小学校に提出するプリントを書き終え、時計を見ると午後10時。福島県郡山市で小学1、2年生の2人を育てている黒住真奈美さん(39)は、ため息を漏らした。育児や保険会社の契約社員としての仕事に追われ、時間は瞬く間に過ぎていく。

 「働く時間を増やしたいけど無理かな」。自身の収入を増やせば、家計に余裕が生まれる。しかし子どもの入学によって環境は変わり、働き方の選択肢は限られている。

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 就学後に子育てに充てる時間が増え、保護者が労働時間の変更や離職を迫られる「小1の壁」。少子化を加速させる遠因とされる。黒住さんがその壁に直面したのは、求職中だった1年前。幼稚園で延長保育を利用していた長女が小学生になり、午後の早い時間帯に帰宅するようになった。日中の預け先が見つからず、職探しも難航した。

 立地場所や料金といった条件の良い公設の放課後児童クラブは、就労中の世帯を対象にしているケースがほとんど。公設より料金が割高な民間児童クラブを見つけ、申し込んだ。働き始めたのは6月からだった。

 今春、長男も入学し、壁はさらに高くなったと感じる。学校から届く日々の連絡の確認や学校行事への参加…。働く時間を抑えざるを得なかった。待遇の良い正社員になりたいが、家事と育児、仕事の両立は難しく、踏み出せない。それでも、子どもが成長すれば、より高い能力を身に付けるために歩むつもりだ。

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 東京のNPOが昨年に実施した調査によると、子育て中の女性のうち、子どもの小学校入学に伴い、働き方の見直しを検討したのは半数の50・7%に上った。

 こうした事情を背景に都市部では、放課後児童クラブを増設する動きが活発化している。郡山市の児童クラブの待機児童数は昨年5月1日現在、132人。市は今年度、児童クラブを4教室増やし、総定員を140人増の3710人とした。さらに、午後6時30分までだった利用時間を1時間延長した。

 一方、黒住さんの2人の子どもが通う民間児童クラブは、最長午後8時30分まで利用でき、夕食を提供するサービスを備える。親の就業の有無にかかわらず、受け入れてくれるのも特長だ。黒住さんは児童クラブ選びに苦労した経験から、さまざまな子育てのニーズに応えられる児童クラブが必要だと考える。

 「安心して子を産み育てる環境はまだまだ整っていない」。さらなる対策の強化を望んでいる。