埼玉県から福島県南相馬市小高区に移住した平岡雅康さん(46)は、かつて地域の基幹産業だった養蚕の再興に取り組んでいる。今年は桑の葉を餌にして約5千匹を育てる。地元の元養蚕農家にノウハウを習い、桑の葉も市内から調達。一日に何度も給餌する苦労はあるが「養蚕文化を後世に伝え、復興の一助になりたい」と力を込める。

 出身地の埼玉県は繊維業が盛んで、平岡さんは養蚕に興味があった。世界的に高い評価を受けてきた日本の絹を絶やすまいと、小高区に移住する前から養蚕に挑戦していた。

 移住後、小高区でも多くの農家で蚕が飼われていたと知り、2022(令和4)年に蚕を育て始めた。今年1月には「福島シルクラボ」を設立し、人工飼料から桑の葉を餌にした伝統的な飼育法に切り替えた。蚕の幼虫は田村市の組合から譲り受けた。

 蚕は食欲旺盛で多い時には1日4回、葉を追加する。蚕が繭を作り始め「人工飼料より糸を吐く量が多く、生産量の増加を見込める」と喜ぶ。

 平岡さんは休耕地となっている桑畑の利活用策も練る。「育てる蚕の数を増やし、桑畑の復活にもつなげたい」と話している。


■養蚕衰退で桑畑の荒廃課題

 南相馬市博物館によると、小高区では幕末から昭和初期にかけて養蚕が営まれ、戦後も続いた。昭和30年代後半には700戸以上で蚕が育てられていた。今も市内には桑畑が点在している。養蚕の衰退で、手入れが行き届かない桑畑の荒廃が課題となっている。