4日に死去したアングラ演劇の旗手で小説家としても活躍した劇作家で演出家、俳優の唐十郎さんは戦時中の幼少期、福島県に疎開した経験があり、劇団を率いての県内公演も数多く重ねた。「福島への思いが作品作りに影響を与えた」とみる関係者もいる。

 劇団「唐組」に所属していた俳優・パントマイムアーティストの佐藤由美さん(白河市)は、唐さんの「悲しいせりふほど笑顔で話す」との教えを大切にしている。唐さんは母親の郷里とされる双葉郡に疎開した当時を涙ながらに振り返っていたといい、「家族や福島への思いが、人の胸を打つすてきな表現につながったのではないか」と思いを巡らす。

 野外の時空間を縦横無尽に操る舞台は、県内でも多くファンの心を揺さぶった。公演後は団員や地元の人々と車座になり、優しい笑顔で歌いながら酒宴に興じた。

 1990(平成2)年5月には伊達市梁川町にあった「広瀬座」で講演し、「芝居小屋は都市の文化に挑戦的な人たちが集うタコつぼのようなもの」と存在意義を説いた。甦(よみがえ)れ広瀬座の会で代表を務め、唐さんと交流のあった椎名千恵子さん(福島市)は「自分の既成概念を取り払い、価値観を転換させてくれた大きな存在だった」としのんだ。