[日経平均株価・TOPIX(表)]

日経平均;30039.41;+196.42
TOPIX;2132.74;+5.56


[後場の投資戦略]

 日経平均は遂に大台の3万円を回復した。東証株価指数(TOPIX)は連日でバブル崩壊後33年ぶりの高値を更新している。正直に言ってここまでの強さは全く予想できていなかった。本日は東証プライム市場では値下がり銘柄の割合の方が多い(前引け時点)うえ、値がさ株の上昇率が高いことから先物買いが押し上げ役として働いているだろうが、それでも強い。背景としては度々多方面で指摘されているように日本株を巡る海外投資家の見方が変わり、日本株のアロケーション(配分比率)を増やしていることが考えられる。

 すなわち、(1)東京証券取引所による株価純資産倍率(PBR)1倍割れ企業への改善要請、(2)米著名投資家ウォーレン・バフェット氏による日本株への追加投資を契機とした見直し機運、(3)植田新日銀体制の下での金融緩和継続、(4)1−3月期決算において東証の改善要請に積極的な株主還元策で応える企業が増えたこと、(5)諸外国に比べて周回遅れで到来した経済再開の効果、(6)デフレ体質が染み付いていた日本で賃金上昇によるインフレ定着という構造的な変化が起きつつある(と認識されつつある)こと、などだろう。

 筆者は日経平均の大台3万円回復にはもともと懐疑的だった。理由としては、(1)先週末の5月限オプション取引の特別清算指数(SQ)算出日通過を境に需給が転換すると考えていたこと、(2)15日の決算発表一巡で株主還元策発表パレードも小休止して手掛かり材料難になること、(3)米連邦政府の債務上限問題によるボラティリティの高まり、(4)年初の株高をけん引していた中国経済の回復期待の剥落、(5)デフレ体質の脱却による日本の構造変化は期待先行で、来年以降の春闘を確認する必要があり期待は沈静化すると考えられること、などだ。

 しかし、5月SQを通過しても、決算発表が一巡しても、中国の経済指標の下振れが続いても、米債務上限問題がくすぶり続けていても、日本株の上昇の勢いは止まる気配をまったく見せていない。日経平均は大台の3万円を回復しても「目先の達成感」といった様相すら感じさせず、勢いはそのままだ。

 足元では海外投資家の日本株買いがヘッジファンドなど短期筋の追随買いを呼んでいるようだ。また、日経平均レバレッジ・インデックス連動型上場投信<1570>の空売りや日経平均ダブル・インバース連動型上場投信<1357>の購入を通じて日経平均の下落に賭けていた売り方が損失覚悟の買い戻しを迫られていることも踏み上げ的な相場を創出していると考えられる。

 一方、日経平均の予想一株当たり利益(EPS)が切り下がってきているなか、株価収益率(PER)主導の上昇により日本株のバリュエーションにも割安感がなくなってきている。

 前日発表された米国4月の小売売上高や鉱工業生産は総じて予想を上回り、経済のソフトランディング(軟着陸)期待が高まっているもよう。しかし、15日の米ミネアポリス連銀のカシュカリ総裁や米アトランタ連銀のボスティック総裁に続き、16日には米リッチモンド連銀のバーキン総裁や米クリーブランド連銀のメスター総裁らも追加利上げを示唆するなど株式市場に逆風をもたらす材料も確認されている。異例のハイペースで引き上げてきた大幅利上げの効果は今後も徐々に顕在化してくると考えられ、米国経済のソフトランディングに過度な期待をもつのは危うい気もする。

 中国経済回復の息切れ感も強まるなか、PER主導の株価上昇がどこまで続くのかについては個人的にはやはり懐疑的にならざるを得ない。また、筆者が日経平均の大台3万円回復に懐疑的だった理由としては、もう一つ、(6)東証の改革要請効果の持続性が挙げられる。東証から尻を叩かれる形で国内企業から株主還元策が相次ぐことは第一歩として評価できる。しかし、本当に重要なのは自社株買いといった一過性の策ではなく、成長性・収益性の向上といった企業の構造的な変化だ。ただ、まだ日が浅いこともあり、そうした動きは少ない。当面は期待先行で株主還元策の強化だけでも株高の地合いに寄与するとみられるが、中長期的には期待が剥がれ落ちていく恐れもあることを頭の片隅に置いておきたい。

 米債務上限問題は最終的には解決するだろうが、早ければ6月1日にも米政府の資金繰りが行き詰まる可能性が指摘されており、デッドラインは近づいている。過去の経験からすれば大きな波乱にはならないだろうが、ボラティリティの高まりには注意したい。日経平均などの株価指数の強さとその継続性が際立つ中ではあるが、目先は上値追いに慎重になるべきだろう。なお、今晩の米国市場では小売りのターゲットやIT関連製品のシスコシステムズが決算を発表する。
(仲村幸浩)