ペルージャ時代に取材歴のある現地記者を直撃

 日本サッカー界はこれまで数々の名プレーヤーを輩出してきた。日本代表や欧州クラブで輝かしい実績を残した中田英寿氏はその1人。ワールドカップ3大会に出場したレジェンドは早くから世界に目を向け、21歳でイタリア1部セリエAへの挑戦を決断。その後、ワールドクラスの選手へと成長を遂げた。

 2006年夏に29歳で現役を引退した「孤高の天才」は他者の目にどう映ったか。「FOOTBALL ZONE」では改めてこの偉大なフットボーラーが周囲に与えた影響力を振り返るべく、イタリアのペルージャ時代に取材歴のある「イル・メッサジェーロ」紙のアントネッロ・フェッローニ記者に改めて当時を回想してもらった。

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――中田英寿がペルージャでセンセーショナルな活躍を見せた当時、どのような印象を持ちましたか?

「なにより凄かったのは想像を超えたレベルのプレーを披露したこと。我々にとっては衝撃的だったよ」

――驚いた?

「そうだよ。日本人選手が、しかもあの当時のイタリアで活躍したんだからね。こんなに優秀な選手だとは思ってもいなかった。想像をはるかに超えていたよ。日本人選手のレベルがあれほど高いとは思っていなかったから。

 だから当初は中田に期待なんて誰もしていなかった。ところがガウチ会長の先見の明は素晴らしかったね。優秀な選手だったのはもちろん、マーケティング面でも成功した。我々のパースペクティブも変わった。

 そこから彼に対する目の向け方が変わった。(イラーリオ・)カスタニェール監督(当時)は、こう言っていたよ。『アテンションプリーズ(注意してくれ)、この選手は普通ではない。この選手の才能はノンポコ(小さくない)、重要な選手だ』と。監督はすぐにそう言った。初練習で。それを聞いてみんな驚いていた。

 実際にプレーを見てペルージャにいるべきではないと感じたよ。スクデットを懸けて戦えるチームにいるのが相応しいとね。セリエAデビュー戦でユベントス相手に2ゴール。それがすべてを物語っている。まさにビッグプレーヤーだよ」

――日本からやって来たという点でもインパクトは大きかったのでは?

「日本人選手のプレーシーンは目にしていたけれど、中田ほどレベルが高いサッカー選手は見たことがなかった。国際レベルでの実績が浅い国々が成長しているのと同様に、日本サッカーも成長を遂げていた。アフリカ人選手たちもそうだ。彼らの国々は戦術的にレベルが低かった。でも今は違う。

 日本サッカーは大きく成長したけれど、当時はそんなにレベルが高くはなかった。僕たちにとってはフォークロアな魅力があった。多くの日本人報道陣が中田の周りに集まっていたのも驚きだったし、ペルージャの街には観光客がたくさん来て、豊かになっていた。そういう状況が僕たちにとってはとても興味深かった。中田はスペクタクルだったね。ファンタスティコだった!」

「技術的にも素晴らしいが、すごくよく走る選手だった」

――中田のプレーは素晴らしいクオリティーでしたね

「彼はサッカーを愛していた。常に最高の状態を目指す。彼はトップでいたかったんだ。最高のプレーがしたい。彼はあの時、トップだった」

――完璧主義者?

「そう。彼は完璧主義者」

――「イル・メッサジェーロ」紙は中田の記事に“100メトリスタ”という面白いタイトルをつけていたが、よく走っていた印象が強い?

「セリエAはタフに走らなければやっていけない。あの当時はイタリアのサッカーが最高だった。ブンデスリーガ、プレミアリーグより上に位置していた。あのレベルに到達するのは、アスリートとしての強さはとても重要だった。

 中田はよく走っていたよ。技術的にも素晴らしいが、すごくよく走る選手だった。クオリティーだけではなく、量もあった。そのタイトルについては覚えていないが、確かに中田は惜しむことなく、すべてを出し切って、よく走っていたから、その寛大さを強調して書いたんだと思う。

 カスタニェール監督は、選手たちにピッチ全体をカバーするようにと指示していた。ボールを持ったら必ず複数の選択肢を作れるパスを出せるように。中田はボールを持ったら、常に2つ、3つの選択肢を持っていた。ボールを持っていない時には彼自身が1つの選択肢となっていた。完全にカスタニェールの戦術に溶け込んでいた。よく覚えているよ、違いのあるプレーをしていた、技術的に彼はほかの誰よりも一番優秀だった」

――メンタル面への印象は?

「日本ではスター選手だったから常に多くのジャーナリストたちが彼を追いかけていた。それは大きなプレッシャーだったはずだが彼はうまく耐えていた。適切なメンタリティーを持っていたからだと思う。サッカーは人生のすべてではなかったし、現役キャリアを終えたら違うことをしている。彼にとってサッカーは人生の一部」

FOOTBALL ZONE編集部