介護施設には、さまざまな高齢者の方が入居されています。そして週末やイベント時には、ご家族が面会に来ることも少なくありません。このお話は筆者の友人・S美から聞いたS美が勤務する介護施設でのエピソードです。

ルール

私は認知症の方が入居する高齢者施設で、介護職として働いています。
私の担当フロアには20名ほどの方が入居されていて、職員は2〜3人の入居者の方を専門に担当していました。

高齢者施設は病院やホテルとは異なるので、安全に生活するためのルールが定められています。
入居者の方はもちろん、面会に訪れるご家族にもルールを守ってもらう必要がありますし、高齢者施設であるということを理解してもらう必要があるのです。

仲の良いご家族

私が担当しているTさんは、認知症が進んでいて、ご家族の顔もわからなくなっていたのですが、仲の良かったご家族らしく、毎週のように息子さん夫婦やお孫さんたちが面会に来ていました。

Tさんのご家族はとても良い人たちなのですが、Tさんのことを大切に思うがゆえに、さまざまな要求をしてくるのです。
「この部屋は臭いが強いから、芳香剤を置いてほしい」
「これはおばあちゃんが好きだった和菓子だから食後に食べさせてほしい」
「寝具の汚れが気になるから全部新しい物に変えてほしい」

など、できないことを要求してくることが多く、私は少々困っていました。

トラブル

ある冬のことです。
Tさんの面会に来た息子さんが「こんな掛布団じゃ寒いだろうから、あたたかい羽毛の布団に変えてほしい。」と言い出しました。

施設内は空調が効いているので、寒いということはありません。
そのことを私が説明しても、息子さんは「これじゃ母がかわいそうです!」と大騒ぎ。
終いには施設長が対応するトラブルにまで発展してしまったのです。

その後

その日は施設長や担当のケアマネージャーが対応してくれて、何とかトラブルは解決しました。
私はその後、Tさんの息子さんに入居時に説明したルールを改めてお話し、理解していただけるようにお願いをしました。

特にTさんには異食(食べ物ではないものを食べてしまうこと)の傾向があったため、お部屋にさまざまなものは置けないとお伝えしたのです。

それでも、Tさんの息子さんは食べ物の差し入れを持ってきたり、花や観葉植物などを持ってきたりし続けたため、最後にはトラブル防止の観点から、Tさんへ退去勧告が出される騒ぎになってしまいました。

理解

「退去勧告は困る」となった息子さんは、そこでようやくルールを守ってくれるようになりました。お母さんのためを思って、息子のTさんは色々と要望を出していたのだと思います。しかし、未だに文句を言われることが多いので、私はTさんの面会日には密かにドキドキしています。

※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

ltnライター:RIE.K