成績のよくない子に見られる傾向

小学校5年生の、学業成績のよい子どもとよくない子どもを比べた研究では、成績のよくない子どもたちが、自分にとって、ある学習が容易か困難かの判断で失敗しがちであることを見出しました*3。

彼らは、たとえば次のような二つの文を子どもたちに見せて、どちらが覚えやすいかを尋ねました。 

(1)力持ちの男が、自分の友人がピアノを動かすのを手伝った
(2)力持ちの男が、朝食の間に新聞を読んだ

すると、成績のよい子どもは(1)と答え、成績のよくない子どもは(2)と答える傾向がありました。

文の長さだけに着目すると、(1)より(2)が短いのですが、(1)の方が(2)よりも理解しやすく覚えやすいと考えられます。時間が経っても、思い出しやすいでしょう。

それは、「力持ちであること」は、新聞を読むことよりもピアノを動かすことと密接な関連があるためです。

成績のよい子どもたちはこのことを正しく判断できましたが、成績のよくない子どもたちは、うまく判断できなかったのです。なぜ(1)が(2)よりも理解しやすく覚えやすいのかという理由を、彼らはよくわかっていませんでした。

文に含まれる個々の情報を関連づけ意味づけることを、精緻化リハーサルと呼びます。ある内容を覚えるためには、この精緻化が、きわめて重要です。

(1)の文では、「力持ちなので、重いピアノを動かす手伝いができた」という具合に、適切な精緻化をしやすく、わかりやすいのですが、(2)の文はそうではありません。
つまり、与えられた文そのものにおいては、なぜ力持ちの男が、朝食の間に新聞を読んだのか、そこに納得できる関連性が見出せません。そのため、子どもたちが自分で苦心して関連づけを行う必要があり、(2)の理解・記憶が(1)よりも困難になるわけです。

このことを、成績のよくない子どもたちは十分にわかっていないように見えます。彼らには、あまり考えずに、与えられた文をそのまま繰り返して丸暗記(維持リハーサル)しようとする傾向があるようです。そのため、文の長さのみに着目して学習の容易さを判断してしまい、短い文の方が覚えやすいと考えるのです。


成績のよくない子どもたちは、与えられた文をそのまま繰り返して丸暗記(維持リハーサル)しようとする傾向があるようです(写真提供:写真AC)