ“暴れ猪人生”の集大成。林真理子さん、綿矢りささんとの対談、群ようこさんの寄稿を新たに収録! 映画原作本の続編、ついに文庫化!

「定食屋『雑』」【双葉社】

原田ひ香著/1,760円(税込み)

提供:双葉社

 真面目でしっかり者の沙也加はある日、夫から離婚を切り出されます。理由を隠す夫の浮気を疑い、頻繁に夫が立ち寄る定食屋を偵察することに。その店には、ひとりで店を切り盛りする老女がいました。沙也加は夫の真意を探るため、この定食屋でアルバイトをすることになり—。ベストセラー作家が贈る心温まる定食屋物語。

「給食を通じた教育で子どもたちが学んだこと」【農文協】

和井田結佳子著/1,980円(税込み)

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提供:農文協

 学校給食は本来、誰のためのもの?「地域に根ざした学校給食」を体現した、京都府旧久美浜町川上小学校。1976〜87年当時の関係者への詳細なインタビューを検討することで、教育学の視点から学校給食を問い直し、実り多き時間にするために私たちができることを考えます。

 いかがでしたか。新緑爽やかな中、読書の時間を持ってみては。次回もお楽しみに。

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