FBリブラは「もう死んだんじゃない?」 ウォール街の“プロ”が指摘するデジタル人民元との差

FBリブラは「もう死んだんじゃない?」 ウォール街の“プロ”が指摘するデジタル人民元との差

「ブロックチェーン・ウィークエンド」の夜

ニューヨーク、ウォール街の高層ビルの一室。

金曜日の夜にもかかわらず、会場は100人以上で埋め尽くされていた。

窓越しにはマンハッタンの夕暮れが広がり、出席者の片手にはワインやビール。

カジュアルな雰囲気で始まったそのイベントは…「ブロックチェーン・ウィークエンド」と名付けられていた。

(※ブロックチェーンとは…ビットコインなどの仮想通貨の取引記録に使われるテクノロジー。中央集中型ではなく、「皆で共有し、記録を分散させる」ことで信頼性を担保し、「改ざん」を難しくする特性がある。仮想通貨だけでなく、医療や不動産など様々な分野での活用が期待されている。)

世界一の金融街で繰り広げられる「ムズかしそうな議論」。しかし、会場に行ってみると、「ザ・ウォール街」のビジネスマン、というより、カジュアルな服装の人が目立った。老若男女、人種も出身国も様々だ。

「ブロックチェーン・ウィークエンド」の夜 人種も出身国も多様な人々100人あまりが集まっていた

私たちには、あるお目当ての人がいた。

フェイスブックが手掛ける“暗号資産(仮想通貨)”「リブラ」の開発を進める団体の幹部がスピーチするというのだ。

フェイスブックのリブラといえば…

10月、米規制当局から認可が得られるまで延期されることが発表。来年前半にも発行を開始する構想だったはずが、大幅な延期を余儀なくされた。理由は、アメリカのみならず、G20の財務相・中央銀行総裁会議でも当面「発行を認めない方針で一致」したためだ。

「先行き全く不透明」なリブラが、「仮想通貨/ブロックチェーンの“プロ”」たちを前に、いったい何を説明するのか?政府や大企業を黙らせる、逆転の一手でも見つかったのか?と期待に胸を膨らませて会場に向かったが…直前に「リブラの担当者は出席できなくなりました」とのメールが入る。

やっぱりね。

今それどころじゃないんだろうな。

それでも気になる。「仮想通貨/ブロックチェーンのプロ」は、「リブラ」をどう見ているのか。もう復活の可能性はないのか?まだ一縷の望みがあるのだろうか?

“主役不在”の場所でちょっと悪い気もしたが、皆さんの意見を聞いてみることにした。

「もう死んだんじゃないの?」

最初に話を聞かせてくれたのは、ビジネスコンサル業に携わる女性、スーザンさん。仕事上、ブロックチェーン関連の人と関わることが多いようだ。

「フェイスブックのリブラについて取材しているんですけど」と質問すると、開口一番。

「Isn’t that dead?(もう死んだんじゃないの?)」

うー、キョーレツな答え。

ビジネスコンサルタント業に携わるスーザンさん

スーザンさんの考えはこうだ。

「フェイスブックが発行・管理するという点で、リブラは仮想通貨とは言えないと思う。仮想通貨というのは本来、“みんなが管理する”ブロックチェーン技術で成り立っているもの。フェイスブックという一つの巨大企業が管理する時点で、ほかのものとは違う」

さらにこう警鐘を鳴らす。

「フェイスブックはこれまで、人々のコミュニケーション情報を管理してきた。さらにお金のやり取りまで管理するの?不信感が強まる」

これまでGAFAが批判を受けてきた、“情報の集中”という懸念が根強いようだ。

(※GAFAとはGoogle、Amazon、Facebook、Appleの頭文字をとった4大IT企業の総称)

デジタル人民元との“スピードの差”

次に話を聞いたのはウクライナ出身のセルゲイさん。

ブロックチェーンを使った基盤システムを構築する会社を運営している。

「リブラ、悪いアイデアじゃないと思うよ。始まったら使ってみようと思う。ただ、まだ何を規制して、何を規制しないか、アメリカ当局が話している段階だよね」

アメリカの“スピード感”を指摘。

そして、中国でも仕事の経験があるセルゲイさんはこう続けた。

「中国はもう動き始めている。何がよくて何がダメなのか、ルール作りは、アメリカより進んでいる」

ウクライナ出身のセルゲイさんに取材する中川記者(右)

そういえば、ザッカーバーグCEOはこう話していた。

「中国は迅速に動いていて、あと数か月で似たような構想を打ち出すだろう。」

そう、”デジタル人民元“である。

中国が国家戦略として打ち出しているこの構想、ブロックチェーンのプロにとっても、「すでにルール作りが進んでいる」という感想は、共通認識のようだ。

既存のサービスと何が違うのか

最後におしゃれなキャップを被った若い男性Aさんは、ブロックチェーン技術を使った医療ビジネスを手掛けている。

「自分のビジネスで、送金ツールとしては使ってみてもいいと思うけど・・・」

そう、ザッカーバーグCEOは、リブラの“送金手段”としての利便性を主張していた。

アメリカ議会で証言するFacebookのザッカーバーグCEO

しかし、

「Venmoと何が違うの?」

Venmo(ベンモ)とは、アメリカで広く普及している個人間送金システムのこと。飲み会などの割り勘などでも利便性がある。日本にもLINE PayやPayPayなどがあるが、アメリカでは普及の度合いが違う。筆者も使い始めたばかりだが、こちらでは、割り勘の際、一人だけ現金を出すのが恥ずかしくなるくらいだ。(むしろキャッシュを渡すのが迷惑行為に当たる気さえする)

このイベントの数日後、フェイスブックは新たな決済サービス「フェイスブック・ペイ」の開始を発表した。こちらもVenmoのように、個人間での送金を可能にするというものだ。仮想通貨の「リブラ」とは切り離したものとなるということだ。

既存の送金プラットフォームが普及しているアメリカで、競合するシステムを発表したフェイスブック。これらを超える圧倒的な魅力が、仮想通貨である「リブラ」にあるのかーこの男性のような若者にどのように訴えていくのかも注視していきたい。

ブロックチェーンのプロの「リブラ」見方は、なかなか手ごわい。

情報“一元管理”への批判をどうかわし、既存のシステムとの違いをどう打ち出すのか。

そして、迫りくる中国の足音。

「死んだんじゃないの?」から、生き返ることはできるのか。

【関連記事:「仮想通貨リブラ?聞いたことないけど…いいね!」 ニューヨークの“移民の街”で聞いてみた】

【取材・執筆:ニューヨーク支局 中川真理子/柳川晶子】


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