民主主義の赤字(12月3日)

 今朝もまた、ミサイルが飛んだらしい(11月29日)。午前4時まえのことで、全国瞬時警報システム(Jアラート)も鳴らなかったから、知らない人も多いようだ。 青森県の漁師さんたちは相当緊張しただろうが、殆[ほと]んどは「え? そうなの?」という状況。あまりに騒がないこの状況は、ミサイルの落下地点が東北地方周辺ゆえだろうか。 東日本大震災が起こったとき、各国のジャーナリストはこぞって被災者たちの冷静さ、忍耐強さ、そして悲しみを抑える気高さなどを賞讃した。ニューヨークタイムスは他に自己犠牲、静かな勇気、秩序と礼節などの言葉を連ね、また中国の環球時報も次のような文章を載せた。「数百人が広場に避難したが、毛布やビスケットが与えられ、男性は女性を助けていた。3時間後に人がいなくなったとき、ゴミ一つ落ちていなかった」。つまり有事でも乱れない公共心を讃[たた]えたのだ。 私は当時これらの記事を読みながら、良くも悪くもパニックになりにくい東北人の特性を感じたものだった。良く出れば、こうして忍耐強く冷静に「今」を生きる姿になるし、これが悪く出るとミサイルにさえ無反応になってしまうのだろう。 端的に言えば二宮尊徳翁のこの歌に集約されるかもしれない。「この秋は雨か嵐か知らねども今日の勤めに田草取るなり」 今から秋の収穫時の天候など心配しても仕方ない。今日はとにかく田圃[たんぼ]の草取りに励むだけ。次のミサイルがいつ来るか怯[おび]えても仕方ない。今は気にせず烏賊[いか]釣り船で漁に出るだけだ。 ただそのような東北人ではあっても、原発事故以後の福島第二原発再稼働には静かだが強い抵抗を示した。福島県議会は2011(平成23)年9月に県内の全原発廃炉を求める請願を採択。その後も4度、同様の意見書を可決している。 しかし、その結果、どうなっただろうか。…どうにもならない。電気事業連合会(電事連)が試算した将来の電力供給予測は、明らかに第二原発を重要な戦力と想定しているし、国も東電も第二原発の廃炉についてはずっと明言を避けている。 住民として、国に訴える最も合法的な手段である県議会の意見書が、完全に無視されたままなのである。英紙「タイムズ」のアジア・エディターおよび東京支局長のリチャード・ロイド・パリー氏は、そんな事態を「民主主義の赤字」と呼んだ。 確かに第二原発に関しては、民主主義は赤字どころか全く機能していないかに思える。我々東北人に今あるのは忍耐や冷静さというより、諦めに近い感情ではないか。 「どうせミサイルでも原発に当だんねっか、わがんねんだべ」 ミサイル発射を知り、原発再稼働に固執する安倍政権に向けて呟[つぶや]かれた、我慢強い近所のおじさんの言葉である。(玄侑宗久、僧侶・作家、三春町在住)

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