ドル・円相場が年初来高値を更新し、半年ほど前の水準に逆戻り。5月中旬以降の上昇ピッチが速く、節目の140円付近に値を切り上げました。昨年は過去最大規模の円買い介入により一段の上昇を回避しましたが、再び150円を目指す超円安に懸念が強まりそうです。





ドル・円相場の上昇基調が続いています。5月2−3日に開催された連邦公開市場委員会(FOMC)は6月の会合での利上げ休止を示唆するなどややハト派的な政策決定でしたが、10日の米消費者物価指数(CPI)以降はドル買いに振れやすい地合いに転じました。3月のシリコンバレー銀行破たん直前に付けていた高値を上抜けて年初来高値を更新し、3週間で7円超高の140円後半にまで強含む場面もありました。





6月に入ってもドル買い基調は続く見通しです。米債務上限問題の協議でホワイトハウスと議会は合意に達しました。下院審議では野党・共和党の保守強硬派が否決する可能性もありましたが、最終的に法案は成立の見通しです。債務不履行(デフォルト)懸念の後退により6月5日の「Xデー」を待たずにリスクオンの円売りに振れやすい状況で、140円台に定着しても不自然ではありません。





主要国の金融引き締めは終盤に向かい、カナダ銀行はすでに利上げを休止し、NZ準備銀行もそれに続くとみられています。ただ、連邦準備制度理事会(FRB)にはまだ利上げ余地があるため、ドルは買いを集めているようです。6月13−14日開催のFOMCに向け、一部の高官からは利上げの一時停止を示唆する見解が出ています。それでもタカ派姿勢を維持する高官も多く、ドルは売りづらい地合いが続きそうです。





政府・日銀は昨年9月、ドル・円レート146円前後で円買い介入に踏み切ると、相場は140円付近に急落。それでもドル高・円安は止まらず、10月には一時151円90銭台と、32年ぶりの高値圏に浮上し、追加介入により一段の円安を食い止めました。1998年以来24年ぶりの円買い介入は計3回で9兆円を超える規模でした。ドル・円はその後下げに転じ、今年1月には127円台に下落しています。





この時は為替介入の効果より米インフレのピーク越えによるドル買い後退が相場下押しの主因とみられます。足元で米インフレ高止まり懸念が再び強まるなか、植田日銀の緩和継続により円安にも振れやすい状況です。5月30日の財務省・金融庁・日銀による三者会合の開催により為替介入が意識され円買いに振れる場面もありましたが、ドル・円が為替介入を意識させる水準に近づいているのは確かでしょう。

(吉池 威)

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