■ティーケーピー<3479>の中期経営計画



3. 計数目標

中期経営計画最終年度の2026年2月期の計数目標として、売上高を57,500百万円(年平均成長率25.4%)、営業利益9,400百万円(営業利益率16.3%)、経常利益9,100百万円、ROE 10%を掲げており、売上高・各利益ともに、この期間中に過去最高水準を更新する計画となっている。また、現時点で計画外の新規事業(M&Aを含む)は追加要素としており、あくまでもベースラインのシナリオであることに注意が必要である。



また、財務方針については、安定した営業キャッシュ・フローを成長投資に充てることを基本とし、オーガニック成長(貸会議室や宿泊施設の新規出店・増床等)に優先的に配分するほか、M&Aや新規事業にも積極的に取り組む方針である。



4. 事業別戦略

(1) 貸会議室事業

2025年2月期(中期経営計画2年目)には、懇親会を含めた貸会議室需要がコロナ禍前の水準へ完全回復する想定の元、貸会議室市場の継続的拡大を見込み、東京・大阪を中心に会議室面積を年間約1万坪のペースで出店していく方針である。また、料飲の需要回復に伴う内製化、並びにDX戦略・営業力強化による事業の運営効率化・高付加価値化を推進することで、収益力の最大化を目指す。KPIについては、「坪当たり売上高(月平均)」41,000円、「有効会議室面積」79,000坪をターゲットとしている。



運営効率化・高付加価値化のカギを握るDX戦略については、ダイナミックプライシング導入※によるプライシングの最適化と顧客ポータル開設による会議室予約の自動化を実施し、サービスの高付加価値化を加速する考えだ。また、今後は増員等による人的資本の強化にも取り組む方針であるが、DX戦略による効率化・高付加価値化と人による提案営業力(リレーションシップ強化)のバランスをとりながら、各方面の需要を幅広く取り込んでいく戦略のようだ。



※その時々の需給の状況を考慮して、価格を柔軟に変動させる方法。





(2) 宿泊事業

フランチャイズで展開するアパホテルブランドを含めたビジネスホテルを中心に3年間で10施設を目安に出店していく方針であり、貸会議室事業に次ぐ第2の柱に成長させる方針である。仕入れ形態については、賃貸契約か、保有か、その時々の経済合理性を見て決定する。「持たざる経営」を基本としながらも、アパホテルブランドのように安定した稼働(集客力)が見込める案件については、保有することにより高い収益性を享受することも検討していく考えだ。また、「石のや」をはじめとするリゾートホテルでは、リニューアルを通じたブランド力強化によりインバウンドの需要獲得を図っていく。3年後の直営施設数として31施設を計画している。



(3) 新規事業

「空間再生流通事業」におけるコンセプトやビジネスモデルは、事業再生支援や地方創生、PFIなど様々な領域への応用も期待されており、新たな事業機会の創出も視野に入れているようだ。また、ハードだけでなくソフト(周辺サービス)の取り込みでも、付加価値向上に向けて積極的に取り組んでいく方針であり、今回の識学との資本業務提携やリリカラの持分法適用関連会社化についても、その戦略に沿った動きとして見ることができる。



5. 中長期的な注目点

外部環境(需要面や仕入面)が追い風にある貸会議室事業及び宿泊事業の2本柱に注力し、事業拡大を目指す同社の戦略は理にかなっていると、弊社でも評価している。コロナ禍によって同社の成長は一旦足踏みしたものの、中長期的な視点で見れば、これをきっかけに働き方やオフィスの在り方を見直す機運が一気に加速し、結果としてフレキシブルスペース市場の拡大に拍車が掛かる可能性が高いと見ている。また、コロナ禍前は仕入れコストの上昇が成長の足かせとなっていたことを振り返れば、コロナ禍により図らずも原点に戻るチャンスを得たとの見方もできる。不稼働スペースを大量かつ機動的に仕入れ、貸会議室という新たな市場の創出につなげてきた従来のビジネスモデルから、今後は貸会議室をベースにしながらも、スペースでのコンテンツ提供という新たな領域へと拡充するプロセスにあり、そういった視点から今後の事業展開をフォローしていく必要がある。既に他社との協業を通じて実績のある独自研修プログラムの提供やエンターテインメント性の高いイベントプロデュースなどにその一端が見られるほか、職住近接の流れのなかで居住空間(一時滞在型の社宅や外国人ワーカー向けの住宅提供等)としての活用も構想に入っているようである。インバウンドMICEへの取り組みやショッピングモールへの出店などを含め、各方面に布石を打ち、様々な可能性を探っている同社の動きには今後も目が離せない。さらに中長期的な視点からは、「空間再生流通事業」という領域でいかに社会課題の解決を市場創出に結び付けていくのか、そのポテンシャルの高さにも期待したい。その動きとともにM&Aや新規事業への参入が実現すれば、計画の上振れとなる可能性も十分に考えられる。いずれにせよ、高水準にある手元流動性や潤沢な営業キャッシュ・フローの活用が今後のカギを握るであろう。



(執筆:フィスコ客員アナリスト 柴田郁夫)