静岡県牧之原市にある認定こども園で、通園バスに女児が置き去りにされ死亡した事件で、静岡地方裁判所は7月4日、業務上過失致死の罪に問われた当時の園長に対して禁錮1年4カ月の実刑判決を言い渡した。

当時の園長とクラス担任を起訴

2022年9月5日、静岡県牧之原市にある認定こども園「川崎幼稚園」では、通園バスに河本千奈ちゃん(当時3)が5時間以上にわたり置き去りにされ、重度の熱中症「熱射病」によって死亡した。

検察は事件から1年あまりが経過した2023年11月、通園バスを運転した際に園児全員を確実に降車させる注意義務があるにも関わらず確認を怠った上、窓を閉め切った状態でバスを施錠して千奈ちゃんを置き去りにしたとして当時の園長を、千奈ちゃんが登園していないことに気付きながらも保護者に確認するなどの注意義務を怠ったとして当時のクラス担任を、いずれも業務上過失致死罪で起訴。

共に起訴内容認める…裁判所の判断は?

2人は共に起訴内容を認めていて、2024年6月13日に行われた公判では千奈ちゃんの母親が「すべてを奪った加害者を絶対に許すことは出来ない」と、父親が「経験したことのない生き地獄の苦しみと恐怖を味わいながら千奈は亡くなった」と怒りをあらわにした上で、実刑判決を求めた。

こうした中、7月4日に開かれた判決公判で静岡地裁の國井恒志 裁判長は、元園長に対して「園長として園児の安全を守る計画を策定する義務、そして、その計画が確実に実施されるよう指導する義務のいずれも怠った上、運転手として園児を確実に降車させ、全員が降りたかどうかを確認する義務があったにも関わらず、これも怠った」と指摘。 

その上で、「安全を確保すべき義務の違反、送迎中の園児の安全を確保すべき義務の違反、園長としての自らの責任を放棄し職員に対し何の指導も行わなかった。基本的な安全確認を怠った過失は著しく、到底軽視される事案ではない。園児を守るという意識の欠如は甚だしく猶予は認められない」として禁錮1年4カ月(求刑:禁錮2年6カ月)の実刑判決を言い渡した。

一方で、元クラス担任については「事前に連絡なく休んだものと軽信し、保護者に連絡せず、確認もしなかった過失がある」と認定したものの、「所在が不明なことを放置したのは到底軽視できるものではないが、先行された元園長の杜撰な安全管理体制により偶発的に起きてしまった。直ちに実刑を科するまでではない」として禁錮1年・執行猶予3年(求刑:禁錮1年)の有罪判決となっている。

判決に納得のいく部分はあるも…

判決を受けて千奈ちゃんの父親が取材に応じ、「まず初めに実刑という言葉を聞いた時にホッとしたし良かった。正直、執行猶予が付くだろうなと(実刑判決には)期待はしていなかったので驚いた」と胸の内を明らかにした。

その上で「納得は出来る判決にはなった。ですけれど、叶うことなら両名、少し遡るなら書類送検された4人全員が実刑判決だったらと思うことはある」と口にし、「納得した部分はあるし、納得できない部分もある。よく報道されるように(被害者遺族が)『ウチの子で最後にしてほしい』と(言うが)他の子の命のことも考えられる、すばらしいコメントは私には言えない。相手が憎い」と率直な心境を吐露。

元園長は被告人質問で何度も「記憶にない」との証言を繰り返していて、「すべてをさらけ出して話してはいなかったと思う。ところどころに川崎幼稚園を守る姿勢や本当はもっと知っている内容を伏せながら証言していた。何か守りたいものがあるのか、反省していないのかと感じた」と憤る。

このため、「反省しているのであれば控訴せずに、この判決を受け取って欲しい」と望んだ。

また、千奈ちゃんに何と報告するかと問われると「『刑事裁判が終わったよ』『元園長は実刑になったよ』『元クラス担任も執行猶予は付いたけれど有罪判決になったよ』だけれど、それで『よかったね』とは言えない。いつも謝っているので、きょうも『ごめんなさい』と謝ると思う」と話し、“川崎幼稚園に入園させてしまった”という自責の念は今も変わらない。

この事件をめぐっては、事件後に元園長が遺族を前に川崎幼稚園を「廃園にする」とノートに記したものの、園側は「入園希望者がいる限り園を継続する」としていて、千奈ちゃんの父親は今後も廃園を求めていく考えを示すと共に「約束は守って欲しいし、約束が守られずに覆るのならしっかりと説明するべき。説明がないまま、風化するのを待つのは答えになっていない」と怒りを滲ませた。

元園長は取材に応じずコメントのみ

判決後、元園長は取材に応じなかったものの、「まずは、改めて千奈さんのご冥福をお祈りいたします。今回の判決を大変重く受け止めております。自らの責任に真摯に向き合っていく所存です。また、今後とも千奈さんの慰霊、ご遺族への謝罪、償いを続けてまいります」(原文ママ)と弁護士を通じてコメントを発表。

また、川崎幼稚園も「改めて千奈さんのご冥福をお祈りいたします。本日、当園の元園長に対する実刑判決、元担任に対する有罪判決が言い渡されました。当法人は大切な子ども達をお預かりするという使命を負っているにもかかわらず、悲惨な事故を発生させてしまいました。今回の判決を非常に重く受け止めております。当法人としては、今後とも、千奈さんのご冥福をお祈りし、償いをつづける所存です。また、すでに安全管理体制を構築しておりますが、二度とこのような悲惨な事故を起こさない、安全で安心していただけるこども園でいられるよう、更なる安全管理を徹底し、信頼回復に努める所存です」(原文ママ)とのコメントを出している。

(テレビ静岡)