【Jリーグ・佐伯夕利子理事インタビュー|第1回】スペインで指導者の道を歩み、コロナ禍でJリーグ理事へ「大打撃だったなと思うのは…」

 Jリーグに海の向こうから新たな理事が加わった。日本代表MF久保建英が所属するビジャレアルで働く佐伯夕利子氏が、今年3月から常任理事に就任。佐伯理事は父親の仕事の都合により18歳でスペインに渡り、19歳から指導者の道へ。スペインで日本人として初めてS級相当のライセンスを取得して各年代の指導にあたり、日本人および女性で初めて同3部での監督経験も持つ。女子チームではアトレティコ・マドリードなどビッグクラブで指揮を執ったこともあり、2008年から現在のビジャレアルでフロントスタッフを歴任。海外での日本人指導者、女性指導者の第一人者として、佐伯理事が母国で実現したいこととは――。「Football ZONE web」の独占インタビューで語った。

 今年3月、新型コロナウイルスの多大な影響により、Jリーグは中断を強いられるなど混乱の真っ只中だった。世界的にも各国で公式戦が中止になるなか、ビジャレアルでフロントスタッフとして働く佐伯氏はJリーグの常任理事に就任することとなった。自身が小学1年生の時に出会ったサッカー。ボールを追い続け、18歳でスペインに渡って夢を叶えた佐伯氏が、Jリーグ“理事”として実現したいこととは、どのようなものなのだろうか。

「Jリーグの課題点、難しいですね。3月から就任してコロナ対応に追われて、日本サッカーをより良くするプロジェクトに取り組めないまま6カ月が過ぎてしまった。そのなかでも、今後のJリーグの発展にとって大打撃だったなと思うのは、『エリートリーグ』の中断。世界中どこでもU-23、U-21というカテゴリーは課題で、プレミアリーグでも試行錯誤していたり、ビジャレアルでもU-23、U-21というのは課題に挙がっている。世界中で苦戦しているカテゴリーで成功すれば、圧倒的に日本のプロリーグの土台がしっかりすると思っていた。だからエリートリーグがスタートすると聞いた時に素晴らしいと思った。これから成長するなと期待してワクワクしていた頃に、コロナの影響が出て一時休止となってしまった。誰が悪いわけでもないけれど、今後、日本サッカーが一気に伸びようとしていた流れが遅れてしまったという残念な気はしている」

 エリートリーグは今年3月末に開幕予定だった新プロジェクト。参加チームを地域ごとにグループ分けして、各グループでホーム&アウェーのリーグ戦を戦う。選手育成を目的としており、試合ごとに21歳以下の選手3人以上をエントリーしなくてはいけない決まりとなっていた。アカデミー所属の選手やJリーグの承認を得た練習生もエントリー可能で、若手に実戦の機会が与えられるリーグとして期待されていたが、今季の開幕は見送られ、来シーズン以降の実施となることが決まっていた。佐伯理事にとっては、日本サッカーの飛躍のチャンスだった「エリートリーグ」に期待を寄せていただけに、ショックは大きかったという。それも、スペインと日本を見ていたからこそ感じたもののようだ。

日本のユース→トップの“飛び級昇格”に疑問 「スペイン的に言うとありえない」

「浅はかな知恵だけど、日本のJリーグとか関係者の方とお話させて頂く時にユースからトップに上がる選手がめちゃくちゃ多いのにいつもビックリしていた。『ユースから次のステップがトップなの?』というのが、スペイン的に言うとありえない。スペインでは一般的にU-18が日本で言う高校3年生ならU-19、U-21、U-23があって初めてトップ。ビジャレアルでもU-23は代表クラスの選手ばかりだけど、トップに1人上がるかどうかぐらいのレベル。その(U-23、U-21)層が薄いというところ、18歳からJ1、J2にいけるというのはどうなんだろう。本当にいい現象なのか、それほどスーパーな子たちがたくさんいるのか……。だからこそ私はU-21、U-23というカテゴリーが必要だと思う」

 スペインでは、U-21、U-23のカテゴリーが課題であるとしながらも、各カテゴリーのピラミッドが整備され、トップに辿りつくまで一段ずつ昇格していかなければならない。例えば、“ピピ”の愛称で知られるMF中井卓大はレアル・マドリードの下部組織に11歳から加入。インファンティールA(U-14相当)、カデーテB(U-15相当)、カデーテA(U-16相当)と階段を駆け上がり、昨季はフベニールCに在籍した。今季はフベニールB(U-18相当)に所属するも、フベニールAのメンバーが主体となるUEFAユースリーグでは、飛び級で40人に選出されていた。今後はフベニールA、カスティージャ(Bチーム)とカテゴリーを上げ、トップチームにたどり着けるか注目が集まっている。日本ではユース卒業後にトップに昇格するパターンは少なくなく、佐伯理事はこの“飛び級制度”に疑問を持ち、強化していくことを課題と捉えているという。

「U-23はビジャレアルに関しては、そこそこお客さんも入っている。所詮(人口)5万人の街なのでコアなおじちゃんとかが来ますね。U-21は代理人、関係者、あとは彼女ぐらい(笑)。集客という意味では取れないし、お金も取っていない。日本は、いろんな連盟が乱立する独特なサッカーの文化の中で、今後もクラブに一本化されることはありえない。少年団、高校サッカー、大学サッカー、クラブユースと多様性があるのが日本サッカーの特徴だけど、いい形で次世代に繋いでいかなければいけない」

 スペインで各年代、女子チームも指導してきた佐伯氏だからこそ見える日本サッカーの側面。長年掲げられる課題である「若手の育成」にメスを入れ、底上げを実現してもらいたい。

Football ZONE web編集部