お通夜やお葬式の席には故人を偲んで多くの人が弔問に訪れますが、中には一度も顔を合わせたことのない人もいて、「この人は一体……」と思うこともあるのではないでしょうか。今回は私が祖父のお通夜の場で、意外な弔問客に出会った経験談をお話しします。

祖父のお通夜で

当時私はまだ大学生で、長く病気を患っていた祖父を父や母、祖母と病院で看取りました。

祖父は8人兄弟の末っ子だったため親戚の数がかなり多かったため、私は父に頼まれて祖父が亡くなったことを何人もの親戚に電話で連絡し、通夜と葬儀の日程を伝えました。

「連絡をありがとう、私も最近病気が見つかって、通夜も葬儀も行けそうにないので代理の者を行かせます」
祖父の一番上の兄に電話をするとそう言われたので、「お大事になさってください」と伝えました。
「あ、誰が代理で来るか聞いてなかったな……まあ来たらわかるか」
私は祖母に代理の人が来る旨を伝え、他の親戚に電話をしたのでした。

そして翌日の夜、祖父のお通夜が始まりました。
久しぶりに会う親戚も多く、皆祖父との別れを惜しんで涙を流しています。
「おじいちゃんのお兄さんの代理って誰だろう……」
そう思いながらも、正直に言うとほとんどの親戚が長年会っていない人ばかりで、誰が誰なのかもよくわからない状態でした。

突然現れた男性

お通夜はしめやかに執り行われ、順番にお焼香をしている時でした。
「すみません、遅くなりました」
突然斎場のドアが開き、1人の男性が入ってきたのです。
「えっ!?」
最初にその男性に気付いた親戚が、妙な声を上げてその男性と祖父の遺影を何度も見比べます。
「まさか、そんな!?」
焼香の列に並ぶ男性の周りがなにやらざわつきはじめたため、私はふとそちらに目をやりました。

「お、おじいちゃん!!!」
なんとそこには亡くなったはずの祖父が、きちんと喪服を着込んで立っていたのです。
「ウソでしょ?」
慌てて棺桶の中を見ると、やはりそこには祖父が安らかな表情で横たわっています。しかし全く同じ顔で同じ髪型、頭髪のハゲ方まで全く同じ男性が、焼香の列にいるのです。
「父さん!?」
私の前にいる父も、驚きのあまり目を丸くしています。
「え、おじいちゃん生き返ったの?」
近くにいる従兄妹たちも、信じられないといった表情で祖父そっくりの男性を見つめています。

他の兄弟たちもそこそこ祖父には似ているのですが、その男性は他の兄弟たちとはレベルが全く違い、本当に瓜二つという表現がぴったりなほどでした。

しかも祖父の兄弟たちまでその男性を見るのは初めてといった様子なのも、私には不思議でたまりませんでした。

男性の正体とは

ついにその男性が焼香をする番になり、男性は親族席に向かって深々と頭を下げます。近くで見てもなお、祖父と瓜二つの顔に親戚一同がぽかんとしてしまいました。

「すみません、ちょっといいですか?」
通夜の後、そっと帰ろうとするその男性を私が引き止めました。こんなに祖父とそっくりな人が一体誰なのか、気になったからです。

「あの、祖父とはどういった……」
私の言葉に、その男性は祖父と全く同じ顔で微笑みました。
「〇〇さん(祖父の一番上の兄)の代理でやってまいりました。故人とは双子の兄弟という関係になります」
「え、おじいちゃん双子だったんですか!?」
その男性が言うには、祖父とその男性は双子として産まれてきたものの、祖父の故郷では双子は縁起が悪いと言われていたため、その男性は産まれてすぐに養子に出されたというのです。

つまりその男性は、祖父の生き別れの双子の弟。

祖父の一番上の兄はずっとその男性のことを気にかけていて、連絡を取り合っていたため、今回祖父の訃報を聞いて代理で来てくれたのでした。

「全然知らなかった……」
いつの間にか傍にいた父も、祖父が双子だったことを知らなかったそうです。

なおその男性は案外近くに住んでいたため、翌日の葬儀にも参列してくれることになりました。

そして事情を知らない参列者の「亡くなった人が生き返った!」という声が斎場に再び響き渡ったのでした。

双子は遠く離れて暮らしていても、なぜか同じ髪型や体型になっていることがあると聞きます。祖父とその男性も全く同じ髪型と体型だったので、双子の強い絆を感じました。

※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

ltnライター:齋藤緑子