2023酒造年度の全国新酒鑑評会で、本県は日本一への返り咲きはならなかった。それでも、金賞受賞が最多の兵庫県と僅差の2位は県内蔵元の高い技術を物語る。常に上位を維持する安定感も誇らしい。たゆまぬ努力に敬意を表し、伝統の粋を集めた県産酒を心ゆくまで味わおう。

 県酒造組合の鈴木賢二特別顧問によると、連覇が前回途切れたことで重圧が消え、個性のある酒造りに挑む酒蔵が増えたという。ある蔵元は「酒米の王様」と呼ばれる山田錦から県オリジナル品種の「福[ふく]乃[の]香[か]」に変えるなど酒造法を大きく見直した。

 酒造界は吟醸、純米吟醸といった特定名称酒に主力が移っている。時流には乗りつつ、酒米や醸造法を変えて独自の領域を開拓すれば、県産酒の奥行きは深まる。芽生えた新たな動きに、地酒の幅が広がることへの期待が膨らむ。

 これまで出品してこなかった蔵元の参入もあったという。地元で愛されながら、鑑評会とは無縁の酒蔵もある。出品の有無は各蔵元の考え方次第とはいえ、磨いた技術や品質を競い合う裾野が広がるのは、日本一を再び目指す上で心強い。

 今後は県産ブランド酒米の開発に一段と力を注いでほしい。県産の大吟醸は兵庫県発祥の山田錦が使われる例が少なくない。県酒造組合によると、昨年の鑑評会では、県内の金賞14銘柄の大半に用いられた。

 昨年の日本一の座を射止めた山形県は金賞20銘柄のち10銘柄に「雪[ゆき]女[め]神[がみ]」、4位の新潟県は金賞15銘柄のうち7銘柄に「越[こし]端[たん]麗[れい]」を使用していた。いずれも独自に開発した酒米で、自県産への誇りやこだわりが見て取れる。

 県は今年度、山田錦など県外産に代わる大吟醸向けの酒米開発を本格化させている。試験栽培や酒造りの適性評価を3年重ねて有望系統を一つに絞り、新主力の県オリジナル酒米として普及させたいとしている。

 酒造りが全て自前に進化してこそ、名実一体の「日本酒王国ふくしま」は築かれる。消費は新型コロナ禍を経て回復基調にある。地産地消の持続的な循環が県内各地の酒どころを支える。消費者、飲食店、関係団体、地域ぐるみで応援する取り組みも両輪で広げていきたい。(五十嵐稔)