<前編のあらすじ>

相談者の前田育子さんと夫の隆さんは大学の同級生。就職をきっかけにお付き合いを始め、26歳の時に結婚しました。その後、滋賀に念願の庭付き一戸建てを購入して、柴犬のチャコとともに穏やかで温かな暮らしを楽しんできました。

そんなふたりの暮らしが激変したのは51歳の時。最愛の夫・隆さんが“がん”で余命宣告を受けてしまいます。

隆さんの希望で自宅での療養生活を送っていると、義母が頻繁に様子を見に来るようになりました。そのうち「最期の時までこの家に泊めてほしい」と相談され、育子さんも家族で見送りたいという思いから、義母の申し出を受け入れることにしました。

しかし、夫が亡くなった後も義母は自宅に居座り続け一向に帰る気配がありません。疑問に思い尋ねると「ここは私の家」と衝撃発言。さらに、毎日のように義母の友人や義姉家族が遊びに来て、育子さんは心にモヤモヤを抱えながら過ごすことになりました。

義母が意地でも自宅を離れない理由

義母がかたくなに夫名義の家に住み続ける理由は相続が関係していました。

子どものいない隆さんの相続人は、配偶者の育子さんと母。だから義母は「自分には息子名義の家に住む権利がある」と主張しているのです。

そこで、筆者が隆さんの相続財産について育子さんに聞いたところ、自宅の相続評価額3300万円、普通預金600万円、死亡保険金500万円の、合計4400万円だと教えてもらえました。

残念ながら隆さんは生前に遺言書を残していませんでした。遺言書がなく法定相続割合で相続財産を分割する場合、育子さんは遺産の3分の2、義母は3分の1を相続します。ただ、死亡保険金は遺産分割の対象外なので、自宅と普通預金の合計3900万円をふたりで分け合うことになります。

単純計算すると、育子さんは2600万円。義母は1300万円を相続財産として受け取れることとなります。元々の暮らしを想定すると育子さんが自宅を相続することがベストですが、そうすると義母が相続する遺産は普通預金の600万円だけ。死亡保険金の500万円を渡したとしても、1300万円には足りません。

そう考えると、自宅の一部は義母の持ち分となります。「ここは私の家」という衝撃発言も、あながち的外れな発言ではなさそうです。

回避できたかもしれない義母との確執

このように、子どものいない夫婦の遺産は配偶者にすべて相続されるわけではなく、義理の親や兄弟姉妹も相続人になります。相続を“争続”にしないためには、前もっての相続対策が必要でしょう。

もし今回、遺産をどのように分けるかを隆さんが遺言書に書いていれば、揉めずに済んだかもしれません。ただ、余命いくばくもない夫に遺言書を書いてとは育子さんも言いづらく、また遺言書があったとしても、自宅に帰る気のない義母に出ていってもらうのは至難の業です。

育子さんが転居を考え始めた「最大の理由」

こうして始まった義母との不本意な同居から2年。いまだに揉めている遺産分割協議と義母との関わりについては弁護士に相談中です。

そのなかで、育子さんは隆さんとの思い出あふれる自宅から出ることも考え始めたと言います。そこで、今後どんな問題が予想できそうか、ファイナンシャルプランナーの筆者がお金の観点から考えてみました。

●育子さんがひとりで自宅に暮らした場合

・住宅ローンの残額は全額保険金で支払われたため、生活費を抑えられる
・築24年になる自宅の修繕が始まる時期。メンテナンス費用を支払う余力がある?
・育子さんの勤務中、柴犬のチャコはひとりで留守番できる?

●義母に自宅を譲った場合

・家賃や引っ越し費用が発生する
・義母に家を譲る代わりに、育子さんが受け取るはずの法定相続分を目安とした「代償金」を請求できる
・賃貸で暮らす場合、定年後に年金と貯蓄だけで家賃や生活費を払い続けられる?

●同居を続ける場合

・水道光熱費などの支出や、固定資産税、メンテナンスなどにかかる費用の分担
・ストレス解消のための支出の増加
・義母が要介護になった場合、同居の育子さんが介護を任される可能性あり

***
 

育子さんが最も避けたいのは他でもなく「義母の介護」です。義姉は育子さんに丸投げしそうなタイプだから、早めに逃げておくことが得策かもしれません。一方で、弁護士から義母が「息子が稼いだお金で買った家を、嫁ひとりのものにしたくない」と言っていると聞き憤りも感じました。「隆さんとふたりで大切にしてきた我が家を私だって手放したくない!」と複雑な心情です。

義母には、自分より先に子どもを亡くした辛さがあるのでしょう。ただ、辛さを抱えているのは育子さんも一緒です。育子さんには、守るべき大切なことは何かを意識してこれからの人生を選んでほしいと願います。