『湯を沸かすほどの熱い愛』で第40回日本アカデミー賞最優秀助演女優賞を受賞。その後も多くの映画賞を受賞するほか、『とと姉ちゃん』『おちょやん』など、ドラマでも幅広い役に挑戦している杉咲花さん。2024年3月1日公開の映画『52ヘルツのクジラたち』では、主人公の三島貴瑚役を演じる。両親からの虐待や搾取に苦しみ、大きな喪失をも経験する難しい役どころに挑んだ杉咲さんが、作品を通して伝えたい想いを語る。 (構成◎碧月はる 撮影◎米田育広)

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原作を購入したタイミングでのオファー 

町田そのこ氏による長編小説『52ヘルツのクジラたち』(中央公論新社)が原作である本作では、虐待やヤングケアラー、トランスジェンダー当事者が晒される差別など、多くの社会課題が描かれている。杉咲さんが本作の主人公・三島貴瑚役のオファーを受けたのは、驚くべきタイミングだった。 

本作で牧岡美晴役を演じた小野花梨さんとは、もともと友人なんです。読書家の花梨に、ある日おすすめの本を聞いたら、原作である町田そのこさんの『52ヘルツのクジラたち』を教えてくれて。その時、「主人公の貴瑚役は、花に合っている気がする」と言ってくれていたのですが、まさかそこから本当にオファーをいただけるとは思っていなかったので、驚きました。 

原作を購入したタイミングでお声がけいただき、さらには作品をすすめてくれた花梨に貴瑚の友人である美晴役のオファーが届くという――運命めいたものを感じる瞬間が多い作品でした。

原作では、「三島貴瑚」という人間が痛みを感じながらも、自身も周りの誰かを傷つけてしまう姿が描かれていて、これは現実社会でも起きている話だと感じました。貴瑚には、少々がさつなところがあるのですが、不器用ながらに起こした行動が、根っこにある気持ちを相手に響かせられるような瞬間というものがあるのだな、と感じたりもしました。貴瑚という人物に思いを馳せていると、善と悪の境界線はとても曖昧であることを実感しますし、ハッとさせられることが多かったです。