もつれる優勝争いと揺れる去就

ラ・リーガ第37節、アスレティック・ビルバオ対レアル・マドリードが現地時間16日に行われ、0-1でレアルが勝利を収めた。首位アトレティコ・マドリードとの勝ち点差は2ポイントのまま、優勝決定は最終節までもつれる展開に。ジネディーヌ・ジダン監督の去就も揺れる中、レアルの選手たちは気迫で勝利をつかみ取った。(文:本田千尋)
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 勝負の行方は最終節へ――。

 現地時間5月16日に行われたリーガ・エスパニューラ第37節。敵地で戦ったアスレティック・ビルバオ戦の後で、ジネディーヌ・ジダン監督は“去就”について言及した。

 フランス人指揮官は「私が選手たちに辞任すると伝えたと報じられたことは嘘だ」と言う。地元メディアの報道によると、ジダン監督は先週9日に行われた前節セビージャ戦の試合開始前に、選手たちに退任の意向を伝えたという。しかし、当の本人はこの報道を否定。

「どうして私が選手たちに去るなんて伝えるんだ? ただ私にとってはリーガを賭けて戦っているこのシーズンの終わりのことだけが重要だ。それ以外のことに関してはシーズンの終わりに考える」

 同様にナチョも、コメントで指揮官の“去就”に関する報道に蓋をした。

「先日、ジダンがミーティングの中で僕たちに何か話したというニュースが今日出ていたが、監督には契約があるし、ここにいることをとても楽しんでいる。彼は僕たちと死ぬ気で臨んでいる」

 一方で、ナチョは、ジダン監督の退任について、少し“含み”も持たせた。

「それは最終的にクラブと監督が下す決定だけど、僕たちは監督に残って欲しいと思っている」

極限の状況で迎えた“セミ・ファイナル”

 セビージャ戦の前にジダン監督が選手たちに辞任すると伝えたことが事実かどうかはともかく、この「僕たちは監督に残ってほしい」という言葉からすると、選手たちもジダン監督が今季限りでチームを去るのではないかと、少なからず感じ取っているのかもしれない。

 そんな“予感”がチーム内外に漂う中、いよいよジダン・レアルは最終決戦に臨む。今季のリーガが残すところ後2試合だとすれば、このビルバオ戦は、いわばセミ・ファイナル。試合前の首位アトレティコ・マドリードとの勝ち点差は2。世界最高峰のリーグ戦で勝ち続けなければ優勝が難しい状況は、まさにワールドカップに匹敵するトーナメントである。

 そんな極限の状況で迎える試合は、これまで幾多の修羅場を潜り抜けUEFAチャンピオンズリーグを制覇してきたレアルの選手たちにとっても、簡単なゲームではなかったようだ。レアルはビルバオを相手に序盤からパスのテンポを上げて攻め込み、[4-4-2]でブロックを敷くビルバオを相手にボールは回せても、なかなか決定機を作ることはできなかった。

 右SBで先発したアルバロ・オドリオソラは「おそらく最後の30メートルのところで何か欠くものがあったと思う」と振り返る。サイドアタックも中央突破も単調になりがちで、もう1つのところでアイデアに「欠くもの」があった。

疲労困憊のモドリッチ1人では…

 なぜ、レアルは「最後の30メートルのところで」アイデアを欠いたのだろうか。

 1つは、トニ・クロースの不在だろう。試合に先立つ14日、クラブはドイツ代表MFが新型コロナウイルスの濃厚接触者となったことを発表。少なくとも今回のビルバオ戦の欠場が確定した。

 よって[4-3-3]で臨んだビルバオ戦の中盤の構成は、アンカーにカゼミーロ、インサイドにフェデリコ・バルベルデと、ルカ・モドリッチである。中盤の強度を保つと言う意味では、クロースに代わってバルベルデがプレーしても遜色はないが、創造性という点では、どうしても劣ってしまうところがある。必然的に、ビルバオ戦のゲームメイクはモドリッチひとりに頼りがちになってしまっていた。

 歴戦のクロアチア代表MFも、疲労はピークに達していただろう。中盤では敵のダブルボランチ、ダニ・ガルシアとウナイ・ベンセドルの激しいマークに合って苦しんだ。コンダクターが現役の頃の最盛期のジダンならともかく、タクトを振るうのが疲労困憊のモドリッチひとりでは、ダイナミズムを生み出すのは難しかっただろう。

 それでも68分にナチョがゴールをこじ開けることができたのは、ひとえに両チーム間のモチベーションの差だったのではないか。残り2試合で9位に位置するビルバオは、来季の欧州の舞台への出場権の獲得など、何らかの意義を残りのリーグ戦に見出しづらい。自分たちが勝ちに行くというより、とにかくレアルに勝たせないサッカーを選択していた。

ジダン監督と心中覚悟の選手たち

 フットボールというスポーツの本来の目的が、とにかく点が入りにくいという身も蓋もない困難を乗り越えて、敵のゴールに向かって創造的な何かを発揮するというところにあるのならば、この日のビルバオのサッカーで勝つのは難しいだろう。対照的にレアルは、ナチョが言うようにジダン監督が選手たちと心中覚悟で試合に臨んでいる。

 68分、モドリッチが絡んだショートコーナーから逆サイドに展開して、カゼミーロがゴール前に入れたボールをナチョが右ヒザで押し込んだ。決勝点は不格好で、美しいフィニッシュではなかったかもしれない。だが、形はどうあれ目の前のボールを正確に枠に押し込もうとするナチョのアクションからは、レアルの選手たちもジダン監督に応え、フランス人指揮官と「死ぬ気で臨んでいる」ことが伝わってくるのである。

 こうしてビルバオを下したレアルは、試合後の会見でジダン監督が“去就”を報じる雑音を自らシャットアウトして、ビジャレアルとのファイナルに臨む。シーズン最後の試合を前に、首位のアトレティコとの勝ち点差は2。ディエゴ・シメオネ監督率いるチームとの極限のデッドヒートは、しかしむしろ、「レアル・マドリード」の選手であれば望むところなのかもしれない。

 オドリオソラは言う。

「僕たちはレアル・マドリードであり、最後まで戦うつもりだ」

(文:本田千尋)

【了】