約210選挙区で実現した野党候補の一本化によって、安泰とは言えない自民党。岸田首相が掲げる「与党で過半数(233議席)」が獲得できても、再び政局になりかねない情勢だ。


野党共闘で追い込まれる岸田氏(C)EPA=時事

 衆院選が10月19日に公示され、12日間の与野党対決が幕を開けた。

 自民党では、菅義偉前首相の退陣で政党支持率が10ポイント近く改善し、「大敗はなくなった」などと楽観視する向きがあるが、事態はそう簡単でない。

 立憲民主党と共産党などによる候補一本化の影響が広がっており、当落線上で苦しむ自民候補が50人近くいると見られる。自民の負け幅が大きくなれば、船出したばかりの岸田文雄首相の求心力に重大な影響が出かねない。

自民党調査で激戦区が50以上

 「かなり気合を入れて回らないと大変だ……」

 自民が衆院選に向けた候補者調整を終え、2次公認を発表した同月15日。首相は党本部で甘利明幹事長、遠藤利明選対委員長と向き合いながら、こうこぼした。

 今回、首相らが候補者調整の基礎資料として使ったのが、党が今年3回行った全選挙区を対象とした情勢調査の資料だ。首相が特に落胆したのは、新政権の誕生後となる10月7〜10日に行った最新調査の結果だった。菅前首相の退陣と、総裁選で政策論争をやり抜いた効果は出ていたものの、立憲と共産が進めた候補一本化の影響で相殺され、与野党候補の支持率の差が数ポイントしかない激戦区が50カ所以上にのぼっていた。

 今回、立憲と共産、社民、れいわ新選組の4野党は市民グループ「市民連合」を介在役に政策協定を結んだうえで、選挙区で緊密な候補一本化の調整を行なった。その結果、全289選挙区のうち約210で、共産が候補を降ろすなどして候補を一本化。政策協定に加わらなかった国民民主党も、4野党と実質的なすみわけを行うケースが増えた。

 2017年の前回衆院選では、野党勢力が小池百合子都知事の率いた「希望の党」と枝野幸男代表が創設した立憲に分裂して争い合い、野党が候補を一本化できた選挙区は全体の2割程度にとどまっていた。それが今回は、一気に7割強まで比率が増えたのだ。

 一般に共産は、各選挙区で支持層として2〜3万票を有しているとされ、一本化に成功した野党候補は純粋に票が上積みできる。

 自民は安倍晋三政権などの下で行った過去3回の衆院選で圧勝したが、足元をみると1〜3万票程度の僅差で勝ち抜けた地盤の弱い議員が多い。一本化の影響で当選が危うい状況に陥った議員は、若手だけでなく閣僚経験者などのベテラン勢にも少なくない。

 立憲・共産は、公示直前まで激戦区の分析を続け、10月上旬にも、25選挙区で共産候補を撤回するなど候補を一本化。結果的に、共産は今回、選挙区の候補者を前回(206人)から半減して105人まで絞り、選挙区での野党共闘を進めた。

与野党一騎打ちで苦戦する閣僚経験者

 効果は如実にあらわれている。

 秋田2区では、前回まで出馬した共産党候補が今回は擁立を見送り、前回勝利した自民の金田勝年元法相と、立憲の緑川貴士氏による一騎打ちが実現。自民の最新調査では、両氏の支持率の差は0.5ポイント未満の僅差に縮まった。

 同じく、前回は自民が希望の党、共産との三つ巴の戦いを制した東京23区は今回、自民対立憲の一騎打ちとなり、自民の10月の情勢調査では、立憲候補の伊藤俊輔氏が自民候補の小倉將信氏に数ポイント先行するようになっている。

 千葉8区では、自民の桜田義孝元五輪担当相が、立民重鎮である岡田克也氏の秘書出身の新人・本庄知史氏に、10ポイント以上の大差もつけられた。

 埼玉8区でも、自民の柴山昌彦元文科相と一騎打ちとなった野党系無所属の小野塚勝俊氏との差が4ポイント程度しかない。

 支持率が急落していた菅前首相が9月に退陣表明した後、自民の政党支持率は前月比で10ポイント近く上昇して4割台半ばとなり、6〜8%の立憲との差が急拡大。自民には一時、「これで衆院選の大敗はなくなった」と楽観視する声が広がった。

 しかし個々の選挙区をみると、2012年に自民が政権を奪還して以降、安定した安倍政権下で比較的楽に選挙戦を乗り越えてきた候補が多く、知らぬ間に地元への浸透度が弱くなっていたケースが多い。

 立憲と共産の一本化は物理的な票の数合わせでしかないパターンが目立つが、与党側も与党側で、地元に強く根差していたり、個性が際立つような候補でない限り、こうした野党の攻勢に簡単に飲み込まれてしまうのだ。

30〜40議席減なら再び政局?

 自民、公明両党は公示前勢力として305議席を持っており、首相が目標と定める「与党で過半数」(233)との差は72議席もある。今回の衆院選で自公がここまで議席を減らすことは考えにくく、自公が下野したり、岸田首相が即座に退陣に追い込まれたりするような可能性は低いというのが、おおよその永田町の見方でもある。

 ただ、仮に自民が30〜40程度議席を減らすような事態となれば、岸田首相の事後の政権運営にも不穏な動きが広がりかねない。もともと9月の総裁選に出馬した4候補のうち、国民的な人気は低いとされてきただけに、来年夏の参院選に向け「岸田首相では選挙の顔にならない」という批判が上がりかねないのだ。

 自公は第1次安倍政権下の2007年参院選に大敗し、衆参の最大勢力が異なる「ねじれ国会」に悩んだ挙げ句、2年後の衆院選で旧民主党に政権を奪われる事態まで追い込まれた。党内には、当時の苦い経験を古傷のように刻んでいるベテランも多い。

 もともと岸田氏は、党内第5勢力の岸田派しか固い支持基盤がない。党内には、首相らが主導した衆院選の候補者調整などに不満を募らせ、「岸田降ろし」を始めようと手ぐすねを引いて待っているベテランらも多いのだ。

 個別候補の足腰が弱ったのは岸田首相のせいばかりではないが、選挙の結果次第では、自民が再び政局の季節に入る可能性もゼロとは言えない。