世間一般では「高所得者」のイメージが強い金融業界ですが、実態はどうなのでしょうか。厚生労働省が公表している「賃金構造基本統計調査」には、「産業、性、年齢階級別賃金」というデータが掲載されています。年齢階級は12段階、業種は16業種あり、それぞれについて男女別に、何歳の時の月収がいくらなのかを把握できる内容になっています。当然、金融業界(正確には金融業・保険業)の平均的な年収も分かります。

金融・保険業の平均年収は16業種中3番目の高所得

では、金融業界は本当に高所得なのでしょうか。まず絶対金額ベースで見ると、確かに金融業界の賃金は、他の業種に比べると高めになっています。男女計、年齢計の数字で見ると、金融業・保険業は38万3500円です。これ以上に高い給与になると、「電気・ガス・熱供給・水道業」の41万9700円、「学術研究、専門・技術サービス業」の38万6900円だけで、16業種中3番目の高所得ということになります。

ちなみに「電気・ガス・熱供給・水道業」が他の業種に比べて抜きんでて平均賃金が高いのは、規制業種であることと無縁ではないでしょう。いわゆるライフラインを担うインフラ業なので、ここに極端な競争原理を導入すると、電気やガス、熱、水の安定供給に支障を来す恐れがあります。そうなると人間の命に関わる恐れがあるため、ある程度、規制をかけざるを得ず、そこで働く人たちの賃金も安定、高位になると考えられます。

逆に年収の低い業種を低い順に挙げると、「宿泊業、飲食サービス業」が25万7600円、「サービス業」が26万5500円、「生活関連サービス業、娯楽業」が26万8200円、「医療、福祉」が29万1700円、「運輸業、郵便業」が27万8500円、「製造業」が29万4900円、「複合サービス事業」が29万6700円となります。以上の7業種が月収30万円未満になります。

もちろん、以上の数字はあくまでも男女、年齢階級の平均値になるので、これだけで判断することは出来ません。当然、20歳よりも30歳、30歳よりも40歳の方が、基本的に賃金は上昇していきます。たとえば製造業の場合、20-24歳までの賃金は19万9000円ですが、そこから徐々に上昇傾向をたどり、55-59歳で36万1900円になります。

やはり賃金高めの金融業界。でも年齢で大きく差が出る側面も

そしてこの間、金融業・保険業は、他の業種に比べて比較的高めの賃金を享受しています。本稿では16業種すべての比較ではなく、「製造業」、「情報通信」、「卸・小売」、「金融業・保険業」の4業種で比較してみましたが(グラフ1)、「金融業・保険業」の賃金は25-29歳で「情報通信」を上回り、45-49歳までその優位が維持されています。もちろん、「製造業」や「卸・小売」を大きく上回っているのは、言うまでもありません。確かに、金融業・保険業は他の業種に比べて、高所得者であると言えます。

出所:厚生労働省「賃金構造基本統計調査」より著者一部編集

ただ、この数字を別な角度から見ると、「高所得でプチセレブ的な金融業界・保険業界」というイメージとは違う景色が見えてきます。

出所:厚生労働省「賃金構造基本統計調査」より著者一部編集

グラフ2は、年齢階級別の賃金の前期比推移を示したものです。どの業種も、若い時は大きく伸びて、年齢階級が上がるほど伸び率が落ちていくのが分かります。
これは当然のことで、賃金の絶対額が低い、若い年齢階級の時ほど賃金の伸び率は高くなり、賃金の絶対額が高くなるほど伸び率は小さくなるわけですが、「金融業・保険業」の場合、賃金の伸び率が上がるのは30-34歳までで、それ以降は伸び率がプラスを維持していても低下傾向をたどり始めます。

55-59歳になると、50-54歳の時に比べて6.32%も減額されます。これだけ大きく減るのは、多くの方が想像するとおり、55歳で役職定年を迎え、役職手当などがカットされるからです。

さらにその先を見ると、60-64歳では55-59歳の時に比べて、27%も減額されます。65歳定年が定着しつつあるとはいえ、60歳以降の雇用延長では、賃金の大幅カットという厳しい現実に直面することがわかります。

したがって、世間的には高給取りで知られる金融業界・保険業界ですが、そこで働いている人は、賃金の伸びが比較的早い時期から鈍化することを、しっかり理解しておく必要がありそうです。

会社勤めの人たちにとって年収1000万円は、高給取りと言われるひとつの基準です。実際、国税庁の調査によると、年収1000万円を超えている人の割合は、7%弱と言われています。

そのため、年収1000万円プレイヤーの人たちは、自分のことを「勝ち組」であると認識しているのかも知れませんが、ここに大きな落とし穴があります。よく指摘されることですが、生活水準を大きく引き上げてしまう人が多いのです。

意外にも賃金の伸びが鈍化する年齢が早い金融・保険業界

金融業界・保険業界で働いている人たちは、40代、50代になると年収ベースで1000万円に乗るケースが多く見られます。

しかし、グラフ2にもあるように、賃金の伸びは35-39歳から次第に緩やかなものになっていきます。それと同時に、35-39歳という年齢階級は、何かと出費がかさんでいくタイミングでもあります。結婚して子供が生まれれば、教育費がかさんできますし、家族が増えれば住む場所も大きくならざるを得ません。狭い賃貸アパートで暮らすわけにもいかず、戸建て住宅や分譲マンションを購入する人も増えていきます。

このように、賃金の伸び率が鈍化していくにも関わらず、支出がかさんでいきますから、分不相応に生活水準を引き上げてしまうと、年収1000万円プレイヤーであったとしても、生活が破綻するリスクが高まってくるのです。

もうひとつ大きなリスク要因があります。それは、晩婚化・晩産化の傾向が強まっていることです。20代後半で結婚して順調に子供が育てば、恐らく50歳前後で子供が独立し、そこから老後資金を蓄積できます。50-54歳にかけての賃金は、45-49歳までに比べて5.17%上昇していますから、この5年間である程度の資産形成をすることは可能でしょう。

しかし、晩婚化・晩産化によって、たとえば35歳で子供を持つことになると、子供が独り立ちする時、すでに賃金が大幅に減らされていて、生活苦に陥るリスクが高まります。

世間的には高給取りのイメージが強い金融業界・保険業界ですが、実は賃金の伸びが鈍化する年齢が意外と早く訪れるので、金融業界・保険業界で働く人は、早め早めに自分の老後を見据え、資金的な準備を行っておく必要があるのです。