自分自身に負荷をかけ続ける変わらぬ姿勢

 不思議な縁は、15年前にファンから「似ている」と手渡された油揚げの餅巾着がモチーフとなったキャラクターグッズから始まった。大分トリニータに加入したばかりの森重真人は、そのキャラクターを見て「確かに、似ているな」と、思った。当時は、その10年後に、その作者と膝をつき合わせて、話をするなんて想像もしていなかったはずだ。

 この餅巾着を結ぶかんぴょうぐらいの細さの縁は、じっくり味がしみ込んだ2015年にその『おでんくん』の生みの親であるリリー・フランキーさんとの初対談というカタチで結ばれた。森重と、『おでんくん』はアニメのアフレコ出演や、記念グッズなどでたびたびコラボレーションしてきた。餅のようにながーーい付き合いは今も続いている。

 そして、森重の史上28人目のJ1通算400試合出場を記念してコラボグッズ販売と、2度目の対談が実現。より味わい深くなった2人がコトコトと、楽しいトークを繰り広げた。(取材・文=馬場康平)

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――さて、『おでんくん』以外にも、お二人には大分から東京へと上京してきたという共通点があります。当時持っていたハングリーさや、エネルギーは今も変わりませんか、もしくはキャリアを重ねて新たな力の源が別にできたのかをお聞かせください。

リリー 田舎の友達からは「子どもの時からずっと同じことをしているね」と言われます。福岡で生まれて、大分に行って、東京に来て……。腰が落ち着かないのか、安定したくないのか……。森重さんもそうですが、きっと僕たちは自分自身に負荷をかけ続けているかもしれません。そこには、これからもチャレンジしていきたいと、今も思っています。

森重 僕自身も、安定とか、平凡とか、普通とかが苦手です。どちらかというと、邪道と思われる道を選択したり、いつまでも尖っていたいという気持ちがあります。常に今、自分の歩んでいる道が本当に正しいのかと疑問を持ちながら、また新たな刺激をいつも求めている。そういうことを楽しんできたので。

リリー 日本では、子どもの頃から全体主義を教わるので、普通でいなさいと言われる。でも、大人は普通でいなさいと言っておきながら普通以上になりなさいとも言っている。その矛盾に対して、子どもたちは戦っていかないといけない。常に、普通でいなさいと言っておきながら、50点を取ったら怒られてしまう。暗に普通以上になれという大人に対して、自分なりの答えを探していかないといけない。そういう矛盾に対して、スポーツや、芸術においても、子どもたちの意識を変えていかないといけないのかもしれません。

――マルチな才能をお持ちのお二人ですが、大変さや、難しさをどんなところに感じますか、逆に面白さはありますか?

リリー 僕はどの仕事も、同じことをしている感覚です。唯一違うのは、一人でやっているのか、大勢でやっているのかの違いです。何かを表現していることに変わりはありません。いろいろなポジションをやっているほうが集中はできます。ずっと一つのことをやっていると、どうしても集中が途切れるスピードが早くなってくるので。

森重 難しいからこそ、面白さがあると思っています。正解がないからこそ、考え続けるしかないことに面白さを感じる。分からないことや、新たなことを知る楽しさや、できなかったことができるようになるワクワク感が勝ってしまう。(いろんなポジションや新しいサッカーに触れると)知らない世界を見たいというマインドになります。

システムを壊すエロティックなプレー

――サッカーでも『エロいプレー』という表現をすることがあります。同性から見ても、セクシーさを感じるお二人に、その秘訣を聞きたいです。

リリー サッカーには、エロいプレーというのがあるんですね(笑)

――森重選手のプレーは、かなりエロいです。

一同 ハハハハ。

リリー かといって森重さんが半尻出してボールを蹴っているわけじゃないですよね?(笑)

森重 もちろん違いますよ(苦笑)。

リリー 同性の方に、性を褒められるのはうれしいですよ。同性の人と、年配の方にセクシーと言われるのは一番うれしいんじゃないですか? それは生命力があると思われていると、僕は受け取っているから。森重さんは400試合出ているので、そういう意味で超エロいですよね?

森重 相当、エロいですね(笑)。自分もうれしいですよ、褒め言葉と勝手に解釈して受け取っているので。ニュアンスとしても、エロいという語感でなんとなく意味は分かります。セクシーなプレーをしすぎて、逆に怒られることもあるので度を過ぎることはやめようかなと(苦笑)。

リリー サッカーの中でエロいプレーというのは、一筋縄ではいかない、曲者っぽいプレーのことを指すのでしょうか?

森重 そうですね。予想外なプレーだったり、駆け引きで相手の一歩上を行くプレーを指すのだと思っています。

リリー 日本人の感性で言えば、焼き肉に行ったらタン塩から食わなきゃいけない、キスから始めなきゃいけない構造主義がありますからね。そこを壊していくのがエロティックですよね。プレーでも、日々の生活でも。最後にタン塩食っちゃった、最後にキスしちゃったというのが、エロいプレーの根源だったり、構成力みたいなものかもしれないですね。サッカーで言えば、この人、この場面で蹴らないじゃんみたいなことかな。

森重 あっ、よく言われます、それは(苦笑)。

無観客で気づかされたオーディエンスの力

――コロナ禍で観客が声を出せない状況が続いています。今、観客の存在をあらためてどう感じていますか?

