令和5年3月、こども家庭庁は「こども政策の強化に関する関係府省庁会議」などで議論された内容を受けて、「こども・子育て政策の強化について(試案)〜 次元の異なる少子化対策の実現に向けて〜」を取りまとめました。   前回は、そのなかで語られている「問題意識」と「基本スタンス」、「基本理念」について確認しました。基本理念には大きく3つの柱がありましたが、今回からは政策を実現するための「こども・子育て支援加速化プラン」について具体的に見ていきたいと思います。

こども・子育て支援加速化プランの5つの柱

まずは、前回のおさらいとして、こども・子育て政策における3つの基本理念を確認します。


(1)若い世代の所得を増やす
(2)社会全体の構造・意識を変える
(3)全ての子育て世帯を切れ目なく支援する

簡単にまとめると、所得を増やし、子育てに対する社会全体の価値観を変えて支援を行うということですが、そのための方法論が「こども・子育て支援加速化プラン(今後3年間)」で、図表1の資料では5つの柱で構成されています。
 
図表1


出典:こども家庭庁 「こども・子育て政策の強化について(試案) 〜次元の異なる少子化対策の実現に向けて〜(概要)」


(1)制度のかつてない大幅な拡充
(2)長年の課題を解決
(3)時代に合わせて発想を転換
(4)新しい取組に着手
(5)地域・社会全体で「こどもまんなか」を実現

上記の5つをもって、何が従来とは次元が異なるのか例として示しているようです。この内容を見ると、個人的にはかなり変化しそうな印象を受けますが、主なポイントについて確認していきましょう。
 

 

こども・子育て支援加速化プラン、1つ目のポイント

こども・子育て支援加速化プランでは5つの柱がありますが、今後3年間で具体的な内容を決めていくようなので、概要としてポイントを整理するにとどめているようです。まず、「1 ライフステージを通じた子育てに係る経済的支援の強化」における、主なポイントを見ていきます。
 
図表2


出典:こども家庭庁 「こども・子育て政策の強化について(試案) 〜次元の異なる少子化対策の実現に向けて〜(概要)」
 
大きく分けると「児童手当の拡充」「授業料後払い制度の導入」「こども医療費助成に係る国保減額調整の廃止」「出産費用の見える化と保険適用を含めた在り方の検討」「子育て世帯に対する住宅支援の強化」の5つとなっています。
 

(1)児童手当の拡充

ファイナンシャル・プランナー(FP)として、実務的に多くの方が関心を寄せるのは、おそらく「児童手当の拡充」だろうという印象です。
 
現行の所得制限を撤廃する、高校生まで支給を延長する、多子世帯への給付額を増やす、といった内容が盛り込まれていますが、児童手当は家計においては収入に当たるため、収入が増加するという意味で用途は広がる可能性が高まると考えることができます。
 
2022年に児童手当が拡充されるかもしれないという情報が出たあとで、子育て関連企業の株式が買われたことを思い返すと、経済波及効果がありそうだと考えることはもちろんできますが、一方で、便乗値上げも広がるだろうという想像もできてしまいます。
 
児童手当は福祉政策であるのと同時に、経済政策にも位置づけているようなので、これに変更を加えるという政策は一定の成果が期待できるように思います。
 
ただし、児童手当について拡充という意味ではプラスの効果は確かに期待できますが、対象となる子どもの数が少ないため、予算規模も少なく済むという点で政策に盛り込みやすいのだろうという推測はしています。このように考えると、実現の可能性は高いといえるでしょう。
 

(2)授業料後払い制度の導入

次に「授業料後払い制度の導入」です。これは大学院の修士課程に進学する学生に対する支援ですが、在学中に授業料は徴収せず、卒業後に所得に応じて支払うという、いわば納付開始時期の先送り制度です。
 
これについては以前から議論がありますが、こども・子育て支援加速化プランにおいて内容を詰め、拡充も視野に検討するようです。授業料後払い制度についても児童手当の拡充と同様、対象となる学生数が少ないため、予算がつけやすいように見受けられることから実現可能性は高いのかもしれません。
 

