宇佐美貴史、相棒が語る復調の証。2戦連続ベンチスタートに対するフラストレーションの矛先【この男、Jリーグにあり】

宇佐美貴史、相棒が語る復調の証。2戦連続ベンチスタートに対するフラストレーションの矛先【この男、Jリーグにあり】

2戦連続のベンチスタート

 目の前に突きつけられた非情な現実を、努めて冷静に受け止めた。指揮官から言い渡された先発メンバーのなかに自分の名前がない。しかも、ホーム、アウェイの2試合とも。FC東京と対峙したYBCルヴァンカップ準々決勝。ガンバ大阪のFW宇佐美貴史は、ベンチから捲土重来を期すと誓った。

「悔しかったですけど、妥当だったかな、と思っていた」

 ラグビーワールドカップの会場になる関係で使用できない味の素スタジアムに替わり、大宮アルディージャの本拠地、NACK5スタジアム大宮で行われた8日の第2戦後の取材エリア。2大会ぶりとなる準決勝進出を決めた余韻が残るなかで、自らに言い聞かせるように宇佐美は先発落ちを振り返った。

 ガンバは8月の公式戦を白星なしの4分け2敗で終えていた。黒星には法政大学に屈辱のジャイアントキリングを許した天皇杯3回戦も含まれている。J1戦線では17位の松本山雅FCと勝ち点わずか4ポイント差の14位と、熾烈な残留争いに巻き込まれているなかで宮本恒靖監督が動いた。

 国際Aマッチデーに行われるルヴァンカップ準々決勝へ向けて、システムを[3−1−4−2]から約3ヶ月半ぶりに[4−2−3−1]へ変更。攻撃陣を再編成するとともに、大会独自のルールである、1人以上を先発させなければいけない21歳以下の選手の人選に入った。

 白羽の矢を立てられたのは、東福岡高校から加入して3年目の高江麗央。東京五輪世代の21歳がトップ下に、1トップには直近のリーグ戦で後半途中から出場していたパトリックが指名された一方で、今夏の復帰以来、リーグ戦ですべて先発してきた宇佐美がリザーブに回った。

「普段試合に出ているメンバーのなかで、誰(を高江)と交代させるのかを考えました。第1戦で言うと、リーグ戦から中3日での試合ということでコンディションを重視しました」

「2度目(の海外挑戦)もダメだった」

 先月31日の横浜F・マリノスとの明治安田生命Jリーグ第25節から、ホームのパナソニックスタジアム吹田で行われた4日の準々決勝第1戦へ。マリノス戦で先発して84分間出場した宇佐美と、フル出場したアデミウソンをともにリザーブとした理由を、宮本監督はコンディションに帰結させた。

 もっとも、宇佐美は額面通りに受け止めなかった。VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)による判定でゴールこそ取り消されたものの、高江は第1戦で及第点のプレーを演じた。何よりもガンバはMF倉田秋のゴールを死守し、宇佐美が今夏に復帰して以来、初めてとなる白星を手にしていた。

「個人的に結果を出していなかったし、チームの結果も出ていなかったなかで、第1戦では非常にいい形で結果が出た。そのままのメンバーで第2戦もいってほしいと、自分のなかでは思っていた」

 ブンデスリーガ1部のアウグスブルクとの契約を2年残しながら、中学生時代から下部組織で心技体を磨き、いまも愛してやまないガンバから届いた完全移籍のオファーを優先させた。2013年夏以来となる2度目の復帰へ、移籍会見で発した自虐的な言葉のなかに不退転の覚悟を凝縮させた。

「2度目(の海外挑戦)もダメだった、という気持ちが清々しいくらい自分のなかにある」

 前回は期限付き移籍していたホッフェンハイムからの復帰だった。翻って今回は契約解除金が発生する完全移籍であり、年齢も27歳と中堅の域に差しかかっている。ガンバを浮上せせる責任を感じているからこそ、初心に戻る思いを込めてルーキーイヤーと同じ「33番」を背負った。

