ジャパンタイムズ会長が広島の高原に全寮制スクールをつくる理由

ジャパンタイムズ会長が広島の高原に全寮制スクールをつくる理由

利益向上、市場拡大と目に見える成果を追い駆けることばかりが正解とされなくなりつつある今日。独自の時間軸を持って事業に取り組む「醸された経営者」はどのように世界を見ているのでしょうか。

日本酒蔵の多様性を引き継ぐことを目的に事業展開を進めるナオライのメンバーが、そのヒントを探るべくキーパーソンに迫る連載「醸し人」。第2回のゲストは、ジャパンタイムズ代表取締役会長の末松弥奈子さん。

120年以上続く英字新聞を大切に育む一方、未来を生きる子供のための教育にも力を入れ、次世代教育環境開発(Next Educational Environment Development、NEED)という名の会社を設立。現在、自然豊かな広島県神石高原町にボーディングスクールを設立すべく動く末松さんに、これから求められる教育の形について聞きました。

──神石高原町にボーディングスクールを設立されると聞きました。なぜ教育に力を注がれているのでしょうか?

教育については、誰もがあれこれ好きなことを言っているように思います。ところが「教育には課題が山積みだ」と言いながら、このシステムを変えるために努力をしてきた人は多くありません。

文句は言っているのに変える努力をしてくれなかったということに気がついた時に、そのまま次世代に、この課題を引き渡すのはよくないと考えました。これまで変えることができなかった理由は沢山あるとは思いますが、それは次世代に対し、申し訳ないことだと思います。

いま、文科省認定の全寮制の小学校を作るための準備をしています。全寮制というのは、私が息子を小学校から海外のボーディングスクールに出していた経験に基づいています。

私たち世代の女性は、結婚して子供が生まれると、妻や母として役目を果たし、さらには親の子供として介護もするようになります。求められることが多く、能力があって活躍している人でも限界がきているように感じます。だからこそ、ボーディングスクールという選択肢があるということをシェアしたいんです。

ボーディングスクールの文化が進む英国やスイスも、基を辿れば働く女性のためにできたものです。小学生のうちから海外に出すのは勇気が要ることです。でも日本にある学校ならチャレンジしてみようという家族は存在するのではないかと思います。


準備を進めているボーディングスクールの俯瞰イメージ

──親御さんに新たな選択肢をシェアすることが、お子さんの教育の発展にも繋がるということですね。

例えば、イギリスは教育の輸出国です。世界中がイギリスのカリキュラムを取り入れていますが、結果イギリスの模倣になっていることが多いと感じます。

私たちの学校では、日本の教育の良さをベースに、それを英語で学ぶことができるイマージョン・プログラム(未修得の言語を身につける学習方法の一つ)を取り入れ、日本生まれの、日本らしさのあるボーディングスクールをゼロから作っていきたいです。


NEEDが主催するサマースクールの一コマ。大自然の中でスポーツなど多くのアクティビティを経験する。

その準備もあわせて、2017年と18年にはNEED主催で、5歳から12歳まで(年長〜小6)のお子さんを対象としたサマーキャンプを実施しました。開放的な環境で、英語学習、スポーツ、天体観測などをした子どもたちは、一回りもふた回りの成長したように感じます。

──どんなクラスになるのでしょう?

息子はスイスの全寮制の学校で育ったのですが、彼はよく「日本ではどうなの?」と聞かれたと言います。なにしろ70カ国もの色んな国の子供たちから、「日本のチョコレートで使うカカオの原産国は?」「お正月やクリスマスはどう過ごすの?」など、小学生の時からすごく質問されたみたいです。日本に暮らしているとそこはあまり気にしないですよね。

──逆に日本のことを深く勉強したいと自ら思うようになりそうですね。

学校の先生たちはそれぞれの国の子に、「あなたは自国のアンバサダーです。その自覚を持ってくださいね」と仰っていました。面白いですよね。

──全寮制の魅力、同質すぎない多様性の魅力がわかった気がします。他に、教育において大切だと思われることは何ですか?

自然環境ですね。いまの学校や教室って、ビルのようで無機質じゃないですか。そうではなくて、自然の中で、風景や四季を正しく感じることができる環境で育つことが、最終的にはクリエイティビティに繋がると思っています。スマホやパソコンの画面の中にある世界と、人間がコントロールできない自然の不思議、どちらにも触れられることが大事だと思います。

──自然に触れ、体感することは欠かすことができないと。

そうです。例えば、ゴミ箱にちり紙を投げ入れるのが上手な人がいます。それは子供のころにボール遊びをしているとか、石を投げているとか、松ぼっくりを投げているとか、重さによって距離が変わることを算数として学ぶ前に身体で覚えているからなんだと思います。「このぐらいの紙だと、これ位の力で投げれば入る」という感覚が、無意識に備わっているのではないでしょうか。

塾に通い詰めて、自然の中で遊ばなくなり、部屋にこもってゲームばかりやる生活より、積み重ねた石がどこで崩れるとか、舗装されてない砂利道を歩いた時の足の感覚とか、日当たりの良い所にある枝と日陰にある枝の違いとか……。

理屈を抜きに知ると、それが勉強の中でも体験として分かります。だからこそ、小学校の環境は大切です。それを知ると知らないとでは、描けるイメージが違ってきます。



──それを実現する上で、神石高原は素晴らしい環境ですよね。弥奈子さんが今携わられている事業は、家業もあれば、ご自身がやりたいこともあるし、その中間もあると思うんです。それらのバランスはどう取られているんですか?

全てを自分でやるという感覚はありません。そもそも家業は手伝う予定ではなかったのですが、急に手伝うことになってしまいました。

「それやりたい!」って手を挙げたことはあまりありません。もちろん投げられたボールを受け取った時は、精一杯取り組みます。ただ、そのボールをいつでも受け取れるように常に準備はしています。

同時に自分の出番が終わったら、ボールを誰かに渡すということも考えています。それも自分だけができるのではなく、受け取った人がその人自身で変容していけるような形で渡したいと思います。引き継ぐべき人に引き継ぐ、その準備を常に意識しながら、取り組んでいたいです。



末松弥奈子◎広島県出身。1993年学習院大学大学院修士課程修了後、インターネット関連ビジネスで起業。ウェブサイト制作やオンラインマーケティングに携わる。2001 年ネットPRを提唱する株式会社ニューズ・ツー・ユーを設立。2013年より広島で船/海運/リゾートなどを手がける家業のツネイシホールディングスの経営に関わる。2017年6月より、「世界に開く日本の窓」として日本の現状と世界の動向を120年以上にわたって報道してきたジャパンタイムズの代表取締役会長・発行人。

三宅 紘一郎


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