「我々はプレミアリーグをクローズしたかった」

 プレミアリーグ第35節、マンチェスター・シティ対チェルシーが現地時間8日に行われ、1-2でアウェイチームが勝利した。ともにチャンピオンズリーグ(CL)での激闘を終えたばかり。その中で、なぜシティはプレミアリーグ制覇を決められなかったのか。(文:本田千尋)

——————————

“勝負師”としての横顔を覗かせた――。

 現地時間8日に行われたプレミアリーグ第35節、チェルシー戦。マンチェスター・シティは、この試合に勝てばリーグ優勝が決まる。
 
 だが、ペップ・グアルディオラ率いるチームは満身創痍だった。無理もない。4日前のビッグマッチ、チャンピオンズリーグ(CL)の準決勝2ndレグでパリ・サンジェルマン(PSG)を退けたばかり。中3日で続く大一番で、グアルディオラ監督は、実に9人のフィールドプレーヤーを変えてきた。PSG戦から残ったのは、CBのルベン・ディアスのみ。大胆なローテーションに、CLの激闘を経て蓄積された疲労の大きさが垣間見える。

 しかし、これだけ疲労困憊で人員をやりくりしなくてはいけない状況で、相手が共にCL決勝に進出したチェルシーという強者だったにもかかわらず、グアルディオラ監督は、勝負を決めに行ったのである。試合後、ペップは次のようなコメントを残した。

「我々は悲しい。なぜなら負けたからだ。今日、我々はプレミアリーグをクローズしたかった」 。

 ここでの「プレミアリーグをクローズしたかった」という言葉は、「プレミアリーグ優勝を決めたかった」と捉えて差し支えないだろう。

 確かにスキンヘッドの指揮官は、前日の会見で「私は常にプレミアリーグが最も重要なタイトルだと言ってきた。1勝のために我々は4試合残している。明日、我々は1勝するためにトライするつもりだ」と述べていた。しかし「4試合残している」という口ぶりからは、チェルシー戦で何が何でも優勝を決めなくてはならない、というニュアンスは、あまり伝わってこない。

 加えて大胆なローテーション。一般的に、メンバーを大幅に入れ替えるときは、主軸の休養が主たる目的で、目の前の試合の勝敗は二の次になる場合が多い。もちろん負けていい試合などあるはずもないが、通常のロジックに当てはめれば、このような状況下では“チェルシー戦はやり過ごす”、ということだ。「4試合残している」のなら、なおさらのことである。

前半は策がハマった

 もっとも、“一般的”だとか、“通常”だとか、そういった言葉が存在しない次元に住んでいるのがペップ・グアルディオラだということは、周知のとおり。そして9人を入れ替えながら採用した戦術は、なるほどチェルシー相手に合理的なものだった。

 グアルディオラ監督は、3バックを採用。後ろの3枚は、右からルベン・ディアス、エメリック・ラポルト、ナタン・アケ。左右のWBはバンジャマン・メンディとジョアン・カンセロ。ロドリのワンボランチに、ラヒーム・スターリングとフェラン・トーレス。そして2トップがガブリエウ・ジェズスとセルヒオ・アグエロである。基本布陣を3列表記で表せば[5-3-2]といったところだ。

 シティは満身創痍だったが、疲労困憊なのはチェルシーも同じだった。トーマス・トゥヘル監督率いるチームは、3日前にCLの準決勝2ndレグでレアル・マドリードとの激闘を終えたばかり。シティよりも1日少ない中2日で、このマンチェスターに遠征してきている。よって好調時と比べ、攻守に精度を欠いておかしくない。であれば、比重を後ろに置きつつ、速攻でチェルシーのゴールを脅かすことは、理にかなっている。

 実際、前半はペップの策がハマったと言える。シティの3バックの布陣は、有機的に連動したとは言い難かったが、秩序は保った。疲労の影響か、チェルシーの前線の3枚、ハキム・ツィエク、ティモ・ヴェルナー、クリスティアン・プリシッチが積極的にプレスを掛けてくるわけでもなく、ブルーズのチーム全体のパスのテンポも上がらない。チェルシーの強度は、9人が入れ替わったシティを脅かす程ではなかった。

 その中で、ロドリが前のアグエロやトーレスにパスを入れると、ペップのチームはギアを入れて、縦に速く繋いで攻め込む。そして44分、ディアスが右サイドに入れたシンプルなロングボールから、ジェズスが並走したアンドレアス・クリステンセンをかわして、アグエロが触った折り返しのボールをスターリングが押し込んで先制に成功する。なお、この場面でクリステンセンはロングボールを処理し切れなかったが、ここにも疲労の影響が垣間見える。

アグエロのPK失敗などが響き…

 惜しむらくは、続けて迎えたビッグチャンスを、アグエロが決め切れなかったことか。46分、シティのアタッカー陣の連動したプレスから、GKエドゥアール・メンディが蹴ったボールをロドリが頭でダイレクトに前に繋ぎ、速攻を仕掛ける。するとゴール前で、ジェズスがビリー・ギルモアに倒されてPKを獲得。キッカーのアグエロは“パネンカ”を選択したが、失敗してしまう。チェルシーの息の根を止めることはできなかった。

 後半に入ると、1点をリードしたためか、シティは5バックで守備に重きを置いた。メンバーを9人入れ替えたとは言え、長く離脱していたアケやアグエロ、今季あまり出場機会に恵まれなかったメンディを除けば、誰もが疲れていた。無理もない。そして比重を後ろに置いたことと、疲労が重なったことで、63分に失点してしまう。ロドリが簡単にボールを失い、陣形が整わない内に攻められたシティは、ツィエクにシュートを突き刺される。

 70分にイルカイ・ギュンドアンとフィル・フォーデンを投入したものの、大勢は変わらず。終盤に入って間延びしてきたシティは、さらに失点。92分、押し切られるようにして、マルコス・アロンソに勝ち越しゴールを許してしまう。結果、チェルシーに1-2で敗れ、リーグ優勝はお預けとなった。

 1-2で敗れはしたが、満身創痍の状況でもあくまで勝ちを狙うという、飢えた“勝負師”としての横顔を、このチェルシー戦でペップ・グアルディオラ監督は覗かせた。もちろんこの試合を落としたからと言って、プレミア制覇に影響はない。リーグ戦は3試合残されている。ここで決めればCLの決勝に専念できるという側面はあるにせよ、劣勢の状況で迎えた試合を無難にやり過ごすという一般的な選択肢は、この男は持ち合わせていないようだ。

 だから、バルセロナを離れて以来、CLを制覇してヨーロッパの頂点に辿り着けないのだろうか。

 答えは、5月29日、明らかになる。ビッグイヤーを賭けた相手は、またもチェルシーだ。ブルーズを率いるのは、ペップ・グアルティオラを最もよく知る男、トーマス・トゥヘルである。

(文:本田千尋)