都内で他の欧州クラブと一線を画す育成イベントを実施

 ドイツ・ブンデスリーガ1部のVfLボーフムが、ゴールデンウィークに東京・世田谷のファンルーツパーク芦花公園で、小学生を対象とした無料のスペシャルスクールを開催した。昨今、欧州や南米のクラブが日本でサッカースクールを展開したり、こうしたイベントを開催するケースが増えている。様々なクラブが日本というマーケットを狙っていることの表れだろう。ボーフムが日本へ進出する理由は、どこにあるのだろうか。

「バイアンムンヒン!(バイエルン・ミュンヘン)」

 育成コーチのヨルグ・コンラッド氏が声をかけると、2対2でボールを奪い合う子どもたちが特定のゴールを狙う。ピッチの半面に設置した4つのミニゴールは、それぞれ「ボーフム」「バイエルン」「ドルトムント」「ブレーメン」とブンデスリーガのクラブ名が付けられており、保持側はボールをキープしながら、コーチの声を聞いて狙うべきゴールを瞬時に判断する。

 子供たちは、聞き慣れない発音と普段とは少し違った設定の練習に戸惑いながらも、徐々に素早く的確なジャッジができるようになっていく。ちょっとした工夫で、身体を動かしながら頭も使わせるメニューだった。

 ボーフムでは、かつて小野伸二や乾貴士(現・清水エスパルス)、チョン・テセ、田坂祐介らがプレーした。現在も日本代表の浅野拓磨が所属しており、日本のサッカーファンにはお馴染みのクラブだ。それだけに日本へ進出するのも頷けるが、日本で事業展開する他のメガクラブとはアプローチの方法で一線を画している。

 コンラッド氏はこう話す。

「もちろん、そうした歴史を踏まえて今後も日本とつながりたいという思いがあります。ただ我々は大きなクラブではないですから、ビジネスとして急ぐよりも、持続可能な関係作りを重視している。そのために、子供たちの育成に力を入れていきたいんです。今回のイベントだけでなく、オンラインでつなぎ、ドイツから直接ライブ指導するスクールもやっています」

 関係作りを図っているのはジュニアカテゴリーのスクールだけではない。今春、ボーフムのアカデミーからU-15のチームが日本で開催された国際フェスティバル『コパトレーロス』に出場。逆にJFAアカデミー福島のドイツ遠征をボーフムで受け入れている。

ボーフムが重視する子供たちへの継続的なサポート

 また、育成カテゴリーを越えた関わりも実現した。3月にジュビロ磐田と1年間のパートナーシップ契約を締結したのだ。提携の内容は、競技面では選手やコーチの人的交流とスカウト情報の共有、ビジネス面ではスタッフの人的交流や情報交換と相互協力など。競技とビジネスの両面で関係構築をはかることになる。

 再びコンラッド氏が、日本での育成の取り組みについて展望を語る。

「長いスパンのなかで、少しずつ成長していくことが子どもたちにとって一番大事。我々としては、継続的な取り組みで刺激を与えていきたいと考えています。例えば先ほどの練習1つとっても、やったことがない子が多いはず。つまり他の子たちにはないステップがあったということですから、やはりいろいろな刺激を与えることは大切です。子供たちには、『ボーフムがいろんなことをサポートしてくれたな』といつか感じてもらえれば嬉しいです」

 すぐに目に見える結果が出るわけではないだろう。しかし、日本とさまざまな接点を作ろうとするボーフムの取り組みは、日本サッカー界への良い刺激となりそうだ。

(取材協力:株式会社ファンルーツ)

生島洋介