リリー 今のスポーツ観戦においては、入場制限や、様々な制約が設けられている。特にスポーツにはホームとアウェーがあって、ファン・サポーターのリアクションに支えられてきたと思います。これは森重さんにぜひ聞きたいですね、プレーにどういった影響があるのか。

森重 僕自身が感じたのは、観客の視線や、歓声があるからこそ、自分たちも高いモチベーションだったり、格好つけられたり、楽しめたりできていたということですね。歓声が沸けば、よりいいプレーだと実感できたし、ため息が聞こえてきたらより悪いプレーだったと思ってしまう。そうしたファン・サポーターと一体になった感情の揺れが、観客の前でプレーする醍醐味でした。無観客試合の時にあらためて気づかされましたが、何もない静かなスタジアムでプレーすることがどれだけ寂しいことか。モチベーションも上がらないですし、味気なく感じる。観客がいてこそだと思うし、見てくれる人たちがいて初めて自分たち選手の存在が際立っていたのだと思う。1年近く、歓声のないスタジアムでプレーしていますが、いつまでたっても今の環境には慣れないですね。

リリー そうだと思います。僕たちの仕事はライブで人に見られるのは舞台ぐらいなので。間接的に映像になったものを見てもらうか、ご自宅で本を読んでもらうことが多いです。ただ、舞台をやっていた時は、お客さんのいる難しさを感じます。ウケている、ウケていないとか、お客さんのリアクションが気になり過ぎて、お芝居にも影響が出るんです。本来は笑っていようが、泣いてようが稽古と同じことをやるべき仕事なのに。でも、人間だからそこに振り回される。だから、オーディエンスの存在はやはり大きい。何カ月もやってきたことを一気にひっくり返す力がある。実際に、観に来ているお客さんを見ると、うれしい気持ちにもなります。生身の人間を見た時のほうが、その人に応えたいという気持ちが起きるので。

FC東京のリーグ制覇と新たな約束

――これまで多くのモノを手にしてきたと思いますが、今、手に入れたいものはありますか?

リリー 何も手に入れたつもりはないですけど、車の免許ですかね。

森重 お持ちじゃないんですね

リリー 車の免許がほしいですね。昔は持っていたんですが、今はないので。純粋に家じゃない場所で考えごとをするなら運転が一番いいなと思うので。

森重 僕は、FC東京のリーグ優勝ですね。これはずーっと言い続けてきて、ずーっと達成できていないので。本当に、それを成し遂げないと、サッカー選手になった意味がないとさえ今は思っているので。J1制覇は絶対に手に入れたいと思っています。

――リリーさん、すいません。無茶ぶりで申し訳ないのですが、森重選手がリーグ優勝を成し遂げた際には何かプレゼントをご用意いただけますか?

リリー もちろんですよ。優勝した際には、オレがおでんくんの着ぐるみを貸すので、それでピッチに立ってもらって頭を脱いでもおでんくんが出てくるってどうかな?(笑)

森重 いいですね。ぜひ、それは実行したいです。

(森重選手の背景にあった、FC東京のスポンサーボードをリリーさんが見つけて)

リリー 僕もFC東京の優勝に向けて、何かほかに用意できることがあれば考えておきます。それと、車の免許以外に目標が見つかりました。いつか僕もスポンサーになって、そのスポンサーの中におでんくんの名前を入れたいと思います(笑)。森重さん、怪我には気をつけてくださいね。

森重 リリーさん、ありがとうございました。またよろしくお願いします。

[PROFILE]
リリー・フランキー(本名・中川雅也)
1963年11月4日、福岡県生まれ。イラストレーター、文筆家、写真、作詞・作曲、俳優など、多分野で活動。2005年に発表した長編小説「東京タワー オカンとボクと、時々、オトン」は2006年本屋大賞を受賞、絵本「おでんくん」はアニメ化もされた。主演作「万引き家族」がカンヌ国際映画祭パルムドールを受賞。公開中の映画『その日、カレーライスができるまで』では初の一人芝居に挑戦。来年公開の日英合作映画『コットンテール』に主演。

森重真人(もりしげ・まさと)
1987年5月21日、広島県生まれ。2006年、大分トリニータに加入し、08年に北京五輪出場。10年にFC東京に移籍し、14年のブラジルW杯にも出場。1対1の強さ、打点の高いヘディング、ビルドアップ能力をあわせ持ち、セットプレーから高い得点能力も発揮する。Jリーグベストイレブンには5度選出されている日本屈指のセンターバック。日本代表としては国際Aマッチ41試合出場。183センチ、79キロ。血液A型。

Football ZONE web編集部