(3)こども医療費助成に係る国保減額調整の廃止

「こども医療費助成に係る国保減額調整の廃止」は、簡単にいうと、自治体ごとに子どもの医療費の助成が独自に行われている状態を見直すということです。自治体によって差が生じていることから、子どもの医療費に係る公平性を確保する方向にかじを切るという意味です。
 
FPとして実務的には、個々の家庭において家計面ではおおよそ医療費負担に格差はないといえますが、地域によっては負担感が生じている場合もあります。こちらについても予算規模としては少なく済むためといったところでしょう。
 

(4)出産費用の見える化と保険適用を含めた在り方の検討

「出産費用の見える化と保険適用を含めた在り方の検討」について、報道ベースで確認できる内容としては、健康保険の適用対象外の出産費用について適用できるように図るという意味でしょう。
 
現行の制度では、通常の出産、つまり正常分娩(ぶんべん)については病気やけがではなく、治療を伴うものでもないため、健康保険の適用対象外となっています。
 
出産時は公的医療保険から出産育児一時金が支給されますが、産前産後で入院などが伴う場合も含めると、保険適用としたほうがトータルで出産に伴う費用の軽減につながるため、この点を見直そうとしているのだろうと考えています。
 
とはいえ、現状の議論では対象を正常分娩の費用としているので、それだけを考えた場合、果たして費用負担の軽減につながるかどうかという疑問は残ります。どのように調整していくかが鍵になるのかもしれませんが、現行制度の付け替えであるため予算規模としては少なく済むのでしょう。
 

(5)子育て世帯に対する住宅支援の強化

最後に「子育て世帯に対する住宅支援の強化」ですが、資料では表示が特に強調されており、国としては子育てに係る経済的支援の強化のなかでも大きな扱いにしているようです。
 
住宅支援の強化について具体的には、子育て環境として優れた地域の公営住宅などを対象に、子育て世帯が優先して入居できる取り組みを進めるとしています。
 
また、支援を必要とするひとり親世帯などを含め、住宅に入居しやすい環境を整備する観点から、子育て世帯の入居を受け入れるセーフティーネット住宅や空き家の改修など、既存の民間住宅ストックの活用も検討されるようです。
 
そのほかにも、住宅取得時の金利負担の軽減を目的に、住宅金融支援機構のフラット35(長期固定金利住宅ローン)について、特に広い住宅を必要とする多子世帯に配慮しながら支援の拡充を図るとしています。
 
これらの大本になっている政策はすでに実施されているため、住宅支援としては足りているのかもしれませんが、足りない部分、さらに強化すべき部分について盛り込んでいるという印象でしょうか。そのように考えると、こちらも予算規模としてはそれほど大きいものではないように映ります。
 

まとめ

今回、こども・子育て支援加速化プランのポイントとして取り上げた「ライフステージを通じた子育てに係る経済的支援の強化」は、どちらかというと効果はありそうとはいえますが、国の予算としては少なく済むものをラインアップしているような印象をどうしても受けてしまいます。
 
なぜ、そのような印象があるのかというと、“異次元”や“次元の異なる”といったフレーズに対し、政策としてどうしても小粒感は否めないからです。
 
また、これは実際に新婚世帯や子育て世帯の相談に応じているFPとしての感想ですが、今回取り上げた子育てに係る経済的支援の強化で出生率が大幅に改善するとは到底思えず、異次元とするならば、やはり教育費の全面無償化くらいは実行しないと国民からの評価は得られないようにも思います。
 
子育てに係る経済的支援の強化によって、子育て期の家計の状況が従来よりは多少改善される可能性はあるものの、子育てが終わったら悪化しやすくなることも前提にライフプランを立てていく必要があると考えておくべきかもしれません。
 

出典

こども家庭庁 こども・子育て政策の強化について(試案) 〜次元の異なる少子化対策の実現に向けて〜
こども家庭庁 こども・子育て政策の強化について(試案) 〜次元の異なる少子化対策の実現に向けて〜(概要)
 
執筆者:重定賢治
ファイナンシャル・プランナー(CFP)