資金計画を作成する退職世代が年々増加

野村総合研究所が毎月発行している「金融ITフォーカス2022年8月号」で、「定年退職世代の行動の変化と金融機関への期待」と題した一文が掲載されています。ベースになっているのは、野村総合研究所が2022年3月に実施した「退職層(定年退職)および退職準備層の行動実態」というインターネットアンケートの結果です。このアンケート調査では、定年退職時期を「2007年以前」、「2008〜2012年」、「2013〜2017年」、「2018〜2022年」の4つに分類し、それぞれの時期でどのように定年退職世代の行動が変わったのかを明らかにしています。

まず、「定年退職後の資金計画を作成している人の割合」についてですが、以下のような結果になりました。

2007年以前・・・・・・26.1%
2008〜2012年・・・・・・36.2%
2013〜2017年・・・・・・41.5%
2018〜2022年・・・・・・43.5%

このように、定年退職時期が直近になればなるほど、資金計画を作成している人の割合が増えています。それだけ近年、定年退職後のライフプランに対する関心度合いが高まっているということでしょう。

背景にあるのは、年金不安だと思われます。超高齢化、少子化、現役世代人口の減少、総人口の減少は今後も続き、年金財政の破綻はないまでも、将来的に受け取れる年金の額が減少すると考えている人は大勢います。2019年に話題となった「老後2000万円問題」、そしてiDeCoやつみたてNISAといった、老後のための資産形成を行いやすくするための制度整備が進んだことなども、定年退職後の資金計画に対する関心度合いを高めている要因と思われます。

金融機関のウェブサイトを頼りに3割が資金計画を検討

次に、「退職後の資金計画を考えるにあたり活用した情報」ですが、年々上昇傾向が著しいのは「金融機関のウェブサイト」です。具体的に数字を挙げると、

2007年以前・・・・・・14.6%
2008〜2012年・・・・・・18.0%
2013〜2017年・・・・・・21.0%
2018〜2022年・・・・・・30.0%

となっています。

その他には「雑誌や書籍」が、

2007年以前・・・・・・23.4%
2008〜2012年・・・・・・25.6%
2013〜2017年・・・・・・25.2%
2018〜2022年・・・・・・29.3%

というように、2013〜2017年の年代ではやや低下したものの、やはり直近では上昇しており、前述した2018〜2022年に退職を迎えた人たちの間では、「金融機関のウェブサイト」に次いで高い数字になっています。

この点についていささか気がかりなのは、情報の受け手である定年退職者の金融に対する知識の有無です。金融機関のウェブサイトにある情報を活用するのは良いのですが、ここから購入する金融商品の落とし穴に気付くためには、相応の知識が必要になります。

たとえば「米ドル建て定期預金(3カ月物)の特別金利 年3.10%」という数字を見て「早く預けなければ」などと思う人は、金融機関のインターネットに掲載されている情報の罠に落ちる恐れがあります。実際、この手の高金利を提示して煽るような情報が、金融機関のサイトには掲載されています。

他の事例を挙げると「トルコ・リラ建てゼロクーポン社債 年利回り39.39%」などというのが、典型例です。

確かに表面上の利率は、この超低金利下ではとても魅力的に思えるような高金利ですが、なぜそれだけの高金利が実現しているのかという背景までは、金融機関のウェブサイトにある情報では理解できません。確かに表面的な情報を得ることは出来ますが、金融機関のウェブサイトにある情報だけで資産形成の判断を下すのは、ある程度の知識がない人以外には、かなりリスキーであることを理解する必要があるでしょう。

中立的な資産アドバイスのプロを探せるインフラの整備が急務

今回のアンケートで良かったと思える点は、「定年退職前から継続的に投資を行っている」割合が、年々上昇傾向をたどっていることです。

2007年以前・・・・・・39.7%
2008〜2012年・・・・・・41.7%
2013〜2017年・・・・・・45.4%
2018〜2022年・・・・・・51.0%

というように推移しており、直近の2018〜2022年に定年退職を迎えた人においては、実に半数超の人が、定年退職前から継続的に投資を行っていることがわかりました。

昔は、現役時代にはいっさい投資などすることがなく、定年を迎えて受け取った退職金を投資に回し、不幸なことにそのお金を株価の下落などで半減させてしまったといった、悲劇的な話もよく聞こえてきたものですが、投資で資産を増やすためのコツは、一朝一夕で身に付くようなものではありません。だからこそ投資信託でプロに運用を任せるという選択肢もあるわけですが、なかには株式投資やFXなどで運用する人もいます。この手の、自分で投資先や売り場、買い場を判断しなければならない投資対象で資産を運用するためには、定年からのスタートでは遅すぎるということを、申し上げておきたいと思います。

こうしたなかで、同レポートでは「定年退職者層の行動変化は、定年退職層が金融機関に求める期待の変化にもつながっている」と指摘しています。簡単に要約すると、「退職金の受給時に金融機関に退職金運用の相談やセミナーに参加する人の割合が、多少、減少傾向にあるものの、大きく減少していない。依然として根強いニーズが確認される」ということですが、この点については、これから定年退職を迎える人たちは特に、認識を新たにする必要があります。

そもそも金融機関は、投資信託や債券、その他の投資商品を販売して、そこから手数料を得ています。合理的な資産形成をするためには、時には「何もしない」という判断も必要ですが、一部の金融機関の考え方として「売ってナンボ」ですから、窓口で相談しに来た人たちの都合、つまりリスク許容度や市場環境などを考慮することなく、自分たちの売りたい商品を勧めてくるところもあります。つまり金融機関の販売担当者のアドバイスには、ある程度のバイアスがかかっている恐れがあることを、理解しておく必要があります。

出来れば「中立的な立場で資産運用アドバイスができるプロ」からのアドバイスを受けることを考えてみてはいかがでしょうか。その意味では一般消費者が、資産運用に関して高度な知見と経験を持ち、本当の意味で顧客サイドに立ったアドバイザーを探すことのできるインフラの充実化が必要ではないでしょうか。