1993(平成5)年9月の国連総会で、毎年5月15日が「国際家族デー」として指定された。各国が家族に関する課題についての認識と理解を深め、その課題解決に向けた活動を促す。

時代とともに変化する家族の形

社会保障制度などの各種制度は、父親と母親に2人の未成年の子供という、4人の世帯を標準世帯として運営することが多い。しかし、現実は未婚者や非正規雇用の増大で、年老いた両親やひとり親と同居する若者で世帯を構成する例が増加中だ。経済的に独立し得ない50代の子供が、80代の親のもとで親の年金を頼りに生活する、いわゆる「8050問題」などもしばしば報道される。

さらに、結婚しないで1人暮らしをする若者が増える一方で、配偶者を亡くした高齢者の1人暮らしも増加し、独居世帯は多い。とりわけ、高齢者の1人住まいは全世帯の約20%となり、孤独死の問題もあり新たな社会問題として浮上している。

高度成長期の時代に地方から都会に働きに出て家庭を持つ人が増え、いわゆる核家族が家族形態の主流となったが、それ以前は祖父母と父母、その子供たちといった3世代同居が通常の家族の形であり、お互いに支え合って暮らしたものだ。

その核家族の時代も過去のものとなりつつあるが、こうした標準世帯は第2次世界大戦後の高度成長期の時代に大勢を占めたに過ぎず、江戸時代を含め歴史的にみても、伝統的な家庭の形態とはいえない。時代とともに家族の形は変遷するものらしい。

筆者の若い頃にはまだ少なかったが、かなりの期間を同棲生活で暮らした後に、結婚に踏み切るカップルも多くなった。フランスなどの西欧諸国では、法的な結婚をしないで共同生活をする事実婚も多いが、日本でも散見されるようになった。

同性婚の報道にも、さほど驚かなくなった。アメリカなどでは、いわゆる性的マイノリティー(LGBTQ)を自認する人が7.9%にもなったと、ギャラップ調査が2022年2月に公表した。日本でも同性婚などが増加しそうな兆しがある。

子供が自立心のある成人として育つ基盤は家庭

経済的な事情もあり、子供を持たなかったり、持っても最小限の人数にとどめたりする家庭が増えている。子供の数が少なければ、子供に対して過保護になってしまう家庭が増えるのは、自然の成り行きかもしれない。しかも、高齢化の中、祖父母も長生きだ。数少ない子供に向かう関心、お金、世話焼きなどが膨らむ一方だ。

自立心を育てる家庭教育が徹底しているとされるアメリカでさえ、大学授業料や住宅費の高騰などで、大学生となった子供を金銭的にバックアップし続けたり、世話を焼き続けたりする親が増えたようだ。子供の住んでいる所にまで足を運び、炊事や洗濯にとどまらず、公共料金まで支払う親がいるという。絶えず子供に構うため、ヘリコプターのごとく子供に付きまとうという意味で「ヘリコプターペアレント」とまでいわれる。

しかし、親はいつまでも生きているわけではない。過酷な世間の波を乗り越えていくのは、子供本人に他ならない。社会の一員としての役割を果たせるよう、自立心を植え付けることが何より大切だ。放任過ぎるのも良くないが、関与し過ぎるのも良くない。関わり方も、まさに中庸を目指すべきであろう。

祖父母の役割も大切だ。孫かわいさに過剰に世話を焼いたり、金銭的補助をし過ぎたりすると、孫の自立心をそぐことになる。子育て中の子供も、自分たちの親が孫には甘いということを見越して、金銭的な補助を求めることが多いようだ。しかし、「ねだられ貧乏」という言葉もある。老齢期のために準備していたはずの、自らの医療や介護の費用を使い果たし、途方に暮れる老夫婦が増えている。注意したいものだ。

甘やかし過ぎたことから、親が退職した後も子供がらみで精神面や金銭面で苦労する姿を数多く見てきた。筆者が20代の頃には、大企業の中には引退時に、企業年金だけでなく貸家を1軒持つことが可能なほどの退職金があり、年金以外に家賃収入も期待できるほど恵まれた人がいた。ところが、そうした環境にありながら、事もあろうに貸家に住まざるを得ない事態となり、なおもほそぼそと働きながら、子供に悩まされ続ける老夫婦がいた。

子供に世間の厳しさを早めに体験・認識させることは、自分にとっても子供にとっても幸せな将来につながるようだ。

ペットを家族の一員とする世帯の増大

高齢者にとどまらず現役世代の単身者もペットと暮らす人が増加している。孤立感を解消したい思惑もあるようだ。毎日の日課である犬との散歩で、見知らぬ人からも声をかけられたりして、社会とのつながりを実感できる良さもある。ましてや飼い主同士がペットを散歩させることで日々顔を合わせるようになると、いわゆるペット友人となり、お互いに健康などを気遣う仲にまで発展したりする。

毎日ペットの世話をするということから責任感と生きがいが生まれ、たとえ後ろ向きな考えや感情に襲われても、脇に追いやることが可能となるプラス面もある。

ペットはかわいいというだけでなく、何があっても常に飼い主に愛情を降り注いでくれる優しさがある。無条件に無批判に愛情を傾けてくれる姿に、孤立感や不安感も消え去り、ふさぎ込む気持ちも和らげてくれる。ペットはもはや動物ではなく、家族の一員といえる。

家族だから、自分が食べているものと大差ない食べ物を与えようとし、質の高いペットフードを与える。オーダーメードの衣服を身に着けさせたり、アクセサリーまでも購入したりする。2022年12月の一般社団法人ペットフード協会の発表では、ペットの月間平均支出額は、犬が1万4000円弱で猫は7000円強だ。

アメリカなどでは、家族としてのペットを職場に連れてくることを容認するオフィスビルがあったり、ドッグランの施設があるマンションも存在するそうだ。飼育するペットが死亡した場合には、1〜3日程度の有給休暇を与える企業もある。ペットロスによる事故や業務上のミスを防ぐ効果を認識してのことだ。ペットの飼い主を“pet owner”と呼ばないで“pet parent”と呼ぶ。いまやペットは家族そのものだ。

執筆/大川洋三

慶應義塾大学卒業後、明治生命(現・明治安田生命)に入社。 企業保険制度設計部長等を歴任ののち、2004年から13年間にわたり東北福祉大学の特任教授(証券論等)。確定拠出年金教育協会・研究員。経済ジャーナリスト。著書・訳書に『アメリカを視点にした世界の年金・投資の動向』など。ブログで「アメリカ年金(401k・投資)ウォーク」を連載中。