「自分自身の現状に対する悔しさ」

 復帰戦となった7月20日の名古屋グランパス戦では、試合終了間際に起死回生の同点ゴールを決めた。敵地で貴重な勝ち点1をガンバにもたらしたものの、リードを許した後半途中から緊急投入された法政大との天皇杯を含めて、その後はゴールを奪えないまま時間が経過していった。

 宇佐美はリーグ戦で2トップの一角だけでなく、アンカーの前に配置されるインサイドハーフとしても起用されてきた。宮本監督は「ボールをもったときに、相手に対して危険なプレーを見せてくれる」と宇佐美を信頼し、コンディションや相手チームとの兼ね合いで使い分けてきた。

 しかし、肝心のコンディションが上向かない。アウグスブルクから期限付き移籍した昨季のフォルトゥナ・デュッセルドルフで、なかなか試合に絡めなかったからか。あるいは、日本特有の高温多湿の夏に苦しめられたのか。自らを鼓舞するように、宇佐美自身はこんな言葉を残している。

「どんどん状態を上げていくというか、状態を上げていかなきゃいけない、という意識でやっていかないと。攻撃面でもっと、もっと良さを出していきたい。ポジティブにやっていければまだまだ個人的にも良くなるし、個人が良くなればチームはもっと良くなると思っているので」

 迎えたルヴァンカップ準々決勝第2戦も、宮本監督は「先発した選手たちがいい試合運びを見せていたので、それを継続したいと判断した」と、先発メンバーを変えなかった。ベンチスタートを望んでいた宇佐美だったが、それでもファイティングポーズを失っていたわけではない。

 選手ならば誰でも試合に出たい。それも先発でピッチに立つために、日々の練習からアピールを続ける。それでも、絶対的な居場所を勝ち取れる選手はごくひと握り。現時点の自分はまだまだその域に遠く及ばない。忸怩たる思いを逆襲への糧に変えるべく、宇佐美はあえて現実を受け入れた。

「自分もしっかり結果を出して、あらためてチームのなかへ入っていく。もう一度そういうところからこだわっていかなきゃいけない、と思っています。もちろん悔しさはあったけど、それは自分自身に対してのみの悔しさだったし、フラストレーションも自分自身に対してのみ抱いていたし、もちろん監督の判断を理解できると思ってしまった自分自身の現状へ対する悔しさも感じていました」

「柔」と「剛」のコンビネーション

 ピッチ外にいる時間の方が長かったFC東京との準々決勝2試合。宇佐美は必死に戦う仲間たちの一挙手一投足を、微に入り細をうがって観察した。アウグスブルクへ旅立ったのが2016年の夏。復帰を果たすまでの約3年間で、ガンバの陣容は大きく変わっていたからだ。

 FC東京戦の先発メンバーで、一緒にプレーしたことのあるフィールドプレーヤーは4人だけ。大ベテランの遠藤保仁、当時の「11番」を「10番」に変えた倉田秋、デビューして間もない井手口陽介の中盤勢に、宇佐美と同じ今夏の移籍市場でFWパトリックがサンフレッチェ広島から加わった。

 ガンバは2014シーズンに、国内三大タイトル制覇を達成している。2000シーズンの鹿島アントラーズに次ぐ偉業は、夏場から「柔」と「剛」の2トップを組み、お互いを生かし合う絶妙のコンビネーションでガンバに爆発的な得点力をもたらした、宇佐美とパトリックを抜きには語れない。

「周りの選手との意思疎通というか、プレーをもっともっと合わせていかないといけない。そのなかでパト(パトリック)に関しては動き方がだいたいわかっているつもりなので、どのタイミングで、どのような場所にほしいのか、ということを思いだしていく作業をしていた。

 パトは相手の背後への動きという強烈な武器をもっている選手だし、クロスに対してもニアの方へ潰れていくよりは、基本的に相手の後ろで待ち気味になる、ということも意識していた。試合を見ながら真ん中からちょっと後ろに、フォア気味に蹴るというイメージをずっと描いていた」

