時事問題から身のまわりのこと、『婦人公論』本誌記事への感想など、愛読者からのお手紙を紹介する「読者のひろば」。たくさんの記事が掲載される婦人公論のなかでも、人気の高いコーナーの一つです。今回ご紹介するのは大阪府の70代の方からのお便り。70歳を過ぎ、小さな出会いも大切にしたいという思いから、町で出会った人に話しかける《声かけ運動》を始めたそうで――。

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《声がけ運動》始めました

「袖すり合うも他生の縁」というけれど、70歳を過ぎ、これからの人生のなかで一体あとどれだけの人と縁を持てるだろうと考えた時、どんな小さな出会いも大切にしようという思いから、《声がけ運動》を始めた。

町で出会った人とちょっとしたきっかけをつかみ、不審がられない程度に話しかける。なかには怪訝な顔をして去っていく人もいるけれど、大抵はみな笑顔で応じてくれる。

先日ファストフード店で隣に座った婦人。ずっと難しい顔をしてスマホをいじっていたので、この人に声をかけるのは無理かなと思っていた。ところが彼女が席を立った時、上品な紬(つむぎ)柄のコートが目に入ったのだ。

私が思わず「素敵なコートですね」と声をかけると、びっくりされつつも嬉しそうに、「これ、姑の遺した着物のリメイクなんですよ」と教えてくれた。

捨てるはずのものでもちょっと手を加えることによって、まったく新しいものに生まれ変わっていく喜びは、私も少しは知っているつもりである。きっとこの婦人も、お姑さんの遺した着物をひと針ひと針縫いながら、新しい生命を吹き込んでいったに違いない。

何より嬉しかったのは、最初の印象とはまったく違う穏やかな表情で話してくれたことだ。ほんのひとことふたことの会話だったけれど、「ああ今日もいいご縁が持てた」と私の心は温かいもので満たされた。彼女もまた、ひととき幸せな気持ちでいてくれたことを願わずにはいられない。

この先二度と会うこともないであろう人と、一瞬でも繋がりを持てたことに感謝して、《声がけ運動》を続けていこうと思う。

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