以心伝心で開通させたホットライン

 ベンチで必死にインプットした情報を宇佐美が具現化させたのは、第2戦の76分だった。20分にFWディエゴ・オリヴェイラ、サイドが変わった67分にはFW田川亨介にゴールを決められ、トータルでビハインドを背負う展開で、58分に高江に代わって投入されていた宇佐美が輝きを放った。

 敵陣の中央でボールをキープしながら、右サイドの奥深くにポジションを取っていたDF高尾瑠へパスを通す。そして次の瞬間、宇佐美は高尾の後方へ素早く移動。フリーの状況を作り出したうえで、右手で手招きしながら高尾にリターンパスを要求した。

「あの場面ではワンタッチのタイミングしか狙っていなかった。パトの前の空間へ落とす、というイメージで蹴りました」

 こう振り返った宇佐美は最初からファーサイドで、身長176cm体重69kgのDF室屋成の背後にポジションを取っていた巨漢FWしか見ていなかった。身長189cm体重82kgのサイズを誇るパトリックは、室屋とのサイズの差を計算したうえで突進し、宙を舞いながら制空権を握る。

「自分が待ち構えながらクロスに対してヘディングをするよりは、自分の方からボールに向かっていって、ボールにアタックしながらヘディングをする方が、相手の選手にとってもすごく難しいシチュエーションになる。そこはイメージ通りできたと思う」

 以心伝心で開通させたホットラインを、パトリックは笑顔で振り返った。室屋を弾き飛ばしながら放たれた強烈なヘディングシュートはワンバウンドした後に、FC東京の守護神・林彰洋が必死に伸ばした左手の先をかすめ、右ポストに当たってゴールマウスに吸い込まれていった。

「本来のプレーができるようになっている証」

 第2戦そのものは1−2で敗れ、2戦合計スコアも2−2となった。しかし、形のうえでは一矢を報いたパトリックの一撃が貴重なアウェイゴールとなり、敗退濃厚の状況を一気にひっくり返した。

「僕がペナルティーエリア内に入ったら、クロスを入れて欲しいとみんなには言っていたけど、前半はなかなかボールが入ってこなかった。ただ、宇佐美選手が入ってからは、彼がいいボールを入れてくれることはわかっていたので、しっかりといいポジションを取ることができた。

 以前に彼と一緒にプレーしていた時期が、すごく懐かしくなるような最高のクロスだった。彼からのパスというのは、忘れることなくいつもプレーしてきた。(ゴールは)彼がさらにコンディションを上げてきて、彼本来のプレーができるようになっている証、ということだと思う。

 でも、いま現在がマックスじゃない。彼もヨーロッパでいろいろなことを経験して、引き出しやアイデアが増えたはずだし、僕も広島で多くのゴールを決めた。それだけでなく、けがなどもあっていろいろなことも勉強して、サッカー選手としても人としても成長できたと思っているので」

 対峙した守備陣を何度も畏怖させてきた最強ホットラインの復活に、パトリックは言葉を弾ませた。対照的に思い描いている理想のパフォーマンスへ、まだまだ道半ばにあると自らを鼓舞しているのだろう。第2戦を戦い終えた宇佐美は、ほとんど笑顔を浮かべることはなかった。

「基本的に(相手ディフェンダーに)勝てる選手なので、パトに対してひとつアシストができたのはよかった。これからも貪欲に狙っていきたい」

 FC東京との第2戦後に、宮本監督は「勝負どころで見せてくれる質の高いシュートやラストパスに期待した」と宇佐美の起用を語っている。システムが[4−2−3−1]で継続されれば、今後も後半途中からの出場が多くなるかもしれない。それでも宇佐美は、努めて前を向き続ける。

 再開されるリーグ戦では14日に、勝ち点1ポイント差の16位に肉迫してきたサガン鳥栖をホームに迎える、残留へ向けた大一番が待つ。寄せられる期待と乖離している自らの現在地を認め、復活を誓った宇佐美が見せた一瞬の輝きをさらに増幅させられるかどうかに、ガンバの復調がかかってくる。

(取材・文:藤江直人)

【了】


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